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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
27/35

残酷すぎる真実

 何もかも真っ暗。何も見えないこの目も。自分を包むこの空気も。家の中も。外の景色もきっと闇。もう何もかも消えてしまえばいい。何もかも壊れて何もかもいなくなってしまえばいい。

 

 握っていた暖かな手は粒上の何も発さない無の灰と変わったその時からエリィの心は死んでしまった。



「なんで、なんでよ」



 エリィは扉に体重を預けて丸まっている。視線の先にはキスリング――ではなく、灰が散らばっている。


 昨日まで普通の生活が続いていた。いつもみたく話して、戦闘訓練して、一緒にご飯食べて、そんな生活がこれからも続いて行くモノだと思っていた。少なくともモグラを引退したキスリングが突然死ぬ訳が無いと思っていたから、今朝起きた時に灰になっていた時は信じられなかった。半ば魂が抜けつつあったエリィは、亡霊を追うように家を徘徊したがキスリングは見当たらなかった。その代わりに一つのメモが置いてあり、




『ごめんな。エリィ。私のリミットは明日で最後だ。多分、このメモを読んでる時にはもう私はいないだろう。お前と出会った二か月、本当に本当に楽しかった。間違いなく私の人生で一番の月日だったよ。きちんと彼とも仲直りするんだぞ。ではな。キスリングより』




 間違いなくキスリングの筆跡であり、それは否定したかった真実を確定させてしまう物であった為それを読んでからエリィの記憶は曖昧であった。


 記憶が戻って辺りを見渡すと家の中は荒んでおり、顔はぐしゃぐしゃで手には灰を握っていた。

 しばらくして誰かが扉越しに声をかけて来たが、エリィは返事をしなかった。それからリーリスが尋ねてきた。リーリスはノアスが心配していると伝えたが、エリィは何も言わなかった。


 どうでもいい。もう何もかもどうにでもなってしまえばいい。


 もう放ってほしいのに。放っといて欲しいのに。



「エリィ。聴こえてるか」



 また。男の人の声。最初に来た人と同じだ。



「えっと、俺だ、ノアスだ」



 エリィは身体を小さく丸めて両手で耳を塞いだ。



「キスリングの事。聞いた。というか、彼女が俺の所に来た、二日前」



 その名前を呼ばないで。



「自分のリミットがもう二日なのを教えてくれた」



 何でこの人には教えたの。



「お前の事よろしく頼むって」



 辞めて。もう関わらないで。



「お前とキスリングの関係とか全然知らないけど、少し外に出てこないか? えっと、何か元気付けられるかもしれない」



 ――ッ!!!



 エリィの中で何かが切れた。それは心の中で留めていた赤い感情を解き放つモノである。

ガチャ。


 扉はゆっくりと開かれる。



「エリィ……!?」



 扉が開く音と同時にノアスの表情が晴れたのだが、直後エリィがくしゃくしゃの顔をしてノアスの胸にしがみついたものだから表情が曇る。



「ねぇ……んで……何で……何であなたなの?」



 エリィの言葉は重々しくとても小さな声だった。けれどそんな小さな声には赤々しい尖った色が宿っている。



「何て言った?」


「ラリムとイース」


「――!? 急にどうしたんだよ」



 ノアスは理解出来ず眉を顰める。



「あなたが一緒に冒険した人たち、ラリムとイース何でしょ?」



 エリィは顔を沈ませており表情が判らない。


 雨が段々と強くなっていく。


「そ、そうだけど」


「あれ……なの」



 エリィの声音は雨のようにとても冷たい。



「わたしの……わたしの両親なんだよ」


「――は」



 ノアスは手に持つ傘を落として声にならない声を発した。



「ラリムは、ママはいつも優しくわたしを褒めてくれたわ」



 ノアスは一歩後ろに下がる。



「イースは、パパはいつも笑ってて、わたしの頭を良く撫でてくれたの」


「待て。待ってくれ。何を、何を言って……だって、お前とあの人たちは決定的に違う」



 ググッ! エリィは奥歯を限界まで噛みしめて、「わたしは! わたしの髪色は青色よ……元々。最初に呪児について話した時わたし言ったよね? 髪色が変わったって。わたしは青髪からこの銀髪になったのよッ!」



「そんな、そんな……」



 ノアスが一歩後ずさる。


 雨がノアスとエリィの身体を冷やしていく。



「わたしの両親がいなくなったのは七か月前。理由は簡単だった。わたしの呪いを治す為。留めたけど無駄だったわ。だからわたしも後を追う形でモグラになったの。呪いを治すため、そしてママとパパを探す為になったの。けどね、全然見つからなかった。何故か分かる?」



 ノアスは言葉を失う。



「何故か分かる!?」



エリィが声を荒げる。



「ダンジョンで死んだから」


「そうよ。そんな事考えたくもなかった! けど、けどね、あなたが教えてくれたの。あの時に。それだけだったら良かったのに。死んじゃった事だけだったらまだ良かったのに。何で、何で、あなたなの。ママとパパの最後に居たのはあなた何でしょ!? ノアス君」



 エリィは掴んでるノアスの胸ぐらにより力を入れて、苦しむ表情で叫ぶようにノアスに顔を向けた。瞳の奥からノアスを訴えかける。 



「……ああ」



 ノアスの声は震えていた。


「何で助けなかったの? 何で、一人で帰って来たの!? あなたみたいに強い人なら何とか出来たんじゃないの!? ねぇ、答えてよ!!!」


「俺は……俺は」



 ――私、ダメみたい。

 ――生きてくれ。俺とあいつの分まで精一杯。



 ラリムの弱弱しい笑みと最後の表情。


 イースの後を託すと言った精一杯笑った顔と最後に見た後姿。


 二人の言葉が、顔が、思い出がノアスの脳裏に浮かぶ。


 ノアスはエリィから逃げるように一歩後ずさる。


 ノアスの呼吸が段々と荒くなっていく。



「なんで、何であなたなの。何であなたが生き残ってしまったの!?」


「――ごめん」



 半ばノアスの意識は保てていなかった。信じたくない事実と目の前で姿を現す真実。



「……ック」ノアスの言葉にエリィは奥歯を噛みしめて叫ぶ、「この人殺しッ!!!」




 人殺し。人殺し。人殺し。

 その言葉が永遠とノアスの脳を駆け回る。



「ごめん、なさい」



 ノアスは力なき言葉を口から漏らす。


 エリィは掴んでいた手を離した。雨に濡れてびしょびしょで表情の解らないエリィは、静かにノアスから離れて家に戻って行く。


 ノアスはしばらく雨に打たれながらその場を動くことが出来なかった。



「本当に最低だ――」



 扉越しにエリィは呟いた。

本日から一話投稿です。

同時に佳境に入りつつある一章

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