点と点
二日後。
カーテンを開けると生憎にも雨が降っている。
どんよりした街の空気に何か嫌な感じのモノが混ざってノアスの肌をヒリヒリと刺激する。
ノアスは右手に持つ紙切れに目を通す。
綺麗に畳まれていた紙に一つの住所が書かれている。
キスリングとエリィの家。
二人が暮らす家の住所を二日前キスリングから受け取った。
――私が死ぬ日に寄って欲しい。
受け取る時にキスリングがノアスに言った言葉である。
多分、エリィを励ましてやって欲しいということであろう。
行くか悩んだがキスリングと約束したので、ノアスはその場所に向かった。
ふぅー。家が見えてノアスは大きく息を吐く。
キスリングはもうこの世にいないだろう。ノアスの視界の先にある家からはどことなく負のオーラが辺りを覆っていた。
「よしッ」ノアスは覚悟を決めて、「おい、エリィ居るか? えっと、こんにちは! よし、ダンジョン潜るか! よ。エリィ様! …………違うな」
ノアスは様々な声音、表情で何と声をかけるべきか練習する。しかし、しっくりくるものが無かったので、色々考えながら扉の前まで歩いた。
扉が目と鼻の先になった途端重みというか、プレッシャーのようなモノをひしひしとノアスは感じた。けれどここで止まっていても何も進まないので、「おい、エリィ――」
「……!?」
扉越しに鼻をすする音が聴こえた。扉のすぐ先。きっとエリィは扉に背を預けて座っている。
「あ……」
「……」
ノアスの言葉に対して返って来たのは沈黙と時々抑えようとしている啜る音。
「また、来る」
今の自分に何が出来るのか。きっと出来ることは無い。
そう思ったノアスは静かにその場を立ち去った。
結局何をすれば正解だったのか。
考えても判らない答えにノアスは苦しんでいた。
無表情な地面も雨のせいか、どこか悲しんでいるように見える。
「あれ、あんた何やってるの?」
前の方からいつか聞いたことのある声がしたので、ノアスはチラッと顔を上げた。
「白狼もそんな浮かれない顔をするのね」
「リーリス?」
そこにいたのはリーリスだ。綺麗な青髪に整った顔。最初の頃とは違ってとげとげしい敵対心は感じられない。
「何かあったの?」
リーリスに尋ねたかった事があってずっと探していたのに何故か今は聞く気が出ない。
「ちょっとな」
「ふーん。エリィのこと?」
「え」
心の中でも覗かれているのか、リーリスはまるで答えを知っているかのように言う。
「本当あんたたちって分かり易いわ。あの子がどうしたの? 良かったら相談乗りましょうか? ノアス」
リーリスは仕方ないと腰に手をあててノアスに言う。
ノアスはリーリスの言葉に頷いた。
二人は小さな酒屋に入った。時間はまだ浅い為人は少なく、落ち着いて話が出来る空間だ。
「で、どうしたの?」
「実は」
ノアスはリーリスにキスリングの事、二日前に起きた出来事、そしてつい先ほどエリィの家を訪ねた事を話した。
「……そっか」リーリスは戸惑いのあまり言葉を詰まらせる。「キスリングさんが」
「知り合いだったのか?」
「当たり前でしょ。あなたよりも長くエリィと付き合ってるのよ? まあそこまで深く話したことは無いけど」リーリスは眉間に皺を寄せて未だに信じられていない様子だ。「あれ、待って。じゃあエリィはキスリングさんのリミットを知らなかったって事だよね」
「ああ。少なくても二日前の時点では言ってないって言ってたな。言う気は無さそうだったから、多分最後まで言ってないと思う」
「じゃあ、何でエリィは最近元気が無いの?」
リーリスは疑問を浮かべてノアスに尋ねる。
「あー、俺だけじゃなく、お前にも――ッグォッ!?」
腹に突然槍のように鋭い肘打ちがノアスを襲った。
「〝お前〟?」
「り、リーリス」
「はい。お前は違うわよね?」
リーリスは何と言うべきか判らない無心の笑みをノアスに浮かべる。正直恐ろしい。
「す、すまない。で、俺だけじゃなく、リーリスにもそんな感じだったんだな、エリィ」
「ええ。あなたたちを救助した時に会ったけど凄く暗かったわ。一言言われてそれっきり。あんた何かしたんじゃないの?」
やはりあの日からエリィは元気がないようだ。
「いや、してない……と思う。あの時身体を休めてた俺とエリィが話したのは、過去の俺のパーティーの事や――あっ」
「どうかしたの?」
突然会話を止めてしまったのでリーリスが眉を顰めた。
この状況。聞くなら今か?
ラリムとイース。そして残された娘。
リーリスがその子なのか、聞くチャンスである。けれどエリィの事もある。今ここで話して、もしリーリスがあの人たちの娘ならどうしたらいい?
それでもここまで言ったなら聞いた方が良いだろう。いつ死ぬかも判らないのだから。
「あの、よ」ノアスは重い口をゆっくりと開く。「リーリスの両親って行方不明なのか?」
「え――」
リーリスは酷く驚いている。
先程とは違う、重々しく今にも潰されそうな空気が二人を覆っていた。小さな酒屋の隅っこだけ別世界のように隔離されている。
「……そうよ。私の親はどちらも行方不明なの」
遅くなりました。
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