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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
24/35

残酷な現実

キスリングは苦みが強いコーヒーを一口喉に通してから深いため息をつく。



「今日お前が話してたのが例の子か?」


「……うん」



 キスリングの言葉に下を向いたまま元気の無い声音でエリィは頷く。


 その言葉に再び深いため息をついたキスリングは、「お前の気持ちもわかるけど、きちんと話した方が良い。彼は呪児であるお前を特別視しなかったんだろう?」



「……うん」



 エリィはノアスとの出会いを思い出す。


 どこかのチンピラに絡まれている時にノアスが通りかかったが、ノアスはそれを無視して立ち去った。その後エリィはノアスを探し出し、共にダンジョンに潜って欲しいと散々言いやった。おかげで一緒にダンジョンに潜り、オーガを倒してその後も色々あったがノアスは一度たりともエリィに同情する行為はしなかった。


 呪児であり、その呪いで目の見えないエリィは会う人会う人に同情された。それはリーリスやジョイ・ジョイも例外ではなかった。


 エリィにとって同情という行為はあまり喜ばしい事ではない。


 だからこそ目の見えない自分を無視した行為が驚きであり、ノアスに対して興味を抱いた瞬間であった。


 エリィは一人の人間として一人の勇敢なモグラとして認められ接して貰いたいのだ。

ノアスには感謝してるし純粋に好きである。もっと一緒にダンジョンを潜って、もっと色々と会話をして、誰も見た事のない景色を一緒に見たいとエリィは思っていたのだ。



「しょうがなかった。とは言わないが、悔やんでるという事は彼にも思う所があるのだろ?」


「……」



 キスリングは袖で隠された腕を擦って、「私だっていつまでもエリィの隣には居てやれない。だから――」



「うるさいっ! キスリングには判らないよ。わたしの気持ち!」



 エリィは立ち上がって声を荒げる。赤い感情を吐き出したエリィは瞳に涙を浮かばせて家を出て行った。



バタンと勢いよく開かれた扉を見つめながらキスリングは、



「エリィ、乗り越えるんだ。いつまでも私は居てやれない」



 キスリングは切なそうに呟く。





 ※




 ノアスが目を覚ましたのは扉を叩く音である。


 静かにコンコンと叩かれた扉に、もしかしてとノアスは心を躍らせる。


 ノアスは起き上がり扉をゆっくり開けると、



「初めまして、だな」



 そこに立っていたのは赤髪の綺麗な女であった。



「えっと……」


「そりゃ戸惑うか。私はキスリング。彼女……エリィの母親代わりの身だ」


「初めまして」



 どのような態度がいいのか、何と返せばいいのか判らなかったノアスは頭をボリボリ掻きながらとりあえず挨拶を交わす。



「で、君に話があるんだ。よければ少し、風に当たりながら散歩しないか?」



 キスリングの言葉に曖昧に頷いたノアスは、涼しい風が吹く夜の世界へと出ていく。



 人気(ひとけ)のない川辺を沈黙と共に二人は歩く。キスリングは川の方を見ながら黙々と歩き、ノアスは無表情の地面に視線を置いて歩いている。



「君は、ノアスと言ったか」


「ああ」


「ノアスと呼んでも?」


「別に良いけど」


「ならノアス。突然だがエリィの事どう思う?」



 キスリングは相変わらず川の方を向いている。


「は!? どうって別に普通だよ」


「普通か……その言葉がきっとエリィにはどうしようもなく嬉しい言葉なのだろうな」


「は?」


「君はエリィの呪いについて何か感じた事は?」


「呪い? ああ、そう言えばそうだったな。まあ、目が見えない事を俺がどう思うとか特にない。あいつはあいつなりに頑張ってるだろうし、あいつ以外の奴がそれについて触れるのは何か違う気がする」



 ノアスの言葉を聞いてキスリングは小さく笑みを零す。「そうか。だからエリィは泣く程辛いのか。全く残酷なものだな。運命という奴は」



「さっきから何を言ってる。というか、あんたがエリィを育てたのか? 結構懐いてる感じに見えたけど」


「なんだ、嫉妬か?」



 キスリングは意地悪そうな顔でノアスに言う。



「ちげーよ。全く何なんだよ、あんた」


「ハハ、冗談さ。まあそれを含んで少し過去の話をしてもいいかな? 私とエリィの出会いを」



キスリングはノアスの言葉を聞く前にゆっくりと口を開いた。






キスリングがエリィと出会ったのは二か月前の事である。


元々モグラであったキスリングは過去に深い傷を負ってモグラを引退した。


それによって毎日が退屈となったキスリングの前に現れたのがエリィである。


 彼女は噂に聞く呪児であり、視界を失っていた。そんな彼女は人を探す為に無茶にもダンジョンに行くからモグラになったとキスリングに説明するものだから当時はとても驚いた。


 しかし彼女は真剣な表情であり、その表情からキスリングは過去の自分と照らし合わせて修行をつける事を約束する。


 呪児の唯一の恩恵でエリィには途轍(とてつ)もない才能があり、キスリングが密かに会得していた魔術と呼ぶべきか不明なあやふやな種的な物を教えた。


 それから数日で彼女は魔術の初歩を会得し、気付くとあらゆる魔術を扱えるようになっていた。

 共に食事をし、共に修行し、共に出かけて、喧嘩して笑って様々な苦楽を共にする事で二人には親子のような絆が芽生えた。


 エリィがダンジョンに潜る経緯や、自分の目的。それらを聞いたキスリングは自分の最後の役目として一人前のモグラへとエリィを育て上げた。





「と、まあこんな感じだな」



 懐かしむようにキスリングが言い終える。



「ふーん。そんな経緯なんだな。で、あいつがダンジョンに潜った理由って何なんだ? 前にその話しをしたけどその時は目を治す為とか言ってたな、それだけじゃないんだろ?」



 ノアスの言葉に真剣な表情へと変わったキスリングは、「それは私からは言えない」


 キスリングの言葉を聞いてノアスはイラつき、



「あのよ、さっきから俺に何を言いたいんだ? 長々とあんたとエリィの話とか、エリィの事どう思ってるのか、とか意図が全然読めないんだが。帰っていいか?」



 ノアスは尖った口調で言った。



「すまない。久々でな、君のような者と話すのは」申し訳なさそうに笑って、「じゃあ本題と行こうか」キスリングは袖をまくって左腕を突き出した。


「あんた、それ……」


「そう。私の残りリミットは後二日。もう死が近いんだ」



 平然とキスリングは言う。



「あいつには」


「言ってない」


「は!?」


「エリィに言ったらきっと無茶をするだろう。私のことであの子が傷つくのは違う」


「でも」


「いいのさ。あの子は私の希望なんだ。一度の油断で大きな怪我をして達成出来なかった私の夢。欠片を全て集める事。いいや、今じゃモグラ全ての夢でもあるか。それをエリィには達成して欲しい」



 キスリングは死への恐怖を全く感じさせない優しい表情を浮かべた。



「待ってくれ。そんなのあいつが可哀想じゃないか。あんたに懐いてるなら尚更。突然当たり前だと思ってた日常が消える悲しみを、恐怖をあんたは知ってるか!?」


「君に言われると説得力がある言葉だな。だからこそ、君にお願いしたい」キスリングは一歩前に出てノアスの肩を掴む。「エリィを頼む。彼女はまだ子供なんだ。本心から受け入れてる君にしか頼めない」



 キスリングはとても真剣であり、瞳の奥に決意のようなモノが見えた。



「頼むって、どうしたら」


「一緒に居てやってくれ。きっとこの先自分の過去を君は憎しみ恨むだろう。それでも乗り越えて欲しい。わかってあげて欲しい。ついさっき会ったばかりで図々しいと思うが頼む――エリィをよろしく頼む!!」



 キスリングは先程までの余裕ある声ではなく、心の底から叫ぶようにノアスに言った。その声音には涙が込もっていた事をノアスは感じ取る。


 自分の死よりエリィの未来を心配するなんて。


 ノアスはキスリングに不思議な感情を宿す。


 命に代えても自分を救ってくれた二人がキスリングに重なった。 



[――わかった」



本日はここまでです!

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