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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
18/35

タイムリミット

 未だに息が白くて寒いが、しかしそれを気にする程、皆元気はない。


 あれからノアスが一体、エリィが一体、リーリスたちで一体。途中ノアスとエリィが加勢したこともあり、何とか八階層の主である三体のムカデを討伐する事に成功した。


 決して楽な戦いではなかった。むしろ想像以上の死闘によりダンジョンに潜ったメンバーの半分は白き灰に変わっていた。


 何とか勝利を収めたノアスたちは尻餅をつき、息を整えるために座り込んでいる。



「あの」



 こげ茶色の地面から視線を上げたノアスの前に立っていたのはリーリスとエリィであった。

 リーリスはもじもじして何かを言いたそうである。



「なんだ?」


「えっとね」エリィがリーリスの背中を優しく擦る



 ふぅーと大きく深呼吸をしたリーリスは、「あの、ありがとう。助けてくれて」



「お、おう」


「それから今まで酷い事言ってごめんなさい」


「別に、気にしなくていい」



 ノアスはバツが悪そうに言う。



「あなたのことエリィを弄ぼうとするケダモノだと思って……」


「はは……」ノアスは頬を引きつらせ無理に笑みを作る。「ケダモノ、ね」


「でも私の勘違いだった。本当にありがとう。あなたのこと見直したわ」



 リーリスの表情が柔らかくなる。どうやら今回の戦闘で少しはノアスを見る目が変わったようだ。


 ノアス自身使いたくなかったもう一つの力を開放するという、今後を考えると良い展開にはならない事をしてしまったが、状況が状況であったので仕方があるまい。それにリーリスと距離が近寄れたのなら十分メリットと考えてもいいだろう。


 何しろノアスの目の前にいる彼女こそ、ノアスが探し求めていた彼と彼女の娘かもしれないのだから。


 だから、ノアスは口を開いた。どうしても聞かなければならない事があったから。



「一つ聞いていいか?」


「ええ、答えられる質問なら答えるわ」


「なら、リーリス。あんたは、あんたの両親は――」



「おい、お前たち。何してる!?」



「え、なに?」



 背後で誰かが叫んだ。叫び声でノアスの言葉はかき消され、ノアスたちはそちらの方向に顔を向ける。


 どうやら叫んだのは今回共にダンジョンを潜ったメンバーの一人であった。その者は下の階層に続いている道を見ていた。



「ちょっと、あんた達何してるの?」



 リーリスが疲労困憊の身体を無理に動かして一歩前に出た。


 話によるとメンバーの一部が何を考えたのか、さらに下の階層に進もうと言った。ノアスが聞いた声はそのメンバーを止めるモノであった。



「なにって、このまま九階層、十階層……そして十五階層まで行くんすよ!」



 下の階層に進もうとしているメンバーは六人で、リーダー的存在の奴がリーリスに言う。



「十五階層?」



ノアスがポツリと呟く。



「何を考えてるの。状況を見て。みんなボロボロよ。どう考えたら下の階層に行こうってなるの?」


「んなの簡単すよ。十五階層までは気をつければ簡単に行けるみたいですし、そこに欠片階層主が居るんすよ。白狼や孤独姫だっています。今の俺たちなら勝てますよ」


「はぁ? 待って、意味が解らないわ。十五階層まで気をつければ行けるって、どこ情報よ。そんなの聞いたことないわ。それに十五階層に欠片持ちの階層主がいるって何故分かるの?」


「それは……」男はニヤリとイヤらしい笑みを浮かべてノアスに視線を送る。「そうだよな、白狼。あんた後ろでブツブツ話してたよな?」


「……ああ」


「え、そうなの、はく……ノアス!?」


「けど、お前たちじゃ無理だ。例えここにいる全員が生存、疲労が無かったとしても十五階層到達は無理だな。何なら人が多いほど難易度は高くなる」


「は?」


「そもそもお前みたいな雑魚じゃあどんな奇跡が起こったとしても無理だっていう話だよ。そんなに甘くねーんだよ、ダンジョンは」



 グググと歯を食いしばり、苛立ちを噛み殺す男。「良いから行くんだ。ささっと欠片持ちの階層主を倒しちまおう。そうすりゃあ――」



「調子に乗るなよ、雑魚が!」ノアスは溢れ出る怒りを爆発させて、立ち上がった。「んなに甘くないって言ってんだろ。階層主だってダンジョンだって。命を無駄にするな。一度失ったらもう戻ってこないんだぞ」



 ノアスの赤い声音に周りが注目する。



「チッ。お前に、お前に何が解るんだよ!!」次は男が声を荒げて腕を突き出した。「命を無駄にするな? ああ、お前らのようにまだリミットが長いならそう言えるかもな。でもな、俺たちは、俺たちはもう、一週間しかないんだよッ!」



 男の腕に刻まれたモグラとしての証でもある寿命――リミットは七日と刻まれている。



「一週間!?」リーリスが目を大きくさせて驚く。「何でそんなに短いの?」


「笑いたきゃ笑えばいいさ。俺たちはお前たちよりもずっと前にダンジョンに潜っていたんだ。でもな、今よりも装備も情報も少なくて俺たちは低階層でほぼ全滅した。それからビビっちまってずっと引きこもってたんだよ。ひたすら絶望を抱いて死ぬ日が近づいてくるのを目の当たりにして待つ気持ちが分かるか? でも、そんな時だ。欠片持ちの階層主と戦った奴が現れたって聞いたのは。それから孤独姫とかいう人知の到達点に達した新人女が現れた事を知って、その二人が手を組んでこの八階層の攻略にも参加するって情報を聞いて、何とか俺たちも参加した。俺たちにとってはこれが最後のチャンスなんだよ。だから、だから頼む。欠片持ちを倒しに行ってくれ。そんで、そんで欠片の願いで俺たちの寿命を延ばしてくれ!」



 ノアスの寿命は半年。もちろんそれよりも前に潜っている者は数多く居た。ラリムやイースだってそうだ。しかしリミットが残り『一週間』と刻まれたモグラは早々いないだろう。


 だからこそノアスは驚きを隠せなかった。


 命の灯が消えそうなモグラが目の前に立っていることに。



「生憎だが、それは無理だ。あくまで俺も聞いた話だが、十五階層にいる階層主が持つ欠片は『治癒の欠片』っていう名前らしいぜ。叶えられる願いは名前の通り治癒。どんなケガ

も病でも治せる。確証はないが、この情報網を俺は信じてる。だからあんたらの……寿命を延ばすっていう願いは無理だ」ノアスはキッパリと言った。



 変に希望を与えてはより彼らを絶望させてしまうかも知れないとノアスは思ったのだ。



「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だあああ!!! い、いいさ。お前らにとって俺たちがどうなっても関係ないもんな。八階層の主討伐っていう目標はもう達成された。ここでパーティーは解散だ。どうせ生きられても一週間の命。俺たちの報酬はあんたらにやるぜ」


「待ちなさい。あなたたちはこれからどうするの?」


「どうする? 今の話の流れで判るだろ。こうするんだよっ!」



 男は荷物を探って煙玉を地面に叩きつけた。



「ちょっと」



 男たちが立っていた場所に白い煙が立ちこみ、煙が止む頃には彼らの姿は消えていた。



「まさか……」


「走ってる」



 ノアスの言葉にエリィが呟く。



「くそ。先に行きやがったのか」



 ノアスが舌打ちをする一方、隣でエリィが仮面を押さえて意識を集中させる。



「……うん。六人みんな走ってる。ケガしてる人が二、三人いるみたい。それとこの道、凄く長く続いてるよ」


「てことは、そのまま十階層に続いてる可能性があるな」


「怪我人もいるし、疲労だって溜まってるはず。ねぇ、本当に十階層から十五階層まで簡単に行けるの?」



 リーリスがノアスに尋ねる。



「いや、簡単では無い。ただ他の階層より音にさえ気を付ければ比較的安全に行ける。十階層から十五階層に住んでる魔物は、音に敏感な習性なんだ」


「そう……」



 リーリスは眉を顰める。



「もしエリィが言う通り、走ってるんだったらすぐに餌食になるだろうな」


「わかった。なら救助班を作りましょうか」



リーリスがそう呟くが周りのメンバーは口を結んでいる。それだけじゃなく反発の声すら上がった。そして一つの反発が生まれると二つ……三つとそれらはやがて無数の声となった。


リーリスはそれを否定しない。それもそうだ。彼らは見捨てられても仕方がない行いをしたのだ。例えそうじゃないとしても疲労困憊の中、今以上に過酷な階層に行きたがる者などいないに決まっている。それを知っているからこそ、リーリスは何も言えなかった。


けれど見捨てるという選択を選ぶのは今回のリーダーとして、リーリスの人間性がそれを許さなかった。


 だからリーリスは一人で行こうと覚悟を決めていた。



「救助班何て必要ない。俺が行く」


「え、あなた独りで?」



 名乗り出たのはノアスだった。



「俺は十五階層まで行った事がある。独りでも十階層なら潜ってるから色々と知ってる」


「でも、流石に独りじゃ」


「大丈夫だよ。リーリス。わたしも一緒に行くから」


「は?」「え?」



 リーリスの肩をポンと叩いたエリィが小さく笑みを浮かべるものだから、ノアスとリーリスは言葉を重ねて驚いた。



「流石にエリィだけだと私が不安なんだけど」


「そうだ。別について来なくていい。というか邪――」


「何か言ったノアス君? わたしも階層主の一体倒したよね? それでも邪魔なのかな?」



 仮面越しで解らないが、仮面の奥からはただならぬ空気が溢れ出ている事が理解出来た。それを悟ったノアスは嫌な汗を背中で感じながら、



「わかったよ。来てくれると助かる」



 本心ではない言葉がポロリとノアスの口から漏れ出た。



「うん。それでよろしい」



 エリィの仮面が若干明るくなった……気がする。



「なら私も。あなたたち二人で行かせる訳には行かないわ。リーダーとして。足を引っ張らないように気を付けるから」


「ううん。わたしとノアス君で大丈夫だよ」エリィは優しい笑みを浮かべてリーリスの手を握る。


「リーリスはリーダーとしてきちんと生き残った皆を導いてあげて」


「エリィ」


「そろそろ行くぞ」


「じゃあ行ってくるね」


「うん。分かったわ。気を付けてね。エリィ、それからノアス」



 リーリスは心配そうな表情を浮かべてエリィの温もりがまだ残っている自分の手を握りしめ、二人の姿を見送った。


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