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終末のダンジョン  作者: .犬
終わりの始まり。
11/35

ダンジョン攻略準備1

 ※※



 ノアスとエリィはボロボロの身体を引きずるように走る。後ろから迫る死を抱いた死神から逃げるようにひたすら前を見据えた。


 しかし二人の足を止めたのは一つの壁だった。


 絶望を噛みしめた二人は背後に迫る脅威に顔を合わせる。


 ノアスとエリィは死を覚悟して、目の前の脅威に立ち向かおうとした時。

――突如二人の身体が軽くなる。



 ※※




 地面を杖で叩くと鈍い音が耳に届いて、やっとそこが歩ける場所だと認識する。エリィの視界は常に真っ暗な闇の世界にあった。晴れの日も、雨の日も視界は変わらず闇のままだ。普通の人にとってエリィは生きづらい存在であろう。その為幾度となくエリィに憐みのこもった声をかける者がいた。それ以外にも弄んでやろうとする愚弄な輩も多かった。そんな輩に絡まれている時にエリィは出会ったのだ。ノアスに。


 直接関わって来た訳では無い。むしろノアスは困っていたエリィを無視して素通りしたのだ。そこが個人的にエリィの嬉しい所でもあった。


 同情せず、目の見えない少女を見捨てた彼はきっと特別視しないだろうと、思ったエリィは何とか接触を図った。


 案の定ノアスはそうだった。一切同情や憐れみを持たずに一人のモグラとして扱ってくれて嬉しくて仕方無かった。


 呪児の呪いで視界を失っているエリィ。だからノアスという人物がどんな顔なのか解らない。けれど想像は何となくつく。


 新しい出会いを迎えるたびにエリィはダンジョンを潜る気持ちが高まって行く。いつか欠片によって呪いが解けた時に見える外の世界。それはきっと素晴らしいモノなのだろうとエリィは確信している。その想いがあるからエリィは独りでも頑張れる。



「ねぇ、聞いてるの、エリィ!」



 バンッと肘をついていたテーブルに何かの衝撃が加わり、テーブルが僅かに揺れた。晴れの日の昼時、エリィはよく行く小さなカフェ店のようなお店の一席に座っていた。静かな雰囲気が売りだった店内は、テーブルを叩く音によって周りの視線を集める事になった。



「は、はい! 聞いてるよ。もちろん」



 エリィは自分がボーっとしていたことに気が付いて咄嗟に返事する。


 孤独姫と呼ばれるエリィにもきちんと友達はいる。その友達はまさに今、エリィの前に座って、心配してたんだよ、と言わんばかりの顔でエリィの事を見つめていた。


 目が見えなくとも、呼吸音や声音。心臓の動悸でその人がどんな状況なのかを大雑把にだが理解出来る。これが呪児であるエリィが授かった唯一の希望の光。



「で、五階層で何してたの?」


「えっと、新しい杖の材料を集めるためオーガの住処に」


「えええ!? またあんな危険な所行ったの! てか何で声かけてくれなかったのよ!?」



驚きを隠しきれず話している彼女は初めて出来た友達のリーリスだ。


 リーリスはとても面倒見の良い女の子である。最初に出会ったのはエリィがダンジョンで困っていた時だった。目が見えなかったという事もあり、リーリスは親身になって助けてくれた。そこから二人は仲良くなり今に至る。



「ごめんって。ちょっと気になる人がいて、その人と一緒に潜って見たかったの」


「気になる人!?」


「あ、ち、違うよ!? そういう意味じゃなくてね。えっとね。えっとー、久々だったからさ、あーゆ人」



 上手く伝えようとするが難しく曖昧な言葉になってしまう。



「何でもいいけど、あいつは誰なの。危険な人じゃないの?」



 リーリスは多分怖い顔をしているのだろうとエリィは思う。その怖い顔には心配する影がきっちりある事もエリィは知っている。



「ノアス君。異名があってね、何と驚き、白狼って言うんだって!」


「白狼!? 白狼ってあの白狼?」


「う、うん。そうだと思う」


「何考えてるの、エリィ!」


「へ?」



 名前も知らない男ならリーリスに否定されても仕方ないと思ったエリィだったが、まさか名前を出しても否定されるとは思わなかった為、エリィの目は点となる。



「白狼の噂知らないの? 愛想ない。冷たい。何考えてるか解らない。狂人とも聞くわ。ダンジョン内の魔物を食べまくったとか、実は世界征服を狙っているとか……」



 リーリスは指を折りながら自分が知っている噂を口にする。



「せ、世界征服?」エリィはさらに点の目となる。「そんな人じゃないよ。ノアス君は。まあちょっと冷たい所もあるけど、優しい人だよ。きっと」


「優しい?」


「うん。あのね、オーガを倒した後に話題になってた七階層のモンスターと出くわしたんだよね。その時、多分だけど結構残酷な光景が広がっていたと思うの。血の臭いとか男の人の絶望の声音みたいなの、聞こえてたし。けどノアス君はそれを隠してくれたんだよね。多分わたしのことを思って」


 リーリスは眉を潜めて半信半疑の顔でエリィの言葉を聞いていた。



「てか、あんたたち。七階層の奴倒したんだ」



 エリィの伝えたかった事とは違う内容にリーリスが食いついた。



「ホントたまたまね。と言ってもノアス君が一人でやっちゃったんだけど。あはは」


「はぁ。白狼ねぇ。まあ実力者って言うのは知ってたわ。私とあんたがモグラになる前に唯一、欠片階層主と戦った奴らしいしね」


「そうなの?」


「ええ、そして彼だけが生き残って階層主には敗北。らしいわ。噂だと」



 リーリスの表情が暗くなる。



「そう……なんだ」


「この話は禁句よ。モグラの暗黙の了解でしょ? パーティーが壊滅した奴の前でそう言った過去話はしちゃいけないって」


「そうだよね。大丈夫、言わないから」



 まさかノアスにそんな暗い過去があったなんて、エリィは言葉を失った。



「てことで白狼が実力者というのは私も知ってるの。でも、私の大切な友達が変な噂を持つ奴と繋がっていると、私も心配だわ。孤独姫さん」



 リーリスは心配の顔つきで覗くようにエリィに言う。リーリスはとても面倒見の良い子であるため、どこか抜けているエリィをまるで母のようにいつも心配している。



「大丈夫だって。あ、そう言えば『孤独姫』ってさ、わたしの事なんだね!」


「は?」



 先程のエリィが見せたように次はリーリスが何言ってるんだこの子、と目を点にした。



「いやさ、それもノアス君が教えてくれたんだよね! 何かよく聞く名前だなぁ、と思ってたら実はわたし!? みたいな。本当にびっくりしたよ。あははは!」


「はぁ。本当心配でならないわ、この子」リーリスは頭が重いのか、両手で頭を抱えた。「もういい。で、今日の本題に入っていいかしら?」


「あ、そうだったね。どうぞ、どうぞ」


「せっかくの休日に悪いんだけど、近いうちダンジョン攻略をしようと思うの」


「ダンジョン攻略?」


「そう。今の段階で公表されている攻略階層は七階層だよね? それを底上げする為に潜るの。小パーティーをいくつか作って八階層、あわよくば九階層まで進む。それで私たちの名前を広げるの」



「リーリス……」



 リーリスは少し暗い表情になるが、スイッチを切り替えるように明るく振る舞う。



「で、あなたにも参加してほしいの、エリィ。無理にとは言わないけど、八階層まで潜った事のあるあなたが居てくれたら心強いわ」



 リーリスの言うダンジョン攻略は、公表されている七階層のその上を行く事。それはほとんど情報が無い未知の世界への挑戦。咄嗟の判断力や行動が生死を大きく分けることになるだろう。それに命の重みを知っているモグラたちなら入念な準備をして当たり前。その結果リーリスはエリィを誘った。


 未知の世界を知っているエリィが居ると居ないとでは生存率が大きく変わる。それにリーリスならきっと、パーティーのリーダーを務めるはずだ。パーティーの命を背負う身として生存率は高い方がいいだろう。



「わたしは全然いいよ! 八階層に潜ったって言っても深くは潜ってないからね。それに一つでも上に行けるってことは欠片に近づける事でもあるもんね」


「良かった。じゃあ――」


「でも、一つ条件があります」


「条件?」


「それはノアス君も連れて行く事!」



 エリィはニシッと澄んだ笑みをリーリスに送る。



「はあああああああああああああああああああああああ!?!?!?」



 イレギュラーな発言にリーリスが眉を曲げて大きく叫んだ。その声はどこまでも響き、店内にいるお客たちがジロっと二人を批判の眼差しで見た。



「ちょ、ちょっと、リーリス。シィー。シィー」



 エリィは落ち着かせようとリーリスを(なだ)める。若干冷静さを取り戻したリーリスは、



「何でよ。何で白狼を連れて行くの。全然信用に値しない人じゃん」


「大丈夫だって、信用して。それにノアス君は十階層まで潜ってるからわたしよりも詳しいよ」


「でも……」



 リーリスの言いたい事は分かっている。何しろ連携を求められるパーティー攻略にほとんど知らない輩が加わろうとしているのだ。パーティーを引っ張る身としては不安要素だろう。



「わたしを信じて! ちょっと冷たいけど、本当に頼りになるから。ね?」



 エリィの言葉にリーリスは渋った表情を浮かべるが、「あんたがそこまで言うなら……でも、何か怪しい行動したらその場で――」



「その時はわたしが責任取る。そうと決まったら行動あるのみ。早速ノアス君に話してくるね」


「あ、ちょっと。あんた白狼の家知ってるの?」



 エリィは立ち上がり、走り始める。「うん。前にストーカーしたから家は知ってるよ」まるで当たり前かのようにエリィは笑いながら言う。



「あんた……」



 リーリスはなんとツッコミを入れるべきか悩んだが、その時には既にエリィの姿は無かった。

 

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