第1話 地上降下
星々が輝く夜空。
雄大な風景を示す地形がどこまでも続く様にも見える地平線。
そこに向かって一筋の光が落ちてくる。
それはまるで流れ星のようだ。
これが小さな土くれならば地上に落ちる前に燃え尽き、消えるだろう。
しかしその光はスピードを落としつつも、真っ直ぐに地上へ落ちてくる。
よく見れば落ちてくるのは土くれなどでは無く、極めて球に近い形をした比較的大きめの物体である事が分かるだろう。
最も、ここの周辺にはそれが分かるほどの距離にいる者などいないのだが。
話は変わって、今まさに大気圏へと突入しながら高速で降下している【観察者】は、小さな覗き窓から見える赤く染まった風景に感動していた。
今自分の目から見えている全てが、神によって創られたものであるという事実。
「これらをお創りになった方が、私をつくってくださったとは………なんと幸せな事か」
当然ながら【観察者】のレオノアに対する忠誠は彼が生まれた時からMAXである。
これから知的生命体(人類)を熱心な宗教家へと導くにあたって、彼自身がレオノアをほとんど崇拝している事は当たり前であった。
【観察者】が自身の幸せに身を震わせていると、赤く染まった景色は少しずつ正常な色へと変化した。
大気減速が完了し、それからしばらくして地上へ到着する。
いくら減速したとはいえ、隕石と同じようにして空より高い所から降りてきたのだ。地上に着いた時の衝撃は生半可なものではなかった。
【観察者】が球体のハッチを開き、外を出てみるとそれなりに広範囲にわたってクレーターができていた。
「これは………予想以上に衝撃が強かったようだ。もし近くに彼ら人類がいたら、騒ぎになるかもしれない。」
状況を分析しながら、クレーターの外へと歩く。
段差を飛び越えてひとまず出ることには成功した。
「さて、さっそく任務を開始するとしよう。まずは人類と接触しなくては。近くに集落などはあるのか……、そもそもこの大陸に人類は居住しているのだろうか?分からない。どうしたものか…」
彼は自分が、かの大地のどこに送られたのか知らない。
実を言えばレオノアによって、最も文明が発達している地域に送られたのだが、【観察者】はそれを聞かされていなかった。ホウレンソウは大切である。
最も【観察者】は優秀だ。彼はすぐさま状況の分析を開始した。
「まず、惑星の形状は美しい球体をしていたはずだ。地軸のズレこそあれ歪みはない。そして、今私が立っている地点の気温は快適そのもの。周りに生えている植物類の植生から判断すると、温帯に近いようだ。太陽は南を通っているから、位置はおそらく北半球………なるほど。近く人類がいるに違いない。」
レオノアが一日寝過ごした事によって、人類は広範囲に社会を築いていた。つまり生物の素が播かれた発祥の地から、既に移動をしているのだ。
それならばこの快適な環境に定住していない訳がない。
見たところ、土壌も豊かだ。人類は既に農耕を始めてからそれなりの時間がたっている様だから、もしかしたらとても大きな都市などもあるかもしれない。
そうと分かれば移動開始である。
必要なものは全て揃っているため、疲れを知らぬ馬なども生み出せるが、とりあえず歩いて移動することにした。
馬に騎乗するというのは、時代や環境によっては一部の上流階級のみが認められていたりする。人類と接触したとき、何らかの勘違いがあってはいけない。突然上流階級扱いされては、見えるものも見えないのだ。
最も、彼の身体も疲れを知らぬどころか不老不死の健康体をベースに、色々と生き物としておかしいような要素も付け加えられているため、そもそも乗り物など必要としないのだが。
なんなら食をしなくとも活動可能である。それで身体を動かすエネルギーは何処から来るんだなどという愚かな疑問の数々は"神の御業"という一言でかき消える。
それはともかく、彼は移動を開始した。
重要な地点を繋ぐ街道の存在は既に確認されているので、街道を見つけられれば後はそれに沿って進むだけである。もし街道が見つからなかったとしても、その時は河沿いに進むだけだ。
移動中、彼は自分が知らぬ気配を感じた。
彼の頭脳には、様々な種類の知識が詰まっている。それらを活用出来る身体もある。
しかし、通常知識と感覚で纏まるハズなのだがこの感覚は知らない。
彼の知識には無い。
彼は自らの祖であるレオノアの言葉を立ち止まって思い出す。
「新たな可能性を見出すために、かの大地に未知の超常的な力を宿らせました。それが進化にどう繋がるか、よく観察して下さい。」
「なるほど、これがその超常的な力というものか。普通に生活していて気付くという事は、彼ら人類も感づいているだろう。果たしてそれが吉と出るか凶と出るか……。」
内心少し期待しながら、彼は移動を再開した。
これから自分がどのように生きていくか考えながら移動していて、14日が過ぎた。(ちなみに、この大地における一日とは、寸分違わず24時間である。)
そして遂に、彼は降下後初めて知的生命体と接触した。
はい。短いです。
お読み頂きありがとうございました。
次回から一人称になります。
それでは。