8話:ザル警備と若王様
馬車に揺られながら向かっている最中、エリスからこんなことを聞かれた。
「そういえば先程ミューが使っていた魔法凄かったわね。黒竜を一撃で屠るなんて…しかも発動までに1秒も経ってなかったし、何処かの国の魔術師なのかしら?」
ミューたちは秘境で惰眠を繰り返していたため知らないが、一般的に魔法とは発動までに3秒ほど時間を要し、竜種相手に必要な魔法は下位の竜相手ですら30発は必要なのだ。
「『念話』」
『アル』
『どうしたの?』
『今のうちにステータス隠蔽と鑑定阻害しとこ』
『確かに隠した方が良さそうね』
「二人ともどうかした?」
「いやお腹空いたなーって」
とりあえず適当なことを言って誤魔化す。
「なら丁度いいわね!家で食べましょ!」
しまった。貰うもの貰ってずらかろうと思っていたのに。私はアルに目で何とかしろと訴える。
「なら是非ともご一緒させて頂きますね!」
何やってんだあぁああ!
「そうと決まれば今日の夕飯が楽しみね!」
なにかいい手は…そうだ!
「あ、あの実は今日は私達にとって特別な日なので、今日中に冒険者登録をしたいなって…アルも忘れちゃダメだよ。」
少し申し訳なさそうに!涙目で!これでどうだ!
「そう…残念だけど夕飯はまた今度にしましょうか。」
勝った。アルが呆れたような視線を向けてくるが知ったことではない。
「…と、そうこうしてるうちに門に着いたわね…お勤めご苦労様。今通ってもいいかしら?」
「これはこれは王妃様。特に問題ありませんがそこのお二人は…?」
「私の友人よ。こっちの小さい子がミューでこっちのストレートロングの子がアザゼルよ。」
今思えばアザゼルって元々神の側近だけど本名言っちゃって大丈夫だったかな?宗教的に。
「王妃様の御友人でございましたか。では特に問題ありません。お通り下さい。」
いや待て。身分証もない場違いな小娘二人を通してもいいのか。これも王妃様の力なのかな?
「おおお…」
門をくぐった先にはまるで某夢の国のようなファンタジックな空間が待っていた。
「すごいわね。」
「ふふっ、でしょ?これから貴女達はあの大きな城の中に行くのよ。これぐらいで驚いてたら疲れるわよ。」
正直、異世界舐めてた。文明レベルが中世っていうからどんな惨状かと思ってたが、秘境程ではないにしろなかなか壮観である。
「此方は城門の関所である。何用で参られたか。」
「お勤めご苦労様。私よ。」
そう言ってエリスは顔を出す。
「これは王妃様!申し訳ありません。」
「いいのよ。王家の紋章がない馬車で来たのだから仕方ないわ。」
「本当に申し訳ございません…おい!門を開けろ!…どうぞ。お通り下さい。」
…いやいやいや。私達の確認しないのかよ!いいのかこれで!
「さぁ着いたわよ!中に入って頂戴。」
エリスに着いて行った先は王の書斎だった。そうですよね避けられませんよね。
「アルフ?今いいかしら?」
すると若々しい声が返ってきた。
「エリスか?…あぁ例のお客人か。構わんよ。」
返事を聞いたエリスが私達を連れて中に入る。
「紹介するわ。私の夫のアルフよ。」
若々しい王と言うより王子っぽい男性がそこには立っていた。
「私はアルフ。アルフ・エルメル・クルベルト。この国の王だ。よろしく頼む。」
「私はミュー。これはアザゼルよ。」
「これって何?!」
アザゼルの嘆きを無視して話をする。
「貴殿らが黒竜からエリスを救ってくれたのだな。夫として礼を言わせてほしい。」
「いいんですよ。ついでみたいなものだったし。」
「ついででも貴殿らが助けてくれなかったら私はおかしくなっていたかもしれない…そうだな、貴殿らの望むものは何かあるかね。」
望むものかぁ…そうだ。
「ならこの世界の寝具と秘境の場所の情報を下さい。」
そう。私がわざわざ外に出た理由はそれである。秘境内部は確かに望むものが手に入るが、その望んだ物の質は中の上レベルなのだ。つまり寝具はもっといいものがあると言うこと。
もう1つは天然の秘境に行きたいという事。こっちは単なる興味である。
「秘境と寝具…わかった。情報が集まり次第、ギルドを通して伝えよう。冒険者登録に行くのだろう?」
「はい。ミューかアザゼルに伝えるように言っておいてください。」
「わかった。情報が用意出来るかは分からないが手配しよう。他には?」
「他はないです。強いて言うなら私達の力に対する箝口令をお願いしたいです。エリスさん曰く異常らしいので。」
「ふむ。この2人はそんなに異常だったのか?黒竜に風穴を開けたとは聞いたが。」
「そうね。アザゼルさんは見てないけどミューさんは黒竜を一撃で屠る魔法を1秒も掛けずに放ったのよ。」
「それはまた…わかった。その者らには徹底させよう。」
「ありがとうございます。」
「構わんよ。…これ以上拘束するのも良くないな。今日はありがとう。」
「いえいえ。それではこの辺りで失礼します。」
そう言って書斎を後にする。
「よし。冒険者ギルドに行こうか。」
「お疲れ様ミューちゃん。ずっと喋りっぱなしでつかれなかった?」
「すっごい疲れた。おぶって。」
「ふふっ、仕方ないなぁ。」
こうして仲の良い姉妹の皮をかぶった核兵器のような二人が野に放たれたのであった。
タイトルのために取ってつけたような寝具探してますアピール(;´Д`)