合成
朝市をまわって宿に戻ったミューはおもむろに魔法陣を書き出した。
「ミューちゃん?なにしてるの?」
「武器作ってる」
魔法陣なんかで武器が作れるのかというと実際には作れない。
「武器って…その廃棄物で?」
さらには材料は鍛冶屋さんから貰ってきた失敗作の鉄くずだ。それでもこれらは1度は道具として存在。実はこの世界の全てはデータ量というものがあり、それが多いほど強い。レベルはデータ量を示す簡単な目安である。だが道具は成長しないため材質などで全てが決まる。『これ』を使わなければ。
「私達は魔装以下の物をもっていないでしょう?それだと昨日のギルマスの反応を見る限り不味いと思うの」
「それもそうだけど…でも私達のレベルに耐えられる武器…『合成』するの?」
『合成』。錬金術と創造魔法で構成される複合魔法の一つである。現状この魔法を使えるのは私とアルぐらいしかいないだろう。なにせ前提条件に錬金術と創造魔法を必要としているため、錬金術はともかく創造魔法はゼノ神の権能でしか使えるようになれないし更にはこの創造魔法、戦術級魔法が霞んで見えるレベルでコスパが悪いため、加護が与えられる勇者ですら使えないのである。
「合成なら市販の武器でも私達レベルに出来るでしょ?」
「まぁそうだけどね…私は大剣かな!」
「私は魔法…杖は使いにくいから銃剣にする」
そこからは素体の武器に合成しまくった。
魔銃剣テスラ
格:伝説級
隠蔽
魔力圧縮出力
魔術刻印『技巧』
厄災剣メテオラ
格:伝説級
隠蔽
喚起
魔術刻印『禁盾』
我ながら魔装よりタチの悪いものを出してしまった自覚はあるがこれで見てくれの方は問題ない。
まず『隠蔽』はこれをただの市販レベルの代物に見せるための迷彩のようなものだ。
『魔力圧縮出力』は杖の効果の一つであり、攻撃範囲が狭まるが威力は数倍に上がるという効果のもの。
『喚起』は味方相手全員にかかる士気の上昇効果で、敵にも恩恵はあるが『挑発』よりも発動者に引かれやすくなる。
最後に魔術刻印だがこれは私達二人が長い年月(だいたい寝てた)を費やして発明した世界のシステムに小規模ではあるが鑑賞出来るものである。
『技巧』は自分の使えるスキルを外部出力によって強化するもので、負荷なしでそれが実現される。
『禁盾』は攻撃を受ければ受けるほど身体能力が上がるというもので、元から多少ではあるが防御力の向上もされる。
こんなかんじで至れり尽くせりな装備だが周りから見たらなんの変哲もない大剣と銃剣だ。
これで依頼達成も楽になるだろう。
「それにしても疲れたー…アル~今何時~?」
「午前5時ね…ミューちゃんそろそろ眠いんじゃない?」
「…すぅ…すぅ」
「もう寝てる…ん?」
遠くで聞き覚えのある音が聞こえる。『この世界での異物』が混じりこんだ音…私達のいた『秘境』にゼノが初めて来た時に聞こえた音、空間が一瞬だけ強い拒絶を行う際に聞こえる音だ。
「…ミューちゃん。もしかしたらなりふり構って居られないかもしれないわ」
異界の異物…理外の存在。この世界初の脅威となり得るのものが依頼のルートにあるのだから。