11話:ギルマスの頼み
あれから私はギルマスに連れられ、ギルドの応接間に来ていた。
「お前達に頼み事をする前に聞きたい事が3つある。1つ、あのステータスは偽物だな?スキル構成が明らかに不自然だ。2つ、あれは魔装だな?何故そんなものを持っている。3つ、お前達は何者だ?」
「そうね。まずステータスは偽物よ。即席で考えた物だから適当になってしまったのよ。」
ミュー達の場合は言語スキルが『全能』に統合されているから存在しないが、普通はあって然るべきものである。
「つぎは魔装のことね。正直これは魔装は魔装としか言えないわね。何故持っているかって聞かれても…日用品でしょ?こんなもの。」
「日用品ってお前…あのな、魔装っつーのはな、ユニークモンスター…つまり特殊な魔物を倒した際に稀に出現してごく稀に手にすることの出来る武具としては規格外の代物だぞ?まったく。隣の嬢ちゃんも言ってやれ!お前は異常だって!」
「??私も魔装程度の物ならいっぱい持ってますよ?」
「嬢ちゃんあんたもか…」
あれ?魔装って召喚するものだよね?
「なに言ってるの?魔装は召喚武具よ?」
「は?召喚武具?なんだそれ?」
召喚武具を知らない?この国って確か聖国と対立してたし神装召喚とか知ってる気がするのだけど…『ディメンションログ』
『ディアズフィア聖国の神装召喚を可能としていた機構は4560年前に超文明と共に消滅。』との事。
ちなみに現存している大国はクルベルト王国、ディアズフィア聖国、ポルトルア王国、ガルダリア帝国、メルモア共和国である。この五大国家は対超文明戦において活躍した国々である。
「まぁなんだ?その召喚武具ってもんがよくわからんやつってことはわかった。それで?お前らは何者だ?見た目と中身がここまで歪なものは初めて見た。」
「長命種よ。」
「嘘をつけ。エルフでもドワーフでも妖精でもないだろうに。」
「長命種よ。」
「いやあのな。」
「長命種。」
「…あーわかったわかった長命種な。」
都合悪い話題はごり押すに限る。
全ての質問に答えた所でギルマスが本題に入った。
「さて、今回の依頼は極秘だ。その事を留意して置いて欲しい。」
さっきまでのおちゃらけた様子が一気に引き締まる。
「依頼主はメルモア共和国の総帥。まぁ裏社会のドンみたいなオッサンからだ。内容はこの国の王にとある文書を届けるといったものだ。」
ここでなぜこの国のギルドで請負人を出すのかという事に疑問を感じていると、ギルマスがそれを察したかのように、
「このギルドから請負人を出す理由はな、俺が個人で古い友人の頼みを聞いたからだ。」
なるほど。つまり非公式と。
「あぁ、極秘裏ではあるが報酬はかなり出る。心配するな。」
あんまり気にしていない。
「それでどうだ?請けてくれるよな?断ったら断ったで然るべき処置(公開処刑)を施すだけなんだが…」
「…わかったわよ。やればいいんでしょ?!やれば!その代わり成功報酬にこれも追加しといて。『クルベルト王国のギルドのギルマスの記憶を改ざんする権利の贈与』」
「ったくちゃっかりしやがって…いいぜ。成功報酬につけといてやる。」
「よし。その依頼請けましょう。」
「んじゃ明後日ここに来てくれ。そこでメルモアで使える紹介状を渡す。」
「わかったわ。なら明後日また。」
ギルマスとの会話を終えた私達は宿の中から秘境に入っていた。
「それにしてもびっくりだわ。ミューちゃんが人とまともに会話出来てるなんて。私の出番無かったわね。」
「ごめんね。コミュニケーション頼んだのに横取りしたみたいになって。」
「いいのよ。ミューちゃんが成長してるのは嬉しい事だからね!」
慈愛に充ちた顔でそう言う。
「アル。その顔はなんだ。」
「…お姉さん風吹かせたい〜…的な?」
「…おやすみ。」
「無視はやめてえぇぇ!!」
こうして寝る前に馬鹿やるのも良いものだ、とほくそ笑む顔を隠すためにそっぽを向いたのはミューだけが知る事実であった。