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ドラゴンディセンダント  作者: ドクターわたる
竜の迷宮
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閑話.旅ゆくもの

両足に砂の感覚がある・・・ああ心地いい。

またここに来てしまった。

白い砂浜だ。そして僕は真っ黒い星の無い空を見上げている。

柱が何本も等間隔でそびえており天にまで届いているように見える。

海の彼方・・・水平線の向こうから淡く青い光が砂浜と僕を照らしている。

相変わらず僕は白いワンピースのようなものを着ていて、肉体はどう見ても女性になっている。広い広い砂浜に僕はずっと一人だ。


夜の海の神殿だ。


まるでここは夢の中のように幻想的だ・・・だとしたら本体はどこかで微睡まどろんでいるのか。


海へ向かって歩き続ける・・・。

寄せては返す穏やかな波は気持ちいいが、相変わらず裸足のようだ。


そのまま進んでいくと腰あたりまで海につかる。

波の間に何か見える・・・。


黒い髪・・・長髪の女性だ・・・。

海の中にいるというよりは波に映像が映し出されているかのようだ。


波に映し出される女性は何かと戦っている。

手を伸ばせばまるで届きそうだ。


細切れの映像はいつしか立体に・・・リアルになっていく。

波に映画のようにビジョンが映し出されている。



―――どこかの公園か?

大きな公園で黒い長髪で長身の女性は3人の男に囲まれている。

戦闘の真っ最中のようだ。

この女性は見覚えがある・・・誰だったか。


木々はなぎ倒されて地面はひび割れてめくれ上がっている。


女性は魔装しており、囲んでいる3人の男もまた魔装している。

魔装は破損して黒髪をたなびかせて戦う彼女だが分が悪いようだ。


リーダーらしき真ん中の男が顔の部分だけ魔装を解いて話している、顔は日に焼けていてニヤけている。

「大人しく投降するなら悪いようにはしないぜ。生徒会長さん」

女性は怖い顔で睨みつけ答える気はないようだ。


囲んでいる男たちはプロだ・・・対魔族ではなく対召喚士専門のハンターのようだ。




そして映像はどんどん大きくなり僕は波にのまれた。


どうやら僕は長身の女性のすぐそばにいるようだ。ここに自分がいることは彼女も3人の男も気付いていないようだ。


・・・血が流れている。


黒髪の女性は右肘から先を失っている。


つまり戦闘結果はすでに決しかけているように見える。


真ん中の男はワニのように笑っている。

投降を呼びかけているが殺気は微塵も減っていない。


彼らは人狩りのプロであり、情にほだされて助けるなどという可能性は皆無だ。


真ん中の男と女性は数回短い会話のやり取りをしているようだが、会話は決裂するようだ。


「―――おっさんたち、黒川の女に血を流させると呪われる・・・そういう古い言い伝えがある。その舐めた笑い、凍り付かせてやろうか・・・」


「何をする気だい?嬢ちゃん・・・生徒会長ちゃんだったか?まあ、こっちも仕事でね。美人だし気が咎めるが仕方ない。暴れると手元が狂うことになる。死に損なうと痛いぞ・・・」

気が咎める・・・そう言う割には全く感情が入っていない・・・さっさと済まして帰りたいと言わんばかりだ。


この3人はソードフィッシュの特殊部隊だったか・・・ん?なんの記憶だ?


―――さっきまで超人的なスピードで魔装して走っていたダークアリスは・・・アリスって誰だ?

彼女は待ち伏せにあったようだ・・・。

なんだこの記憶は・・・周囲はいたるところで火の手が上がっている。

複数ヵ所で火事か・・・?


なんだこの巨大な黒い獣たちは・・・竜じゃないな魔獣か・・・。


この女性は黒い獣たちを避けて山間部を通る崩れた高速道路を北上中にこの3人の特殊部隊に襲われて逃げた先で結界に捕らえられたのだ。


木竜使いの彼女が敵の気配を読み間違えることはない・・・つまり彼らは気配を消していたのだ。

走るルートも読まれていた。


3人とも地竜使いで同調させた結界は並大抵の攻撃では破壊できない。


状況的には蟲籠に捕らえられた蝶といったところだ。


「他の連中の居場所を言いな・・・黒川有栖・・・そうすれば少し寿命が延びる」この男のワニのような笑みが消えることはない。


黒川有栖・・・聞いたことがあるような気がする。


「・・・先輩は涼しい顔でアタシに言ったんだ、呪詛で自分はもう長くないってな、今年中の命だって・・・ふぅ・・・ふふふ。黒川家も呪われててね、特に女は短命なんだ・・・」


「まあ混乱するのは仕方ない。黒川有栖・・・漏らす奴だっている、そういう意味では大したもんだぜ。売る情報がないなら会話は終了だぜ」


3人の男性召喚士・・・真ん中の男がリーダーで、向かって左が彼女への攻撃を担当、向かって右側が結界の安定化と彼女の魔法攻撃の無力化を担当している。


向かって左の男性召喚士は地竜を傍らに召喚している・・・この竜がつい数分前に彼女の右腕を食いちぎったのだ。



・・・無表情に長髪の彼女は切られた右腕を真ん中の男に向ける・・・。


「おいビー・・・妙な術を発動させるなのよ・・・シー、交渉決裂だ。攻撃再開、殺していい」

「もったいな・・」

そうシーと呼ばれた男が返事を言い終わる前に彼女のすぐそばにいた僕は飛んだ。


すれ違いざまに黒くて太い右腕をシーと呼ばれた男に振り下ろす。


リーダーの男と少し遅れてビーと呼ばれた男は横っ飛びに僕を避けるように距離を取ろうとしている。


僕の振り下ろした右腕はシーの地竜・・・肩までの高さ3.4メートル、尻尾を含めると全長7メートルほどの立派な竜を少し斜めだが真っ二つにしていた。


「なんだこの攻撃力はビー?」

「すみません、魔力は感知できませんでした。四郎の救命に入ります」

「シーは助からん。竜はまかせろ!お前は女を殺せ!」

「・・・了解、くそっ!!よくも四郎を・・・」


名前も知らないリーダーに僕は一撃を食らわせる・・・。

地面はその衝撃でめくり上がり爆音がする。


おお・・・この男はさっきの奴と違ってタイミングがいい。

ガードされるなんて・・・。


「ぐおっおぉおおおおおっ!!!なんだ!!・・・なんだこの竜は強すぎるぞ・・・ビー、何か仕掛けがあるはずだ!女に手加減するなよ!こっちが先に死ぬぞ」

「魔法陣なしで竜を召喚するなんて、この女・・・こんな高度な術を小娘が・・・」


シーと呼ばれた男はもう動いていない、彼の騎竜も消滅している・。

リーダーの男は左肘関節が逆方向に曲がっているが腰を落として構えており隙が無い、ビーと呼ばれた男は彼女の能力を探知するか攻撃するか迷いが見える。


リーダーの男にに睨まれながら違和感がして僕は自分の右腕を見る・・・なんだこれは?

鱗でびっしりおおわれている。左腕もだ・・・。


竜の右手?


そうか。

この女性の騎竜に同化しているのか。

なるほど、さっきの映像はこの木竜の記憶か。


珍しい経験だ・・・竜に変身するなんて。

この竜と五感を共有するなんて・・・この竜は主を攻撃され怒り狂っているのが分かる。


・・・長髪の女性を取り巻く魔力の回帰波は強くなる。

「先輩にもらった竜が強いのは当然さ。さあ・・・こんどはアタシの身体に住む黒いものを見せてあげる・・・」


なんだ?

主のダークアリスの身体から黒いオーラが・・・。


うん?視界が狭まる・。

竜の五感が遠のいていく・・・。



ザッパ――――ン!!!


水だ・・・。

海水か。


―――「あれ、さっきの海じゃないか・・・」

波に見え隠れする女性の姿は見えなくなっていった。

不思議な体験だ・・・誰かの竜になって戦う夢・・・。

僕の両手は人間のそれにもどっている。


これは夢なのだろうか。


ゆらゆらと海水が揺れる。


なんだったのだろうか・・・竜の中に入り込む夢か・・・誰かの記憶なのだろうか。


・・・しかし記憶などというものは曖昧で・・・未来と過去の接点が人の住む現実なのだとして、それを失うのにどれほどの意味があるのだろう。




―――ん?

あれ?バスの中だ。


(ああ、そうだ。修学旅行の帰りのバスの中か)


眠っていたようだ。


修学旅行帰りのバスの最後尾のシートだ。

腰かけて眠っていたようだ。


視界に少し見えているが右隣にでっかいブロッコリーがいる。


そう、緑アフロ隊長だ・・・寝息をたてている。

その向こうに青木くんと窓際にオールバッカ―がいる。

全員寝ている。


まあ仕方ない、この奈良・京都への修学旅行は忙しかったのだ。

修学旅行初日に東京のイリホビルで暴れて、異次元のポラリスで戦闘を起こして、さらに異次元のスピカへ行って情報収集を行った。

そこで“Z班”の連中は帰ったが僕はメキシコ近くのサンディエゴという都市へ行ってテログループ創始者ドールさんと相まみえた。


二日目も忙しかった。なんだか色んな女性に絡まれた。

夜に合流した“Z班”のみんなは京都タワーの上にいて人造魔となにやら揉めていたようだ。

あの人造魔サクラってなんだったんだろう?


まだ聞けていないのだ。二日目はみんなは何をしてたんだ?


「時にもけよ、二日目は何をしておったのだ?」

突然、右隣のブロッコリーに話しかけられた。相変わらず超能力者か?

寝てたんじゃなかったのか?


「こっちのセリフだよ、アフロ。そっちこそ二日目は何をしてたの?」


「一口では説明できんのう・・・貴様こそ何をしていたのだ?」

そういわれても、いろんな女性とよくわからない約束をして・・・不知火玲麻さんといっしょに暮らす約束と・・・特によく分からないのは鳥居大雅先生と結婚する約束をして・・・更科麗羅ちゃんとも結婚する約束をしたなあ。


「こっちも一口では説明しようがないね・・・だいたいあれ?」

そういえば僕にもたれている左側の女性は・・・。


うん?

ああ、黒川有栖か・・・相変わらず背も高いし手足も長いな。

良く寝ている。


「そういえば黒川さんは結局3年の修学旅行に最後までつきあったのか。ずっといたもんね」

そうか真横にいたのか、それで何か変な夢を見たような気がする。


「うむ、生徒会長として修学旅行に同行する義務があると鳥居教官にかけあってな・・・」

「それで同行できることに?」

「・・・なるわけなかろう・・・無断欠席になっておる」

「だろうね・・・」


「それでもけ・・・二日目は何があったのだ?」

話してもいいけど・・。


そもそもだ。

約束といっても冗談のようなものだろうし、このバスって確か・・・隣にいる黒川有栖とも向こうに戻ったら喫茶店で話したいことがあるとかで会う約束をしてるし、前の方の席にいる城嶋由良ともなにか約束したし、ああ泉さんもいるな・・・彼女ともなんだっけ?約束したような?

一番前にいるタイガーセンセとは一応、結婚の約束だっけ?

半年後に桔梗とも決闘の約束だったな。


「向こうについたら話すよ、アフロ・・・。ここは人が多いし」

「ふむ。なるほど・・・では6高についたら情報交換である」


(そうか、黒川有栖の隣で寝ていたのか)


それで変な夢をみたのだろうか。


変な夢?なんだっけ?


ああ・・・それにしてもバスの音は心地いい、また眠ってしまいそうだ。




・・・夢・・・なんだっけ・・・ほとんど覚えていないが・・・。

黒川の血は呪われてる・・・とか言ってたか・・・それぐらいしか覚えてない。


呪詛なんて隣で寝ている黒川有栖からは何も感じないが・・・八咫烏の一族とか夜叉犬の一族は特殊な呪いで召喚獣の能力を身体に宿しているんだったか。しかもこの能力は親から子へ引き継がれるとか。


八咫烏も夜叉犬も忍者の末裔だが・・・陸軍と関与していて、来年の聖魔対戦になんらかの影響を及ぼすのではと実は調査中なのだが。

通常の感覚合一の儀を経ていない、つまり完全な召喚士ではないために誰がその血の一族なのかを調べるのは難航しているのだ。


来年、僕がするべきことに・・・邪魔なものは排除しなければならない・・・そのためにゲヘナもニルヴァーナも消した・・・西園寺の兵器開発部門にもダメージを与えたし・・・妙な連中とつるんでいた咲原中佐にも消えてもらった・・・。この咲原中佐たちと何らかの取引をしていた相手を調べていた時に浮上した名前が八咫烏と夜叉犬だ。


この二つとも風魔一族の一派だということが分かっている・・・風魔の御曹司であった緑川尊は何か知っていたのだろうか・・・ここへ来て緑川尊が生きていないのは痛手だ・・・。


たまたま僕が如月葵の周辺を霊眼で覗くのを控えていたときに殺されるなんて・・・タイミングが良すぎる・・・考えすぎだろうか。



すこし左に視線を移すと黒川有栖の黒い髪と横顔が見える、喋っていなければモデル並みなんだけどな・・・。


・・・さて、あんな夢ごときに引っ張られるのはどうかしているが・・・無色の魔晶石をつかっておこうか・・・もちろん横で眠っている黒川有栖にだ。


自身の身体を蝕む左肩の呪詛には効果ないが・・・この世のほとんどの呪詛を消す・・・あるいは今後、呪詛で攻撃されたときにそれを跳ね返す防御結界の一種がこの魔晶石に封じてある・・・高度な術だが僕には造作もない。


・・・発動・・・。


音もしないし魔力の高まりもない・・・隣のアフロも気付かない・・・僕のポケットの中の無色の魔晶石が消えただけだ。


これで黒川有栖には呪詛は効果ない・・・まあ数年は・・・。

まあ毎週月曜日に喫茶店でおごってもらっているし上級生としてこれでお返ししたことにしておこう。彼女へのお返しは何も思いついていなかったからこれで良しとしよう。


夢の中の彼女を呪いから守るため・・・ほとんど自己満足の世界だが。


ん?


あれ?


・・・なんの気配だ・・・。


このバスに近づいてくる、僕の超感覚では影にしか見えない。

誰も気づいていないな・・・。


走っているバスに追いついてくるなんて、能力者だ・・・。

しかもこのバスを目指している。


なんで見えないんだ・・・僕の能力で見えないなんて。


「黒川さん、アフロ・・・何か外にいる、このバスの真後ろにいる・・・起きた?」

何かあった時のために左右で寝ている2人は起こしておこう。


「む?敵か・・・もけ」

「う~ん、ぁあ。先輩がこんな近くに・・・あれ寝てたぁ・・・ぁぁあ。チャンスだったのに」

うん、2人とも寝ぼけている・・・仕掛けてくるなら僕が何とかしないと。

それにしてもバスの後ろを走ってくる奴は霊眼の遠隔視をキャンセルするなんて、なんて能力だ。


身長150センチくらい・・・頭部は以上に大きい・・・下級魔族の使役するオークだろうか、決めつけるのは早いが・・・とにかく人間のシルエットではない。

単独で行動するなんて・・・はぐれデーモンか・・・。


来るぞ・・・仕掛けてくる・・・一瞬でとどめを刺さないと・・・。


「うわっ!」

珍しくダークアリスが驚いた。


そのクリーチャーは有栖のすぐ左にある窓に顔を張り付いたのだ。


「グモ~~~~!!!!どうして起こしてくれないのじゃ~~~!!」


おお?


あれ?


横にいるブロッコリーがため息をついた。

「キエ~!忘れ物、勝手に来る・・・」

そしてそのまま寝た。

外にいるクリーチャーは窓をドンドンっと叩いている。




―――外を走って・・・バスを追いかけていたのは“Z班”が誇る無二の男・・・ダイブツくんだった。仲間だし見間違えるわけがない。


「グモー!なんでバス!行く!鳥居バカ教師!点呼しない!グモ―!仲間!起こさない!・・・のじゃ~~!!」

「ああ、ほらダイブツくんは・・・あれだね。健脚だね・・・またバスに追いつくなんて、えっと・・・すごいね。高速を走ってくるなんて」

「てめ~ダイブツ!あたしのスカートを踏んで・・あたしと先輩の間に座るとは・・・命が惜しくないようだね」

「ミイロミューン・・・せっかく、もけくんのロマンスが始まりそうだったのにね。両手にお花・・・せっかくせっかく録画してたのに・・・」

「この青木小空・・・全国5万人の女子高生の信者の方々に・・・伏してお願い申すだす・・・」

「おいおい聞いてくれよ・・・夏樹ちゃんがよ・・別れたいって言うわけよ。おれっち的にはよ、返事が一日遅れたぐらいでよぉ・・・そういうことってあるじゃね?」

「キエ~まさに不毛よ。旅行くものは藁にも縋る、とかくこの世は色即是空・・・」


巨大なダイブツくんの頭をヘッドロックしている黒川有栖の右腕はちゃんと生えている・・・夢の中では右腕無かったけどな・・・うーん、ほとんど忘れてしまったな。


ま、いいか。


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