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ドラゴンディセンダント  作者: ドクターわたる
竜の迷宮
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3-3-2.いよいよ修学旅行も終盤で②

―――第3高校上空―――


体育館の天井を派手な破裂音とともにぶち抜いた如月葵は紅龍の鎧に全身を魔装しつつ上昇していく。


そして上空で腕組みして対戦者を待つようだ。


葵が開けた穴から一人・・・赤髪の戦士がゆっくり上昇してくる。

彼は“ニルヴァーナ”の誇る特攻隊長と言ったところだ。


名前はケーイレブン。

見た目は20代後半だろうか。

かなりの戦績を誇る・・・戦績というのはこの場合各国で行った破壊工作についてのことだが・・・要人暗殺から・・・カジノ襲撃・・・製薬会社のビル爆破・・・軍施設への潜入と破壊・・・対テロ特殊部隊との幾度とない攻防・・・世界中に危険度マックスで指名手配されている。


赤い髪の筋肉質の戦士は分厚い胸板だが葵と同じように腕組みしながら葵と同じ目線の高さで止まった。


2人とも少し笑っているように見える・・・。


「たまんねえな、こういう分かりやすいのは嫌いじゃないぜ」

「手加減はいらないからな。アオイキサラギ・・・プリンセスの能力ちからとやらを是非見せてくれ」


戦闘好き・・・という意味では葵とケーイレブンは似た者同士なのかもしれない。

女子高生とテロリストは向き合っている。


「すっかりあたしも有名人ってわけか?・・・プリンセスって呼ばれるのは好きじゃないんだ」

「呼び名なんてどうでもいい、アオイキサラギ・・・俺もいろいろ呼ばれている。犯罪者、テログループ、大量殺人犯、危険人物・・・んなもんに意味なんてねえよ。デストロイヤーって呼ばれるのは嫌いじゃないがな・・・」


「けっ・・・」あまり興味なさそうに葵はだるそうに背伸びをしている。

「てめえの身の上話なんて聞いてないぜ・・・赤髪のおっさん、始めようぜ」


“エラスティックショット”!!


アイサツ代わりとでも言わんばかりに葵は一瞬後ろへ引いた右腕を勢いよく前へ突き出す。

赤い魔装鎧は全身に紅いウロコでびっしり覆われているが、これは一枚一枚が任意に射出できるのだ。


ガガガガガガガガガッ!!!!!


ショットガンのように打ち出された赤い数枚の鱗は腕組みしているケーイレブンの体幹にダメージを与えることなく弾かれた。


「こんなもんか?プリンセス?」

「はあ?よく見ろよ・・・赤髪のオッサン」


いつの間にか細い鋼線がケーイレブンの体幹に巻きついているのだ・。

エラスティックショットは葵の鎧の鱗を撃ち出す技だが鱗の一つ一つは鋼線で鎧とつながっており射出も回収も可能でさらに鋼線部分で相手を縛ったり行動抑制したりと戦闘の幅が広い攻撃だ。


「おお?」

「やっぱ逃げられると面倒なんでな・・・ロープデスマッチといこうぜ」


葵の鎧とケーイレブンの鎧は鋼線で繋がっており光に反射してキラキラと交戦が輝いている。


「面白え・・・」


そして両者は上空で衝撃波を撒き散らしながら激突した・。




第3高校の生徒が校舎や運動場・・・体育館の窓から上空を眺めているが、如月葵が犯人と分かった時点で興味を皆失ったようだ。


―――またドラゴンディセンダントが暴れてるってよ―――

―――またかよ―――

―――相手は新しい教官か?―――

―――知らん!―――


時々、葵は幾度となく問題を起こして校舎や体育館を大破させているのだから仕方ない。


そして葵がぶち抜いた天井から“ドラゴンディセンダント”メンバーも出てきて赤い体育館屋根に腰かけて観戦しはじめた。

1年生メンバーが入学して半年・・・濃密な戦闘を幾度も繰り返して・・・魔族とも戦闘を経験した“ドラゴンディセンダント”は世界的テログループが攻めてきても全く慌てていない、まあテログループとやり合うのも二度目になるわけだ。


さらに言えば葵の異常な戦闘能力を理解しているともいえる。


そのためかロミオ、未来、沙羅の3人はそれほど緊張感がないのだ。

まあ魔族との死闘に比べれば・・・。


「それにしても結構強いで、あのオッサン。わしには分かるんや」

「それはわかってるのなの」

「あのテロリストは銅頭鉄額、かなりの強者・・・」


轟音とともに葵とケーイレブンは召喚戦闘の世界ランク戦なみの空中戦を繰り広げている・・・。


「でもまあうちの部長は只もんじゃないで」

「あ、あぶないのなのなの・・・」

「でも如月部長は今や一騎当千・・・」



ドゴゴゴゴゴッッッッ!!


平気で受け流されていた葵の攻撃は徐々にダメージを与えるようになっている。

「くくっ・・やるじゃねえか。桔梗と次に戦うのに練習相手が欲しかったんだ・・・」

「プリンセス・・・どういうカラクリだ?」余裕で圧倒できるはずの高校一年生女子の如月葵は戦闘開始後からずっと戦闘能力が上がり続けているのだ。



これはおそらく葵の騎竜“紅蓮返し”の能力だろう・・・上限はあるだろうが恐ろしい能力だ。攻撃をくらっても攻撃を相手に当てても戦闘能力が上がっていく・・・インハイ個人戦決勝戦で更科麗羅は一度も攻撃することなく、攻撃を食らうことなくタイムアップと同時に一撃入れて葵に勝利して優勝している。



空中戦の序盤は明らかにケーイレブンが有利だった・・・。

TMPAが6万近いケーイレブンは実際、世界最強クラス・・・数値だけなら西園寺桔梗すら凌駕している。



どうやら緑川尊が解せない死を迎えて気落ちしていたようだが乗り越えたのか・・・葵の攻撃や回避、フェイントはTMPAの上昇だけでなく、鋭さを増すばかりだ・・・とうとう戦闘力は拮抗しつつある、また葵が負ったダメージもほぼ回復してしまっている。




―――赤い兜のなか、如月葵の右目は轟轟と燃えるように真紅に輝いている。


「にやにやしてんじゃねえぜ、オッサン!いつまで手加減してやがる?」

「ついてるね・・・俺がアタリだな、こりゃ」激しい戦闘のなか2人を結んでいた鋼線は半数ほどが切れている。


攻撃も防御も一時中断して空中で自身の顎を右手で触りつつケーイレブンは葵を値踏みするように見ている。

「・・・?」

「うれしいね。ようやく会えたか・・・プリンセスがアタリか・・・」

なにやら意味深なことを言っているが葵には理解できない。


「芸能人じゃないんでな、アタシは・・・サインはしねえよ!」

「一緒に来てもらうプリンセス・・・」そう言った瞬間、にやついた表情は消え如月葵ですら一瞬気圧されるほどケーイレブンの雰囲気は激変した・。


ケーイレブンの後ろの空間が歪んでいる・・・異常な魔力が集中していく。


「てめ~、その眼はなんだよ?」

「ああ、プリンセス・・・見ての通りだぜ」


右目が紅く輝いている葵に対してケーイレブンの右目も緑に輝きだした。


そう、2人とも竜王家の一部の者のみが発動しうる“竜王の霊眼”が顕在化しているのだ。

2人のはるか上空の雲は暗くなり渦巻き、稲光が発生している。


オオオォォォ!!


獣のような声でケーイレブンが吠えるのと同時に魔力の回帰波が発生しTMPAが跳ね上がっていく・・・。



「おいおい、これはなんや!さすがになんや?」

「すごいのなのなの・・・この能力ちから・・・葵ちゃんと同じ?」

「権藤先生から念話、周辺に退避を勧告・・・異界化結界を―――」



・・・ケーイレブンの身体に巻き付いていた鋼線がちぎれ飛んでいく・・・。

対する葵は例の数万度の熱線を撒き散らす“極大火焔術法”の構えだ・・・。




第3高校では緊急放送だ・・・。


―――みなさん学外へ退避してください、繰り返します―――

―――これは訓練ではありません、一部の生徒を除き緊急避難を―――


校舎の屋上の人だかりに金髪と黒髪の2人の女子生徒が加わる。

「今度はなんなのよ?ジェニファー、お空が世紀末みたいになってるじゃない」

「あたしが知るわけないわけ」

“DD-stars”のカンナと“ドラゴンディセンダント”に転部したジェニファーである。


「あなたんとこの部長でしょうが。なんとかしなさいよ・・・」

「空中戦は苦手なわけ・・・レマと守人がきっとなんとかするわけ」

「他人に頼るのってよくないわ・・・でも・・・あれぇ?生徒会長が戦ってる相手って結構いい男じゃない?」

「・・・カンナ・・・眼科に行ったほうがいいわけ」

2人とも逃げる気も手伝う気もないようだ・・・。



―――そう現在、第3高校の生徒会長は10月から・・・なんと如月葵なのだ・・・ただのどうしようもない問題児なのに・・・まあ、圧政を強いてきた恐怖と暴虐の西園寺桔梗と真っ向から戦い共感者が増え・・・副部長の緑川が亡くなったことからの同情票もあったのだろうが・・・98%の票を集めて生徒会長に当選したのだ。



上空ではいよいよ両者が激突してもし生徒会長の極大火焔術法がケーイレブンに跳ね返された場合、方向によっては校舎が3棟ほど消し飛んでさらに周囲の体育館がいくつも倒壊するかと誰しもが思ったのだが・・・邪魔が入ったのだ。


戦闘はストップしている。


恐るべき魔力を纏ったままでケーイレブンは両手を腰に当てて上体を後ろにそらしつつ言った。


「おいおい、まじかよ、いいところなんだけどな・・・」

「想定外のことが起きています、ケー。いったん戻りましょう」


突然、前触れもなくエキゾチックな美女がケーイレブンの背後に現れたのだ。

先ほどまで第六高校の裏山で緑アフロ隊長と話していたはずのジョーという名の女性だ。


「それはできねえな。目の前にターゲットがいるんだぜ。おめおめと・・・」

「スリーセブンはもう戻ったようです。今すぐあなたも戻りなさい」

「手柄を横取りする気じゃないだろうな・・・まあそんなわけないか・・・だが―――」

「予想外の情報があります、今すぐ戻りなさい!」一切の反論を許さない強烈な語気だった。


が強そうな赤髪の男はすこし狼狽している。

「わ、わかったぜ。プリンセス・アオイ・・・勝負はお預けだ」


パチン・・・。


乾いた音がしてケーイレブンの身体は消えた・・・。

ジョーという名の女性の能力だ、葵では探知できない距離を一気にテレポートさせたのだ。


「失礼いたしました、プリンセス・アオイ。ご挨拶はまたの機会に・・・」

「いきなり現れてなに勝手なこと言ってやがる!」


“エラスティックショット”!!


だが葵の攻撃は空を切った、ジョーの身体も消えたのだ・・・20メートルほど後方に葵から距離をとっている。短距離のテレポートだ・・・、葵といえど攻撃を当てるのは至難だろう。





―――楽しく戦闘しているのを無理やり止められるのは大嫌いなのだ・・・。

景色は全く変わっている・・・360°見渡す限り海しかない。


赤髪のケーイレブンは海上の大型クルーザーの真上に突如として出現している。


ガァアアァァァ・・・!


そのまま空中で怒鳴り散らしていたが・・・ふうっと息を吐いて下降していく。



デッキのドアを乱暴に開けてドスドスと赤髪は歩く。

調度品の一部のように見えるガラスのキャビネットを開けてウイスキーを取り出す。

いや、ブランデーのようだ。


栓を開けてそのままラッパ飲みしている。

そして倒れるように長椅子に腰かけた。


「やってられないな。もう少し・・・つうか、ターゲットだと言ってるのにジョーの奴・・・」




―――天井を見ながらアルコールを飲む以外にケーイレブンはすることがない。

情報を整理する役目ではないし、予想外のことがどうのと言っていたジョーはまだテレポートして戻ってはこない。


「ジョーの奴、楽しんでるんじゃないだろうな・・・」

「それにしてもプリンセス・アオイはあれで16歳だったか・・・強ええな・・・」

残り2人のターゲットのことはあまり記憶にないが自分のターゲットのことだけは最低限覚えているようだ。




―――しばらくして赤髪の体格のいいテロリストは少し落ち着いたようだが、やはり納得がいかない様子だ。


「そういや、スリーセブンは帰ってきてるんだったか・・・」

場所は予想がつく・・・。


ブランデーの瓶を片手にケーイレブンはふらっと行き先を決め歩きだした・・・半分ほど飲んでしまったがこの程度では酔っていないようだ。




―――バンっと音を響かせて勢いよく操舵室のやや丸みを帯びた鉄の扉が開く。


操舵室の一角に明らかに雰囲気の違う場所がある。

椅子に腰かけてケーイレブンに背中を見せているのがスリーセブンである。

黒いシャツに黒いズボン・・・痩せていて長身だがケーイレブンよりは背が低い。


様々な計器が立ち並ぶ中、複数のノートPCを同時に操っている。


「先に帰ったんだってな。ジョーはまだみたいだが、なんで急に中止なんだ?」

「さあね?なんで中止に?」

ニルヴァーナの電脳情報屋・・・スリーセブンは凄腕だ・・・ネット上でのハッキングや情報操作もお手の物、この大型クルーザーも上手に隠しているはずだ・・・だがいつも・・・。


「俺がおまえに聞いてんだが・・・」

「僕は聞いてないよ・・・」


いつもそうだ・・・こいつとは会話が噛み合わない・・・。

そんなに忙しく今更何の情報をまとめているんだか・・・。


「おまえのターゲットのキキョウはどうしたんだ?戦ったのか?」

「桔梗?ああ、キキョウ・サイオンジ・・・あれは外れだった・・・戦うまでもないね」


一事が万事・・・こいつ・・・スルーセブンとは合わない、付き合いは長いが。

ジョーの帰りを待つしかない・・・。


あのプリンセス・アオイが当たりなら強引にでも・・・。


「まあいいぜ、邪魔したな・・・」

スリーセブンは無言でPC画面と向き合っている。


ジョーの気配はまだない・・・飯でも食うか・・・。


―――操舵室から体格のいいケーイレブンが去ろうとした瞬間・・・。


ふとケーイレブンは立ち止まった。



「おまえ、今何食べてる?」

「・・・ああハンバーガーだね」


いそがしくPCのキーを叩くスリーセブンの隣の椅子にはハンバーガーが三つある。

そのうち一つのハンバーガーは食べかけである。

「美味そうなもん食べてるじゃないか・・・スリー」

「・・・そうだね」

「それ誰のハンバーガーか知ってるか?」

「・・・君のだろう・・・」

「・・・なんだ分かってんじゃないか・・・」

気だるそうに赤髪のケーイレブンは振り返り、操舵室の出入り口ドアに背をつけている。

「おまえヴィーガンだよな・・・」

「・・・そうだよ・・・」

「・・・ヴィーガンってどういう意味だ?」

「菜食主義だね・・・」


・・・ケーイレブンは小首をかしげている。


「そうか、良かったぜ・・・勧めたかいがあったな・・・肉もいいもんだろ?」

「・・・いいね・・・」

「18年前か・・・おまえと食い物のことでぶつかって・・・大喧嘩したのは」

「・・・そうだね・・・グアナファトだったね・・・」

「ああ、いい街だったな・・・俺たちはまだ駆け出しでな・・・」

「ドールによく叱られた・・」

「ああ・・・ファーザー・ドールにな・・・」


・・・今度は赤髪の男はウンウンと頷いている。


「おまえ誰だよ?」

神明全じんめあきらと言いますけど?」

黒髪の優男は初めてケーイレブンを振り返って自己紹介した。


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