3-2-3.修学旅行は2日目に突入③
―――本当に僕って死ぬほど運が悪いんじゃないだろうか―――
誰も知らない次元環で太古の遺物から“シャドウリムーバー”という術を復活させて・・・現代の常識・・・契約できる召喚獣は生涯一体だけという定説も覆した。
和室に2人きりの・・・目の前の白い着物の西園寺桔梗・・・その姉、西園寺グループ総帥である西園寺御美奈に強制的に妖蟲族と感覚合一させられて・・・だが“シャドウリムーバー”を使って竜族の召喚士になることに成功したのだ。
何をするにしても能力は必要だ。
命がけで竜族と契約できたのはよかった・・・だが僕の竜・・・“モルネ”は甲竜だった・・・無属性で竜族最弱の竜種だ。
(努力をしても結果に結びつかない・・・)
西園寺財閥は戦後も力を失うことなく・・・商業のみではなく・・・政治や経済・・・軍隊にまで根深く入り込んでいる。
邪魔なモノは懐柔し、操り、吸収し、あるいは消してきた。
その多くのモノの一つが神明家だろう・・・4000年前に四つに分かれた第一王朝の生き残り・・・多くの遺産がまだまだある。
父王は毒殺・・・母も汚名を着せられたまま獄中死・・・僕は呪詛で長くない・・・同じ年の義理の弟の神明帝が僕が死んだ後に目の前の桔梗と婚約するのはもう日取りまで秘密裏に決まっている。神明帝の母は鷺藤家の出身で・・・戦後ライバルだったはずなのに西園寺グループとガッチリ組むことになったわけだ。
西園寺桔梗は政略結婚ならぬ政略婚約中の相手だ・・・便宜上、僕が引き継いでいる神明家の遺物や宝物、次元環の使用権限が必要なわけだ。
「―――わたしはこの世で2番目に強ければ良いと思いいたったのです―――」
(そしてさっきから桔梗はなんの話しをしてるんだ?昨日西園寺グループのイリホビルに入り込んで破壊工作したことがバレたんじゃないのか?回りくどい・・・)
神明帝は恐らく西園寺家の婿養子になり、事実上・・神明家は消滅するわけだ。
まあ、そんなことはどうでもいい。
生きている間しか何かを選択することができないなら生きている間だけはせめて自分らしくありたいわけだ。
そして意味不明な桔梗の演説は続いている。
「―――今日は招聘に応じて頂きまして大変うれしいです。つきましてはご夕食はいかがでしょう?和でもフレンチでもご用意できます」
毒殺か・・・やっぱな。
「今晩は離れを用意してございます。宜しければ・・・宜しければ臥所をともにいたしますがいかがいたしましょうか。婚約中ですし特に問題なしと思われます・・・いかがでしょう?」
見たことない表情だな・・・恥ずかしそうにしている?・・・ようにも見えるが・・・僕への殺気が溢れているということか・・・。
(つかフシドってなんや・・・)
離れ・・・決闘場というわけか・・・。
となると・・・夕食で毒殺はない・・・のだろうか。
じゃあ夕食は食べてみよう・・・ってならないし。
・・・こんなに嬉しそうな桔梗を見るのは初めてだ・・・こわ・・・本気だ。
(逃げないとヤラレル・・・)
「いやいや桔梗さん・・・今は・・・」
「修学旅行中なのは存じております・・・第6高校校長に連絡しておきますから問題ありません」
(問題しかないよね・・・なぶり殺しにする気だ・・・ど、ど・・・どうしよう・・・)
「あ、あの・・・き・・・桔梗サン」
「はい」
「じゅ、準備不足ではないかと・・おも・・思います」
「・・・と言いますと?」
怖え・・・目が怖え。
何にも思いつかない・・・。
とにかく今は魔力の余力もないし・・・戦いにならない・・・彼女は武人だし、万全で戦いたいとか思ってくれれば・・・。
「よ、余力がない・・・と・・言いますか」
「余力?」
「余力といいますか・・・あ・・余裕といいますか」
「・・・余裕・・・」
「つ、つまり・・・次期尚早といいましょうか・・・」
万全でも勝てる気しないけど・・・。
「なるほど。さすがです。自分でも薄々気付いておりました。半年間わたしは身を削りわが身を研いでおりました。並ぶものがいないほど自己鍛錬いたしました。それを貴方は抜身の刀だとおっしゃるのですね?」
(なんやて?)
「つまりわたしに余裕がないと・・・その通りでございます。かつてないほどに自分を研ぎ澄ましましたが何か足りないと漠然と思っておりました・・・一目で見抜くとはさすがです・・・それを成すのにどれほど期間がいるとお考えでしょう?」
(何を言い出したんや?)
「は、半年?・・・」
「わかりました。我が許婚よ。半年以内に自分を鞘に納めて見せましょう」
「あ・・は、はい?・・・」
なんの話しをしてるんだ?
決闘が半年伸びたってことでいいのかな・・・。
西園寺桔梗は丁寧に正座したまま両手をついて頭を深く下げた。
「・・・お帰りです。お送りしなさい」という声が桔梗の口から聞こえるがなんだか分からないが帰れるのだろうか。
―――何というか。本当にわけわからなかったが・・・まだ命がある・・・。
寿命がのびたのは間違いない。
(意味不明に苦しまぎれだったが半年というのはいい線だったようだ。半年後なんて多分生きていないからな)
とにかく半年後に今日の続きを桔梗とすることになった。
そしてあの初老の運転手に祇園から四条河原町まで乗せてもらった。
結局、あの運転手も襲ってはこなかったか。
そして一つ気付いた。
気にも留めてないが霊力で普段は自分の気配を消してるわけだ、多分・・・それで魔力の尽きている今日はすぐ見つかるわけだ。
―――古本屋なんかもういいか。
旅館に戻って寝た方がいい・・寝るのが一番魔力の回復が早いし。
今・・・15時を過ぎたくらいか。
「はぁい。アキラ・・・」
おおお?また背後を取られた。
振り返った瞬間に相手を確認する。
ああ、なるほど。木属性の竜族は気配消すの上手いもんな・。
「やあ大津留ジェニファーさん」
誰が名付けたか・・・名付けたのは緑川尊だったか・・・犯罪おっぱいと呼ばれる金髪の人だ。
(今日はなんなんだ?厄日には違いない・・・)
「ちょっと歩きながら話したいわけ。いい?」
「いいよ」
まあ、如月葵のチームメイトだし彼女は安全だろう・・・油断はしないが。
しばし無言で橋の上を2人で歩く。
それにしても京都は人多いな・・・なんか増えてないか。
一緒に歩いていると金髪でスタイル抜群の彼女の隣にいると、なんか気後れする感じだ。
「あのさ。前も言ったけど魔装教えてくれてありがとうなワケ・・・」
「あ、うん」
「うーん・・・らしくないわけ。ダイレクトに聞きたいわけ。ボーイフレンドになって欲しいわけ」
む?更科麗良と緑アフロ隊長に続いて・・・3人目の友達・・・候補ということ?
まあ優秀だし、努力家だし、友人としては申し分ないけど。
なんで嫌われ者の僕なんかに・・・。
「・・・なんで僕と・・・」
「いいか悪いかを聞きたいワケ」
歩きながら何の話をしているんだろうか。
僕たち二人は人目を惹くようで奇異の目で周囲からみられている・・・金髪でスタイルいい大津留さんは目立つもんな。
まあでもそう言うなら。
「もちろんOKだけど?なんで?」
「OKなわけ?悩んで損したワケ。はぁああ・・早く伝えればよかったわけ」
うん?なんのこっちゃ?
「理由はアキラ・・・一度しか言わないワケ。I’ve got a crush on you」
クラッシュってなんだっけ・・・いや英語は得意なんだけど。
フレンドになったからと言ってどうもこうも何が変わるのか分からないけど。
まあ話してみると、やっぱり魔装できるようにしてあげてピンチに一緒に戦ったのが印象よかったようだな。
「―――グランマの予言通りになるとこだったわけ―――」
フレンドになりましょうと言って友人になったのは初めてだからよく分かんないんだよね。
「―――今年のクリスマスイブ空いてるワケ?いっしょにパパの別荘に2人きりで行きたいワケ」
「いいよ、予定ないし」
やっぱお金持ちか、長野に別荘があるんだそうな・・・うん、ご飯が食べれる気がする。
ん?長野か・・・。
「あのさ実は長野に調べたい施設があってね・・・うーんっと・・・」
「あたしたちはパーフェクトなカップルになれるワケ。なんでも話してほしい」
まあ確かに鏡の国で中級魔族を狩った中だし信用できるかな。
「実は表向きは介護施設なんだけど地下に実験施設があって、少し調べたいんだ。多分人造魔族の研究をしてる・・」
「・・・そういうのいい・・・わけ。アキラと一緒なら全力で戦えるわけ」
まあ香樓鬼さんも呼んで3人で行くのが賢明かな。
それにしても、なんでこんなに感動的な雰囲気なんだ?大津留さんは。
というかクリスマスっておごってくれるのかな。
「あ、そうそう。“五色曼荼羅”ってチーム知ってるよね?大津留さん」
「ジェニーって呼んで欲しいわけ。あの2高の気持ち悪い連中でしょ、もち知ってるワケ」
「妙なことを企んでるみたいだから気を付けてね」
「なんでも話してほしいって言ったわけ・・・あいつらが何?」
「実はね―――」
フレンドと言うなら一応これくらいは伝えておくか。
まあ友人とかいらないんだけどな。
「時代錯誤だけど、生贄を使ったサバトを計画してるっぽくてね・・・」
由良の話しだとどうも女性を生贄に・・・それもかなりの人数を・・・計画している。
まあ普通の術式では無理だろうけど。
京都の空はキレイだな・・・そしてなんだかんだでもう夕方か。
「とにかく今日は会えてよかったわけ。アキラ・・・Love ya!」
そう言い残して大津留さんは人目を惹きながら機嫌良さそうに帰っていった。
それにしてもまさか僕に3人目の友人ができるなんて・・・友人(仮)ってとこだけど。
―――“Z班”とは結局会えずじまい。
しかしよく考えたら旅館で待っていればいいのだ。
連中のことだ。お腹が空けば帰って来るだろう。
第6高校が宿泊してる旅館にもどることにした、今日はなんだか実りがあったようななかったような日だな。
―――少し寝た方がいいな・・・。
第六高校が宿泊しているでっかい古びた旅館に着いた。
ブレザーを来た生徒が数人いるが、大半はまだ外で自由行動中のようだ。
昨日は異次元にテロリストとか放り込んでテログループのリーダーとアメリカと対峙して、だ。
今日も色々あったが一番は西園寺桔梗との会合だろう。
うーん、疲れたな。
魔力は回復中だが・・・微々たるものだ、寝た方がいい。
・・・そして今日は何度目かだが後ろから声を掛けられる。
「神明全様・・・」
聞き覚えのある声だ。
振り向きつつ彼女を確認する。
「・・・やあ茜さん」
ショートカットというかボブカットというのだろうか。ブレザー姿の華宗我部茜さんだ。
そういえば彼女も“Z班”だよなぁ。ややうつむき加減で何か言いたげだ。
「あのさ・・・」
「あのですね・・・」
なにやら恐縮しているが、というか僕と話すときは大抵こんな感じだ。
彼女の話しでは“Z班”連中とは一緒にいないようだ。
恐れ多いからとかいう理由で“Z班第二部”と行動を共にしていたようだ。
「あの、珍しいですね。2人きりなんて・・・」
「そうだね。いつも部室周囲の掃除ありがとう」
そうそう、彼女のおかげで団体戦優勝できたわけだし。
もちろん他のメンバーと違って竜族にしてあげたわけじゃないし西園寺グループやニルヴァーナとの戦闘オファーはしていない・・・結果、村上君と違って昨日戦闘行為をしていたことも知らないわけだ。
「―――2人きりだといっぱい、いっぱい話したかったのに言葉が出てきませんね―――」
「―――まえの高校では神明様のファンクラブがあって―――」
「―――ふぁ、ファンクラブなんて失礼ですよね―――」
適当に返事をしているが、彼女をどこまで僕の都合で巻き込むかは悩むところだ。
「―――ぜひエルちゃんのお礼をしたくて、両親からも言われていまして―――」
「エルちゃんって茜さんのメタルドラゴンだよね」
そういえば蘇生してあげたんだった、エルちゃんとやらを刺殺したのは僕の竜モルネだけども。
(おごってくれるなら行ってもいいんだけど・・・)
「―――ぜひ・・・ご馳走させてください」
「ぇえ・・・いいの?」
むう、心を読まれた?・・・わけないか。
―――断る理由はなにもなくイタリアンとやらをタダで食べれるような流れだ。
「うれしい、断られるかと思ってたから。ま、まるでデート・・・みたいですよね」
などと言い残し嬉しそうに旅館の廊下を去っていった。
―――なんか最近ツイてるな・・・。
今日は全部タダじゃないか。
イタリアンとかも名前からして高そうだが・・・美味しいんだろうか。
(まあ蘇生代をもらうのは当然だよ・・・当然・・・多分)
「あの・・・神明くん・・・ちょっと」
今日は良く女性に後ろを取られるな・・・この声はよく知っている。
・・・振り向いた瞬間、目が尖っているタイガーセンセに僕は拉致された。
―――それでここはタイガーセンセの泊っている個室のようだ。
生徒は大部屋のはずだから・・・教官はいいな・・・それぞれ個室なのか。
「まあそこに座ってくれる?神明くん」
畳の上の座布団に座れと仰せのようだ。
(今朝は逃れたが昨日、一日行方不明だったことを叱られるかな・・・)
「先生は怒っているのよ・・・」
「・・・」まあそうだろうな。
「今も他の女子なんかと話して・・・」
「・・・はあ?」
「華宗我部さんと話してたでしょ・・・」
「ええ?」
「まあ、そんなことはどうでもいいわ。朝の約束通り部屋に来てくれたし」
強引に連れ込まれたんだけど、約束ってなんだっけ。
額に一瞬、軽く皺をよせながら鳥井大雅先生が近づいて来る・・・そして両肩を掴まれた。
「一つ分かったのよ。神明くん・・・じゃなくってアキラ・・・あなたって言わないとわからないのよ。どうも伝わっていない気がするの」
「はい?」
なんなんだ、僕が鈍いとでも言うつもりか・・・自分で言うのもなんだけど結構ぶっちぎりで賢いのだ。
「あのね。この際ですから、はっきり言います。結婚したいの。将来的に・・・貴方と・・・神明全と・・・」




