3-1-8.決め顔で修学旅行へ行こう⑧
とある街の片隅を僕は歩いている・・・アメリカのサンディエゴという街だ。
異国を歩くと言うのも悪くない・・・こういうのも楽しいのだと感じるのは驚きだ。
ジョギングしてる人がちらほらいる。
つい数時間前まで“ニルヴァーナ”の秘密の拠点が特殊部隊に同時に攻められて・・・メキシコの拠点では特殊部隊が敗北して・・・戦闘は次元環“ポラリス”にうつり・・・さらに都内の“イリホビル”まで巻き込んで小さな戦争をしていたのだが・・・まるで嘘のようなキレイな朝だ。
次元環スピカの管制塔に数時間滞在して、かなりのデータを集めることができたしポラリスの発掘状況もよく分かった・・・Xシリーズについても、だ・・・まあ西園寺御美奈に変身して管理者権限でアクセスしたわけだから・・・管理者数人のIDがいるトップシークレットのもの以外は読むことができた。
そして森崎に言った通りODCシステムでサンディエゴに飛んだわけだ。名目は影武者の西園寺御美奈と本人が入れ代わるためだが・・・救助されたのはもともと本人だし・・・。
管理者が数人必要なもの以外は・・・結構予想外にヤバいデータもみつかったし・・・なにより物質変換加速器の―――。
「おはよう、いい朝だね」
ん?知らない杖をついたおじいさんに街角で話しかけられている。
白い髭に、頭頂部の白髪の毛は少ないが・・・目には力がある。身長は僕より15センチは高いか。
ん?ひょっとしてこの人は・・・いや、まさか・・・。
抜けているところもあるが、結構・・・僕は切れ者だ・・・。
そうか、彼が会いに来たのか・・・。
おおう・・・予想外。
「おはようございます・・・ひょっとしてドールさんですか?」
さすがに恐る恐る聞いたのだが回答は即答された。
「ああ、その通りだ。プリンス・アキラ―――」
(まじかぁ・・・探すつもりが・・・すでに見つかっていた?まあ手間が省けたか・・・)
ここで戦闘になれば一般人にかなりの被害がでるだろうが・・・ま、仕方ないか。
―――さて何故か・・・本当に何故か・・・。
“ニルヴァーナ”最高指導者と白いベンチに隣同士で座ることになった。
街の中心部からは離れているが往来にはバスやビジネスマンなどがちらほら通る。
(いやあの・・・修学旅行ってまだまだ期間があるし・・・期間内にみつけて倒してしまうつもりだったのだが・・・そのためにODCシステムで取り敢えずアメリカまで飛んだわけだが・・・)
一体全体・・・さすがに先が読めないな・・・“ニルヴァーナ”創始者・・・名前はドール・・・生きる伝説だ・・・竜族の召喚戦士・・・霊眼持ち・・・高齢・・・あとはベールに包まれている。
「ベースボールは好きかね?アキラ?」
「ウェル(うーん)・・・ノー(嫌いです)」
なんの話しなんだ?
「ではフットボールはどうかね」
「ノー(嫌いです)」
ODCシステムで飛んできた僕をどうやってみつけたんだろうか?
「ふむ、バレーボールは嫌いかね?」
「ノー(嫌いです)」
広範囲を監視するような能力かな・・・例えば僕のビジョンアイのような・・・。
「ではテニスはどうかね?」
「嫌いではないですね」
だとすれば・・・。
「なるほどチームプレイは苦手かな・・・アキラは」
「苦手ですね」
手強そうだな・・・このおじいさん。
「では山登りはどうだね」
「ああ、それはいいですね。好きです。想像するのは好きですよ。実行しませんけどね」
「なるほど創造的だな、プリンス・アキラは」
・・・とても・・・。
桔梗より強いんだろうな。
「残念だな。ベースボールは嫌いか、チケットをあげようかと思ったのだが・・・」
「ええ、すみません。人が多いところも苦手で・・・」
本当に残念そうだな。
殺気はない・・・そういったハイレベルの殺人鬼はこの世にたくさんいるだろう・・・探せば。
だが、この柔和な感じはなんだ・・・恐るべきテロリストの影もない。
「男の子はみんなベースボール好きというのは確かに偏見だな・・・嫌いな物ほどプレゼントされて困るものなはいですからな。プレゼント交換はするかね?アキラ」
「日本ではあんまりプレゼントとか交換しません・・・」
うーん?どういうつもり?
いつ戦闘になっても遅れを取る気はないが・・・。自身の魔力は連続テレポートでほんの少し疲れているがパフォーマンスが落ちるほどではない。
「ああ、それは僕が孤児に近い状態からかもしれませんが普通は親から貰いますもんね、小さいころはもらったかな」
「友人の誕生日にプレゼントをしたことはないのかね?」
会話なんて興味はない。
・・・伏兵はいない・・。
みんなポラリスごと次元の歪みの深部にぶち込んじゃったもんな?
事実上“ニルヴァーナ”のお仲間は消滅してしまった・・・。
このお爺さんは弔い合戦する気・・・か?
ま、仕方ないか。
「プレゼントですか?ありませんね。友人もいませんから」
「プリンス・アキラ・・・一度もプレゼントをあげたことは無い?」
何を驚いている?
なんの会話が続くんだ?
「ああ、女性に一度だけ送りましたね」
「ほうほう、ガールフレンドかね?」
なんなんだ?このフレンドリーな会話は。
「いえ。アビルって名前のメイドですよ」
「おう、メイドか。なにをあげたのかな?」
会話をするための会話・・・かな・?
何かを待っている?
僕をトラップにかけるのは難しいと思うけどな。
「グリーンのリボンですよ」
「そのアビルという女性は大切にしてくれているかな?その贈り物を?」
あなたを消滅させに来てるんですけどね・・・僕。
当然気付いているでしょう・・・ドールさん?
「命より大事だそうですよ。ジョークでしょうけどね」
「事実をジョークにすることはよくあることですよ」
なんだ?コイツ・・・。
「それにしても美しい少年だね。プリンス」
「僕は自分の外見は大嫌いです」
白い髭のお爺さんは少し笑ったようだ。
作り笑いには見えないが。
「チームプレイが嫌いなわりにはとてもいいチームを持ってますな」
「あれはチームというかギブアンドテイクで成り立っているだけですよ、チームとは言わないです」
なんなんだニコニコして・・・。
いいチームって“Z班”のことだよな・・・どこまで情報があるんだろうか。
どこまで見ていたのか。
「個人主義なのは喪失を恐れるからかね?」
「なにも・・・恐れていませんよ?」
恐れていたらこんなとこ来ないよ。
「自分に属している者が少なければ失う恐怖に苦しむこともない」
「・・・?」
「ガールフレンドもいない。チームも持たない・・・だが非常にアキラは慕われているね」
「いや・・・あの」
なんかややこしい会話になってきている。
戦うなら戦うでいいんだけどな。
「それはないでしょう。ギブアンドテイクですよ、やっぱり」
「ギブアンドテイクで命は賭けないでしょうな・・・あの髪の長い女性はどうです?」
髪の長い?・・・黒川有栖のことを言っているのだとすれば・・・。
ひょっとして僕以上の遠隔視能力者か?
アメリカ西海岸から東京を見るのは・・・さすがに僕でも無理だ・・。
あるいは霊眼持ちの僕の心を読む?・・・不可能なはずだが。
「彼女の安全は保障しましたからね」
「その信頼こそが仲間の絆そのものです・・・あるいはそれ以上の」
どっちにしても、このニコやかなおじいさんは手強いな・・・。
しかし・・・アメリカから東京のイリホビルを遠隔視できるほどの“超”超能力者ならば・・・“ニルヴァーナ”の仲間を助けられたのでは?見殺しにした?間に合わなかった?
しかしまるで、なんというか・・・この人は・・・このおじいさんから感じるのは。
「君は変わった少年だ。まず悪意がない・・・敵意もない・・・後悔もない」
「それは今思いましたけど・・・そっくりあなたにお返ししますよ。ミスタードール」
それは今こっちが考えていたことだ・・・全く殺気が無い・・・苦手なタイプだ。
殺気がないと読みにくい。
「ミスターと呼んでくれてありがとう。では私がなぜ“ドール”と名乗っているか、ご存知かな?」
「さあ、知りません」
名前なんて記号だよ・・・どうでもいい。
そして“ニルヴァーナ”最高指導者の身の上話がはじまった。
「少し昔話になりますがいいかな?・・そうあれは1975年ですな」
80年前か・・・。
「試験管の中で私は生まれた。グループDの胚細胞から生まれたのです。まわりには大勢仲間がいたはずですが。泣いて肺を膨らませてベイビーとして誕生できたのは私を含め3名でした。そして15歳まで生きたのは私だけでした」
胚細胞のグループ・・・?
「私に与えられた記号はD-011(ディーオーイレブン)でした。施設は日本の関東の地下深くにありましてね。そこが私たちの世界のすべてでした。グループBとCは全滅。育ったものはグループEも3名いて、グループFは5名。我々は11名でよく遊びました、白衣を来た先生たちともね」
なんだドールの過去の映像が見える・・・接触テレパスのような能力か?
「ドラゴンと感覚合一して召喚士になったのは12歳の時でした、仲間も先生たちも祝福してくれた。11人の仲間は少しずつ減っていきましたが、そこしか知らない私はそういう物だと思った。仲間にステキな女の子がいました。名前はF-010(エフオーテン)というかわいい子でした、3つ年下でした、彼女が後の“フォックス”です」
精神汚染はないが・・今のところ。
「GE・・・竜王の霊眼ですな・・・我々はこれの実験体だったのです。人工的に霊眼を持つ子供を作れないかというわけですな。もちろん兵器として・・・」
「・・・様々な薬剤が投与されて、特殊な魔術も施された。その度にあるものは高熱に、あるものは全身に発疹がでて生死をさまよった・・・ところで竜王の霊眼には詳しいでしょう?アキラ?」
この話は興味がある・・・竜王家特有の特殊能力、霊眼持ちを人工的に造る・・か。
複雑な御所の封印が解けるわけだ。
「竜王の霊眼は血ですよ・・・王家の血筋のものでないければ・・・発動しないはずなんですけどね、やはり人体実験を繰り返したわけですね」
「そう・・・我々はね・・・全員が王家の遺伝子を組み込まれているのです・・・」
「・・・!!!」
まじかぁ・・やっぱりな・・。
あまり表情のない僕だが、困った顔をしているだろう。
「“スーパーセル”と呼ばれた細胞が1971年に御所・・・次元環ポラリスから見つかりました、当時はポラリスではなく次元環アンステーブルと呼ばれていました。瘴気の無いアンステーブルは封印する悪魔がいない。つまり封印されていない。そう、信じられないことに地下深くのあの石棺から4000年間生きのびた細胞がみつかったのです」
「御所は王家の者が眠る墓地・・・生きた細胞が本当に?では」
霊眼の能力は千差万別・・・その竜王家の遺体の生前の能力か?
にしても4000年は長いが・・・。それにしても“あの石棺”という言い方は僕が知っていること前提か・・・では、あの3人のことも見えていた?
「そうです。彼らは墓を暴いたのです。ミイラ化した王家の遺体を隅から隅まで調べて冒涜した」
「いえ、ではあなた方は・・・竜王家の子孫ということですか?」
まじか・・・僕や葵の遠い親戚というわけか。
目の前を赤いバスが通っていく。
「それは少し違うでしょうな。プリンスよ。我々はクローン科学技術とホムンクルス魔術技術によって生まれた“母の無い子”なのです。成長は早く、寿命は短く、男と女に分かれていますが生殖能力はありません・・・GEの発現の有無にかかわらず寿命は30年前後なのです・・・そのスーパーセルのDNAと他の何かの遺伝子を掛け合わせて作られた・・・生体兵器のプロトタイプ・・・」
寿命30年って・・・いやああなたは80歳でしょう・・・まあそういう能力というわけか。
さすがの僕も驚く話だった。
次元環で見つかった4000年前の遺体から探索隊は生命反応を感知して、そして採取した細胞はなんと生きていたのだと言う。
すぐ保存されて研究が開始されて・・・その“スーパーセル”を使って竜王家最大の能力にして謎の・・・竜王の霊眼を解き明かそうとしたのだ。
つまり“スーパーセル”とは4000年前の竜王家の誰かの細胞というわけだ。
サンプルは多いほどいい。
東京だけではない、世界複数の実験施設で多施設共同研究がスタートしたのだ。
胚細胞は実験環境ごとにB、C、D、E・・・とアルファベットでグループ化された。
そして“スーパーセル”は世界中の人種と掛け合わされたわけだ。
そして成功例の一人が“ドール”さん・・・というわけだ。
竜王の霊眼の研究だけではない・・・どうやら西園寺グループ前総裁の西園寺孝蔵は“不老不死”の研究もしていたようだ。また後天的に霊眼の付与が可能か・・・恐るべき数の非人道的実験は繰り返された。
その“スーパーセル”は生体兵器の研究材料に・・・一部特権階級の不老の欲望を満たすために・・・巨万の富を生むために・・・西園寺グループに嘗め尽くされたわけだ。
全く吐き気がする話しだ。
1991年ごろ・・・。
地下施設では・・・11人の仲間は7人に減っていたが、グループFはさらに成功例が増えて6名が産声を上げていた・・・それを“ドール”さんと“フォックス”さんはガラス越しに見るのが好きだった。
竜王の霊眼は施設の研究者の予想外の能力を2人にもたらしていた。
“フォックス”さんには未来予知能力が発現し仲間の全滅を一人でこっそり予知していた。“ドール”さんには遠隔視能力があり・・・結界を越えて2人は念話があるとき可能になり・・・飛躍的に情報量が増えて・・・そしてさらに念話ができるようになった頃“ドール”さんは結界を越えて遠隔視が可能になり、あんなに遊んだ仲間が実験後に破棄されていく様を見て・・・決心した・・・計画を練り“ドール”さんと“フォックス”さんはもう1人を連れて3人逃げた・・・他に誘った仲間からは断られて・・・逃げた瞬間に・・・その断った1人は先生と呼ばれる研究所職員に通報し警報が鳴り響いた。
霊眼を持った竜族の召喚士が3人暴れたのだ。
その研究所は驚くほどの被害が出て数日後に閉鎖された・・・地下に置いてきた仲間がどうなったかは新しい世界への順応で、あるいは逃走に時間を費やし、とても分からなかったそうだ。
地下から広い世界へ出た“ドール”さん達は自分たちが他の誰とも違うことを悟った。
自分達のことを“母の無い子”と呼ぶようになった。
さらに実験体番号はD-011これを強引にドールと読み、名乗ったわけだ。
フォックスはF-010、つまりF-0Xというわけか。
遠隔視で見て覚えていた情報から次々と各国のGE研究施設を攻撃した・・・。そして実験体である“母の無い子”達を霊眼の有無に関係なく救い続けたのだと言う。
だがテロリスト“ドール”はマークされ、次第に簡単には施設を攻撃できなくなっていった。また特殊結界で遠隔視が難しくなり仲間は移送されたあとで空振りも増えた。
そして救った仲間も戦闘や投与された薬剤の副作用やホムンクルス特有の短命が相まって命を落とすものも多く、生きていても出て行くもの、精神的に不安定なものも多く短い付き合いとなることは比較的多かった。
数年たち“ドール”が自分達をテログループ“ニルヴァーナ”と名乗るようになったころ。あれほど仲の良かった、あるいは愛し合った“フォックス”はとある研究所の襲撃に成功してアジトに意気揚々と“ドール”がもどったとき、すでに手紙を置いて出て行ってしまっていたそうだ。
手紙には「世界にただ静寂を」とだけ書かれていたようだ。
それでも走り出した“ニルヴァーナ”止まれなくなっていた・・・強硬派がすでにリーダーの“ドール”の命令を無視することもしばしばあったし、仲間を助けたいという思いは“ドール”の胸から消えることはなかったのだ。
超強力な能力者も増えていき国際的テログループとして長く、長く戦闘を繰り返すことになった。報復には報復で返し、慈悲は与えなかった。
そのころ“フォックス”はSOL(Song of liberty)という団体を作りその教祖のようなリーダー的な存在になっていた。
GE能力で近未来を的確に予知する“フォックス”は実験体“母の無い子”だけでなく、恵まれない子・・・能力者も一般人も子供ならすべてを救おうとしたようだ。
“ニルヴァーナ”から離れてSOLに入る能力者も少なくない数がいたようだ。
・・・20年たちSOLはやや宗教色を強めていたが救いを求めるものをできる限り救い続けた。
学校や宿泊施設も各国に作り特に身寄りのない孤児を引き受け続けた。
関連する施設や人間も増えていった。
だがこのSOLは内定され20年ほど前に、アメリカとヨーロッパに6つあった施設すべてが対テロ特殊部隊に襲撃され無抵抗のまま職員と救われるべき人間たちは惨殺された。
なにもかもを“フォックス”は予知できるわけはないし、さらに強力な能力者は敵にもいる・・・数多くいる。
「プリンス・アキラ。彼女は“フォックス”は20年ぶりに250人程生き残ったSOLの仲間と共に“ニルヴァーナ”へ戻ってきたのだ。子供ばかりで大変だったが、ただ・・・ただうれしかった。久しぶりに2人きりでブレックファストを一緒に食べた。あの味はね・・・忘れられないのだよ」
映像とともに流れ込んでくる彼の過去はなかなか重厚だ。
「・・・“スーパーセル”だよ。未だ行方不明のね」
唐突にドールは言う・・・今は彼の話しに興味がある。
「震えあがっている、逃げてきたばかりのSOLの子供が眠れなくて泣くから、慰めるために作った・・・フォックスが作った創作話なのだ。“スーパーセル”は神の細胞で・・・“スーパーセル”が自分たちを救ってくれると・・・あれこそが神の化身なのだと・・・」
なんだ?感情まで流れ込んでくる・・。
「わたしはね。アキラ・・・もう14年も前に“ニルヴァーナ”を出たのだ。追い出されたと言ってもいい。もう15年前には“フォックス”は“ニルヴァーナ教”の絶対的な教祖さまになっていたのだ。だれもわたしのことなど聞く耳を持たなくなっていた」
そうか・・・“ニルヴァーナ”の指導者はフォックスか・・・。
15年前といえば・・・“ニルヴァーナ”がさらに過激に破壊的活動を行うようになったころだが・・・。
「わたしと“フォックス”はなぜか一緒にいれないのだ、並び立てない。何十年もそうだ。何度もSOLに迎えに行きたがったができず、“ニルヴァーナ”を些細なことで追い出された後も頭を下げてもどることを心のどこかが拒絶したのだ。わたしが彼女といっしょにいた時間は短いのだよ」
「ただね。気にはなっていた。ずっとGEで“ニルヴァーナ”を観察していたのだ。君と同じようにね。そして20年も繰り返せば“スーパーセル”は神という作り話を“フォックス”は自分でも信じるようになっていたのだ。“スーパーセル”を探して取り戻すのが“ニルヴァーナ”の至高の目標というわけだ」
待て待て・・・ポラリスにもフォックスはいなかったようだけど。
「そしてどこまで正しいのか分からないが。変わってしまった“フォックス”は最後の未来予知をつい最近したのだよ、“ニルヴァーナ”の幹部たちにね。“スーパーセル”は目覚めたのだと神の人が生まれたのだと・・・救世主がもうすぐ覚醒するというのだ・・・極東で赤いGEを持つ救世主を探せと・・・最後の予言をしたのだ」
「最後というと・・・フォックスさんは亡くなった?」
そうか、やっぱり亡くなっていたか・・・。
それで救世主だって・・・赤い霊眼?
「わたしは見ていたのだ・・・予言の最後に、あるいは途中だったかもしれない・・・彼女の身体は突然潰れて消滅したのだ」
「は、はい?なにかの攻撃ですか?」
「あらゆる攻撃魔法は感知できなかった・・・まるで突然・・・子供が紙を握るように潰れて消えてしまったのだ・・・まるで自分の未来予知に飲み込まれるようにね」
本当か、と言いたいが・・・僕と似たような能力の“ドール”がそう感じたのなら・・・他者からの攻撃でないなら、自傷行為に近いのだろうか・・・未来予知に飲み込まれると言われてもなぁ・・・。
「あとは知っての通り“ニルヴァーナ”において戦闘ではエース級といえるジョーとケーイレブン、そしてスリーセブンの3人が先遣隊として降魔六学園へ偵察に行き、プリンス・アキラ。君1人に負けたのだ」
やっぱりあの時、海上でケーイレブンが念話していたのはドールというわけか。
「ジョーはテレポーターだ、勉強熱心で優秀な子だ。ケーイレブンはやんちゃでね。仲間でも敵でもだれとでも力比べをしたがる。スリーセブンは電気系統をあやつる緻密な情報係だ・・・全員私が研究所から救い出した、我が子だ」
おお・・・やっと戦うのか。
長っがい話しだった。
いや・・・そうか・・・戦いは無いな・・・無いと思う。
“ドール”は白いベンチの僕の隣に腰掛けたままだ。
「我々は実験番号でよばれるのは嫌がる・・・ケーイレブンくらいだ。実験番号を名乗っているのはね。わたしの番号はD-011で彼はK-011だ。イレブンはわたしと同じでラッキーナンバーだと言うのだよ。ちなみにジョーはJ-003でスリーセブンはH-021だ」
「どうして僕にそんな話を?」
情報が多かったな、整理しないとな。
「それはプリンス・アキラ。あなたならきっと分かるはずだ。では失礼するよ」
立ち上がろうとした“ドール”はもう一度こっちを向いた。
「そうだ、アキラ。ブレックファストをおごりましょうか?一人より二人の方が美味しいかもしれない」
そういえば香樓鬼さんが言っていたな、テロ組織“ゲヘナ”の予言者は破壊の神が生まれると予言したのだったな。その誕生に香樓鬼さんが立ち会うと。
そしてテロ組織“ニルヴァーナ”の予言者フォックスは救世主が覚醒すると予言して消滅した。
何らかの関係があるのだろうか。
“ゲヘナ”の予言者もメキシコで亡くなったんだったか・・・まさか潰れて消滅したなんてことは・・・。
高度な予知能力者がメキシコで2人命を落としている・・・因果関係を考えるべきか?
まあしかし。
アフロに言わせれば予言なんて当たるも八卦当たらぬも八卦、間違いないと言ったところだろうし。
気になると言えば気になるか・・・救世主の赤い霊眼か・・・如月葵の右目のことか・・・それとも?
仮定だ・・・フォックスの言う救世主が葵として・・・破壊神はなんだ?
もちろん―――ブレックファストはおごってもらった。
「メキシコ料理は好きかね?プリンス・アキラ」
「もちろん、食べたことないです」
ここサンディエゴでは有名なタコスの店らしい・・・青い海が見えるキレイな所だ。
当然だ・・・断る理由などない。
恐らく寿命30年の“母の無い子”である“ドール”が長生きなのは霊眼の力だろう。そして“フォックス”が長生きなのも多分、目の前の“ドール”が霊眼で守り続けていたのだろう・・・数十年も。
少し彼の精神と繋がっていたせいで余計なことまで感じ取ったようだ。
僕の霊眼はさらに感じている・・・“ドール”はもう霊眼を発動することは生涯ないだろう。
つまり生きる理由であった人が失われて・・・それでもって彼自身ももう体細胞の崩壊が・・・。
結局、僕とドールには現在戦う理由がない・・・しばらく霊眼の能力で繋がったせいだろう・・・お互いに短い命だと、何となくわかり合ったわけだ。
ま、いっか。
彼との戦いは死闘になるだろうし、戦うより美味しいブレックファストの方がいい。
タダだし・・・。
タコス料理ってこんな美味しいんだ・・・感動的だ。
色々話して食事したわけだが、食べながら一つ思いついた。
む?そんな話があるだろうか?
ただの思い付きだ。
“スーパーセル”の実験番号はA-01なのだろうか?
だとすれば・・・面白い。




