3-1-7.決め顔で修学旅行へ行こう⑦
―――無人となったスピカ管制塔・・・。
次元環スピカは次元環ポラリスと同様に竜王の御所の一部であるがポラリスと違い、数年前に研究・探索は終了している。
見つかったのもポラリスより早く、面積も狭かったのだ。
また次元座標も安定していたわけである。
先ほど、2人いた駐在員もイリホビルへ転送され現在は完全に無人だ。
ほんの少し前にオペレーターが操作しあらゆる監視システムもダウンさせてある。
―――スピカ管制塔転送ルーム・・・ルームナンバー2・・・。円形で半径8メートルほど・・・まあまあの広さだ、しばらく使用されていないが定期メンテナンスは受けており内装はとてもキレイだ。
イリホビルからスピカの転送ルームにゲートが開く・・・。
問題なくODCシステム・・・任意次元転送システム・・・は問題なく稼働している。
3つの光柱が現れて次第に人の形になっていく。
イリホ転送室から3人とも当然無事にスピカに到着というわけだ。
現れたのは・・・。
西園寺御美奈。
イリホビル担当のオペレーター。
ポラリス担当オペレーター。
この3人の女性の登場というわけだ。
転送ルーム内には・・・少し離れたところにもう一つ影がある・・・。
この影はこの3つの光柱から3人の女性が出てくるところをじっと黙ってみていたのだ。
長身でロン毛・・・黒のパンツスーツだが上着は破れて下着が見えている。
眼光鋭い女性・・・そう、黒川アリスだ・・・彼女もスピカ転送ルームにいた、待っていたと言ってもいい。
イリホビルからやってきた3人は黒川アリスの存在に気付く。
4人が顔を見合わせて対峙している・・・。
しばし・・・無言。
ポラリス担当オペレーターと西園寺御美奈は一瞬目配せする。
「悪い子がいますね・・・」
そう御美奈が言い放った。
―――奈良県のとある旅館の一室・・・非常に重苦しい雰囲気となっている。
鳥居大雅先生に身長205㎝の村上くんが呼び出されているのだ・・・彼がいると部屋が小さく見える。ついさっき歩いている所を見つかり部屋に連行されたのだ。
言われたわけでもないのに村上くんは既に正座してありがたいお話しを聞いている。
「じんめ君はもどりましたか?」
「いえ・・・すみません。まだじゃないかなと・・・」
「一回ももどってないのね?」
「いやあ・・・一回、一回来たかな・・・すみません」
「はい?戻ってきたの?いつ?今どこにいるの?」
「いやあ・・・いまはちょっとわからないんですけれど・・・すみません」
巨体のわりに腰が低く、やや内向的で異常に丁寧な村上君は顔面にやや汗を垂らしながら困り果てていた。
「まさかあの子へんなことに巻き込まれていないでしょうね?見た目はかわいいし、人さらいにあったらどうするの!」
「せ、先生・・・人さらいってそんな時代錯誤な・・・しょ、召喚士のチャンピオンですよ、もけ君は」
「・・・心配なのよね・・・もう、いいわ。他の子・・・部長君たちを呼んできて・・・ああ、そうそう・・・青木君はいらないし、ダイブツくんは別にいても呼ばなくてもいいわ」
「あの・・・先生・・・えっとですね」
さらに村上君は奈良で徳を積むことになりそうだ。
―――次元環スピカの丸い転送室では・・・。
黒川有栖が・・・・・・身もだえしながら笑い転げていた。
静かな転送室に笑い声がコダマしている。
それはもうダークアリスは楽しそうに・・・。
「あははは・・・あーははははははは!ダメ・・・殺される・・・」
―――イリホビルで先ほどまで指令室として機能していた一室。
油ギッシュな森崎は小躍りしていた。
「おおお!すばらしいではないか・・・これでこれでこの森崎は・・・」
「忙しくなりそうだ・・・用意せねば!準備せねば!」
1人残されたオペレーターに笑いながら背中にボディタッチしながら森崎は言う。
「お言いつけ通りすべてすべてのポラリスに関するデータを消去するのだ・・・本日使用した端末もメインサーバーも関連したものは全て破棄せよ」
絶望から安堵へと変わり、そして未来への期待でひと時の幸福に森崎は酔っていた。
―――スピカで転送ルームは人数が増えていた。
黒川有栖の影から何か出てきたのだ・・・上半身だけ出ている。
出てきたのは金髪のオールバック・・・金髪はやや乱れている
「おおもう、頼むぜ。おれっち狭めえとこ、苦手なんだよ・・・」
降魔第6高校始まって以来のバカ・・・と呼ばれていたのはしばらく前まで・・・最近ではマスターフリーザーとか氷結の反逆者とか呼ばれている男・・・オールバッカ―だ。
よいしょっという感じで出てきて・・・首や肩をグキグキと鳴らして有栖の横に立った!
「いやもう狭めえんだよ・・・それにしてもよ、うまく化けてるじゃねえか星崎ちゃんよぉ」
もう1人影から出てくる・・・今度は下半身だけだ・・・青木くんか。
シルエットがぼやける・・・。
西園寺御美奈の身体が変化していく・・・。
身長が減り、一回りサイズダウンだ・・・そこには私服姿の星崎真名子がいた。
そう、星崎真名子はコピー能力を使って西園寺御美奈に成りすましていたのだ。
ふうっとため息をつく真名子も安心したように笑っている。
「いやあ緊張したよぉ・・・ミイロミューンありがとう」
真名子のコピー能力は他に類を見ない、かなりの知識を誇る僕でさえ聞いたことがない。
まあ当たり前か、真名子の竜は特発株なのだ・・・非常に珍しい。
能力が珍しくてもおかしくはないのだ。
他に類がないため長所も短所も一つずつ調べるしかないのが問題ではある。
青木君の下半身が黒川さんの足元からでてモゾモゾしている、何か引っかかっているのか出てこない・・・。
誰も助ける気はないようだ。
とにかくこの部屋にはいま6人いるわけだ・・・1人は下半身だけだが。
オペレーター2人は顔を見合わせる・・・。
そして真名子の右隣にいるポラリス担当オペレーターのシルエットもぼやける。
左隣のイリホ担当オペレーターのシルエットもぼやけていく。
薄い茶髪のオペレーターの髪の毛の色が青くなり少し長くなり・・・神明全の姿に戻っていく。
黒髪ショートの髪の毛は緑になりどんどんボリュームを増していく・・・アフロと呼ばれる髪型だ。
そうオペレーターに化けていたのは・・・第6高校“Z班”の部長アフロと副部長の僕である。
「いやいや、星崎さんやるもんだね。お芝居上手かったよ」
これはお世辞でも何でもない、僕の本心からの言葉だ・・・めちゃくちゃ上手かった。
「キエ~!星崎、褒めてつかわす。迫真の演技であった。間違いない」
隣の緑アフロ隊長だが褒めるのはめずらしい、間違いない。
まあ、なんにせよ。
よかった、よかった。
「じんめ先輩、さすがです。元に戻った方が美しいなんて・・・」
良く分からないことを潤んだ目でアリスが言っている・・・相変わらず身長高いな。
「黒川さんもパーフェクトな仕事ぶりだったね。すごいよ」
「ああ、あたしは好きなだけ暴れただけだけど・・・先輩に褒めてもらえるなんて・・・」
「そうだぜ、おれっち、影から見てたけどよぉ。ありゃ悲惨なんてもんじゃなかったぜえ。魔力を使えねえヤクザがボーリングのピンみてえにぶっ飛んでいったぜ、一般人に手加減抜き・・・すげえぜ」
「うるせえ、アタマ燃やすぞ、コラ・・」
2年生不良女子に3年生不良もどき男子がにこやかに脅されている・・・平和だな。
おお!とうとう出てきた。
そして直立して敬礼し学生服の青木君は宣誓した・・・いやなんで学生服なんだ?
第6高校の制服はブレザーなんだけど?
意味が分からん。
「真っ赤なバブルで真名子の身体を洗いますダス!」
「ミイロミューン、頭の中が病気の青木を殺して・・・」
結局、真名子の能力が今回のキーなわけだった。
それは“劣化コピー能力”と呼んでいるがある程度の質量同士なら見た目を入れ替えたりそっくりに変身できる、人間や鉱物に変身すること・させることが可能・・・召喚士の魔力も70%ほどの出力となるがコピー可能・・・さらに魔力の効果範囲を拡大したり・・・最後に複数の召喚士の能力を同時発動も可能だ、この場合はコピーする能力者が近くにいる必要がある。
いやあとんでもない・・・竜族特発株のミイロミューンによるチート能力だ。
太平洋上で西園寺御美奈本人の乗っている真っ赤なプライベートジェットを僕が爆発させた瞬間にヴィジョンアイで彼女の情報をコピー・・・そして数回テレポートして奈良へもどり、その情報を接触テレパスをつかって星崎真名子と共有したのだ。そして星崎真名子は西園寺御美奈に化けた。
そして西園寺御美奈本人は付き人たちと太平洋上に墜落したプライベートジェットの赤い破片の上で波間をたゆたっていたわけだ。真名子が化けた西園寺御美奈社長の命令で海上封鎖したために・・・本人が米軍に発見され保護されるまで数時間稼げたわけだ。
あと僕が何回テレポートしたか・・・大変だった。
森崎部長とは「―――影武者がサンディエゴで保護されているので入れ替わってきます。ここへ来たことは内密に、私がイリホビルにいたことはトップシークレットです。分かっていますね」「もちろん理解しております、社長」という会話をして御美奈に化けた真名子は次元環スピカを中継してサンディエゴ市へODCシステムで空間転移するという名目のために今やって来たのだ、オペレーターを2人指名して連れてきたのはあらゆる痕跡を消すためと森崎は理解しているだろう。
黒川有栖の影には僕の抗術でオールバッカ―と青木君をぶち込んで、さらに真名子の“劣化コピー能力”を無色の魔晶石に取り込んで任意の時間に展開できるようにしておいた。そして吟悟会のヤクザに取り囲まれた瞬間に無色の魔晶石を発動・・・ダークアリスは自分の影の中にいる召喚士の能力である“あらゆる魔法干渉の無効化”“範囲硬質化”“範囲氷結結界”の三つの能力をコピーし同時発動したわけだ。あらゆる魔法干渉の無効化により魔封結界は黒川には効果がないわけだ。
インハイの決勝リーグで複数の能力をお互いに干渉させずに真名子が同時発動できているのを見て、この方法は以前から思いついていたのだ。無色の魔晶石は30分ほどで消滅するために時間制限があるが・・・とてつもない切り札になった。
あとは見ての通りだ・・・森崎が指令室に呼び出した3人のオペレーターのうち2人を抗術で眠らせてこれまた“劣化コピー能力”を取り込んだ無色の魔晶石を僕とアフロが発動し2人に変身して入れ替わったのだ。無色の魔晶石は30分で消滅するため事前に複数用意していたのだが余裕で“オーディンの槍作戦”を乗り越えられた。
そう、オペレーターに化けた僕とアフロは・・・地下5階のシャッターのロックをかけ部隊を閉じ込めたり・・・ポラリス管制塔の防衛システムを切ったり・・・実験場結界を解除したり・・・ポラリスとイリホビルをODCシステムで繋いだり・・・“ニルヴァーナ”がイリホビルに来るとか嘘を言ったり・・・ダークアリスはスピカへこっそり飛ばし・・・残りのヤクザと咲原少佐の部隊をポラリスへ送ったり・・・忙しかったのだ。ビジョンアイの能力をフルに使って眠らせたオペレーター2人の記憶を読みIDやパスワードも覚えてさらに接触テレパスでアフロにもその記憶を共有させた・・・ダークアリスのあらゆる記録を消去し・・・最後に次元環ポラリスを次元のゆがみ深くに力場から切り離してぶっ飛ばし、事実上消滅させることに成功した。
もしポラリス管制塔に行ければ・・・イリホビル指令室にいたオペレーターの僕が散々に防衛システムを強制ダウンさせまくっていた記録が出てくるだろうが・・・さらにポラリスからの映像や通信は完全に遮断しておいたのだ・・・そう、次元環ポラリスはすでに行方不明になっている・・・事実上ポラリスは消滅である・・・さらに僕とアフロの使っていた端末やサーバーは初期化して迅速に破棄する命令を森崎に出している・・・勝手に次元環ポラリスを破棄したことが幹部会でバレれば森崎は消されてもおかしくないのだ・・・命令通りするだろう。
つまり僕とアフロが森崎の目の前で実は大暴れしていた痕跡は一切見つけられないだろう。
さらに話はその前にさかのぼる。
“ニルヴァーナ”が攻めてきた時、チャンスだと思ったのだ。
これは使えると・・・。
とりあえず“ニルヴァーナ”と“西園寺グループ”を戦わせればいいのだ。
それに御所の封印も同時に行えないか・・・。
そもそも共倒れじゃなくても、どちらかが一方的に勝っても問題ないのだ。
そう考えた。
いやあ僕って賢いな・・・。
うん?でっかいブロッコリーが目の前に・・・。
「キエ~!余裕であったな」
そうだな・・・僕の計画は決行日とか細かな所はアフロに直されたが・・・御美奈がプライベートジェットにのる日時もアフロが2日前に衛星写真から予想してくれたのだ・・・恐ろしい男だ。
そういうわけで予定通り・・・“Z班”の連中を竜族の召喚士にしてあげた対価として“竜王の御所”の封印を手伝ってもらったわけだ。
む?スピカの転送ルームにもう1人・・・予想外の反応がある?
敵か?近いぞ!
しまった・・・何か見落としたか?
「グモ~~~狭いのじゃ!きついのじゃ!出口に物を置いてはいかんのじゃ~~!!」
んん?黒川有栖の足元からでっかい顔と天然パンチパーマと右腕だけが見えている・・・。
ああダイブツくんか・・・いたんだ。
ま、いっか。
こんなに上手くいくなんて。
「キエ~!さて長居は無用である。留守番の村上が今頃、鳥井教官に絞られている頃であろう。帰るぞ、皆のもの」
「すぐ、ODCシステムで奈良まで送るよ・・」
「あれ、もけちゃんはまだ残るのかよぉ。うち上げしようぜぇ」
「真名子の胸はスーパー青木が守ります!」
「もけクン、青木君も次元の彼方へ送ってあげて・・」
「もけ、キサマは決着をつける気のようだのう、まあ止めはせん。明日は京都の古本屋をめぐるつもりである、来れたら来るのだ・・・間違いない」
「ああ、本当に助かったよ」
「キエ~~!“竜王家御所の封印”、“何故か霊眼を持っているテロ組織ニルヴァーナの殲滅”、“西園寺グループへのダメージ”、“あの軍人”もターゲットか?一石四鳥というところかの・・・まあ戦争に犠牲はつきものである、が・・・ほどほどにな・・もけ」
「夏美に連絡しねえとなぁ。モテるオトコはつらいぜぇ」
「ぁはは、古本屋には必ず行くよ。アフロ」
「グモ~!ここはどこなのじゃ!今度はどこへ行くのじゃ!」
「黒川さん、もけくんが・・・」
「ぁああ!先輩が笑って・・・」
アリスの言葉は聞き取れなかったが僕以外の6人は奈良に転送した・・・魔力使わなくていいから楽だな。
それにしても一石四鳥か・・・読まれているな・・・恐ろしい男だ・・・アフロ・・・。
まあ、ダメ高校の高校生が数人で国際的テロ組織と異常な戦闘力の次世代生体兵器と異次元にある生体兵器実験場を1日で同時に潰したなどと誰も信じないだろう・・・しかも無傷で。
さて・・まだ僕にはすることがあるのだ・・・。




