3-1-5.決め顔で修学旅行へ行こう⑤
西園寺財閥が秘密裏に保有する古代兵器の発掘場であり実験場でもある次元環ポラリスでは複数ヵ所で複雑なトラブルが発生していた。
それを現在コントロールしようとしているイリホビルのたった5人だけの指令室はまさしく森崎部長を中心に五里霧中・・・というわけだ。
さて、と。
僕・・・こと神明全は考えている。
考えると言うよりは分析している。
ほぼ予定通り・・・まあ僕の霊眼を欺くのは簡単ではない・・・。
知恵比べというところだが・・・。
この場合・・・すべてをまとめて一つの事案として認識せねば・・・対処は難しいだろう。
まさしく目を欺く・・・わけだ・・・。
僕と戦っている事すら認識できないまま負けてもらいたい。
「―――地下5階、凍っています」
「な?な?」
隣のオペレーターが今度は報告しているが意味が分からない。
「な?なんだ?何を言っている」
「咲原少佐からです。地下の目的ヵ所は摂氏マイナス50°以下です。撤退させますか?右下のモニターに映像出ています。逃げた召喚士の女の所在は不明です」
凍り付いたカメラで全身霜だらけの咲原少佐たちの部隊が映し出される。
腹だたしくて机を思い切り蹴飛ばしかけるが社長が側にいることを思い出し止めている。
訳が分からないのだ。
「地下5階は魔封状態になっているはずだ?そうだろ!空調が壊れたのか!」
「依然として魔封状態です、吟悟会のものは全員戦闘不能と予測されます」
ブチ切れている森崎に対してオペレーターは冷静だ、空調が壊れてもマイナス50°になるはずがない・・・。
「ではあの女はどうやって魔力を使用しているのだ?もういい!もういい!ポラリスが先決だ!地下はまかせる!イリホの特殊警備員をすべて向かわせよ!」
(完全な魔封状態で30人もの男を女1人がたたきのめすなど・・・あの女召喚士だけ魔力が使えるとしか?いやもともと訓練されていて肉体的に強いのでは?・・・いやいや鋼鉄の扉が引きちぎられているのだ・・・筋トレでどうこうなるレベルじゃない!能力者だ・・・氷結系能力者でもあるのか?・・・だがしかし・・・)
「部長! “ニルヴァーナ”と“Xシリーズ”が交戦状態です!押されています!」
なぜ交互に話すんだこの役に立たないオペレーターどもめ・・・と、森崎は額に皺しわを寄せて睨むがどうしようもない。
左上のモニターではポラリス内での激しい魔力戦が繰り広げられている。
「Xシリーズを全員ショートタームブーストさせて全力で迎え撃て!数は3倍以上いるのだ!躊躇するな!」
正体不明の管制塔襲撃のこともある・・・もう“ニルヴァーナ”など全滅でいい。いや、どこでもいいから一つ片づけないと・・・ポラリス管制塔、実験場周囲、なぜか地下5階で・・・3ヵ所で問題が起きているのだ。
いかん・・・出世は大丈夫だろうか?・・・社長の目に自分は滑稽に写っているのでは・・・。
「社長!ご安心ください・・・こちらの優位は揺るぎません!3ヵ所ともすぐ片付けてくれますからな!」
「・・・用意周到に計画されている・・・」
社長の声は小さい・・・さらに意味不明だ。
「はあ?なんですと?」
「・・・のではありませんか?森崎」
用意周到になんだと・・・?森崎の熱くなった頭には言葉が入ってこない。
「は!と、言いますと?」
「タイミングが良すぎる気がしませんか?」
何を言い出しているのだ、悠長に・・・この社長になったばかりの女は・・・貴様が高校生だった時からXシリーズとODCシステムの開発に携わってきたのだ・・・何が分かるか!
目の前の3人のオペレーターたちとこの女社長の年齢はそうかわらない、経験が浅いに決まっているのだ・・・すこし家柄がいいだけで・・・。
「計画されていたと?罠にはめたつもりが・・・それはありません、社長・・・“オーディンの槍作戦”は今、自分が作ったわけでありまして。ありえません」
そしてまたうんざりするオペレーターからの報告だ。
「部長、管制塔の第二、第三区画防衛システムが作動しません・・・破損したと思われます。管理者から救助要請信号です」
「なんだと!!」
攻められているにしても早すぎる・・・どうなっているのだ・・・入ることは不可能に近い異常なセキュリティなはずなのに、だ。
さらにもう一人が話そうとしている・・・うんざりする報告なのは目に見えている。
「地下5階、咲原少佐から見殺しにする気かと救援要請の催促がございます・・・」
「うぅぅぅ!うるさいっ!」
どこもかもどうなっているのだ!!!
―――実験場結界に閉じ込められていた“ニルヴァーナ”構成員は自由となり“Xシリーズ”兵士たちと激しく攻撃魔法を撃ち合いつつ、近距離アタッカーが魔法攻撃をくぐりながら両者は接近して戦闘が開始された。
そもそも強力な召喚戦士であることに加えて、全員がGE・・・霊眼で能力のブーストや特殊能力を持っている状態である。
その戦闘は熾烈を極めた・・・地鳴りと轟音、閃光・・・。
“ニルヴァーナ”構成員は魔装して武具も装備、様々な魔術と近接攻撃を行い・・・対する“Xシリーズ”兵士も全員がそっくりな白い流線形の魔装を同時に行い・・・銃とも剣ともとれる形の武器を構えこれを迎え撃った。
両者のTMPAは平均5万をゆうに越えている・・・さらに“Xシリーズ”は基礎魔力が上がっているようだ。
世界トップクラスの召喚戦士たちの手加減抜きの総力戦だ・・・。
―――どうやらポラリス管制塔コントロールシステムからの強制命令で強引に能力をアップさせているようで“Xシリーズ”戦闘員は恐るべき能力値になっている・・・・だが思いのほか結果には結びついていない。
それにはいくつか理由があげられる。
戦闘が開始された場所は先ほどコルクという名の長身の“ニルヴァーナ”構成員が倒された場所で、変わらず彼の遺体が横たわっているが・・・なんと少し動いている。
横たわったままだが間違いなく両目を開き・・・右目がグリーンに輝いている。
「あ~良く寝たなぁ・・・兄弟とは戦わないと言ったが・・・躾は必要だな・・・それにしてもこの気配は・・・あいつがいる・・のか?」
西園寺の資料では実験体K-19、通称コルクの能力は再生と重力攻撃である・・・殺されるときに張った重力陣が発動しているのだ・・・対象は“Xシリーズ”なわけだ。
・・・“Xシリーズ”は所詮は操り人形であり自己意識をほとんど持たない・・・重力攻撃されたほぼ全員はカウンターマジックで重力攻撃を中和するようだが・・・。
攻撃するものも魔力で範囲防御するものもいない、役割分担できていないのだ。
プログラムされた通り全員が行動抑制されつつ重力による攻撃を中和している・・・中和している途中の敵兵士は“ニルヴァーナ”にとってはただの的である。
あっという間にXシリーズは数を減らしていく。
・・・数十年、国際的武闘派テロリストとして戦闘を、戦争を重ねてきた“ニルヴァーナ”の構成員は技も魔術も戦術も多彩だ。
―――さらに混迷を極める都内のイリホビルの指令室・・・血管が切れるほど怒鳴り散らしているのは森崎部長である・・・。
本来は雑誌の表紙にもなる整った顔立ちのモデルもしている西園寺御美奈社長とさらにお気に入りの3人の美人オペレーターに囲まれて森崎部長はうれしくて仕方ないはずなのだが油ギッシュな男は怒鳴り、歩き、慌てふためいている。両手は小刻みに震えている。
事態は悪化する一方で、全く収束しないのだ。
“ニルヴァーナ”と“Xシリーズ”の戦闘はいまのところ膠着状態・・・。
管制塔は第1区画とメインサーバー室とセーフティールームは無事・・・。
焦る森崎だったが深呼吸し強引に気持ちを落ち着かせている。
「一つ一つもう一度細かく報告せよ!」
間髪入れずにイリホ担当のオペレーターは報告を始める・・・優秀だ。
「地下5階に送りこんだ咲原少佐たちですが魔封結界のため能力が発揮できず、さらに完全に閉じ込められました、シャッターの外側に特殊警備員を送りましたが退路を確保できません・・・少佐より魔封解除を再々度要請です」
そう、それがさっぱり分からないのだ。何が目的で何が起きているのだ?
裏の仕事をさせている吟悟会の連中とモメて高級車をイリホビルに投げつけて破壊した非登録サマナーの女・・・何者だ?・・・目つきは完全に非合法な世界で生きてきた恐らく裏の仕事をしている、国家資格はないがプロのサマナーか・・・バックに何かいるのだろうか?・・・。
「いや・・・いやだから・・・なぜ!閉じ込められる?・・なぜだ!それに魔封されていても銃で武装しているであろうが!扉を爆破しろ!閉じ込められる意味が分からん!意味が!マイナス50°というのは何が問題なのだ?調査せよ!」
「はい、それは特殊な・・・」
次の言葉は隣にいるポラリス担当オペレーターにかき消された。
「大変です!ポラリス管制塔、主電力が落ちました。管制塔内の敵勢力は数も所在も不明ですが第1区画に侵入したようです!・・あ!サブ電力に変わりました・・・あ!そして、メインサーバー室反応消失です!」
あっちもこっちもどうなっているのだ?
「い、いい、いい加減にしろ!なぜ撃退できんのだ!防衛システムが山ほどあるだろうが!ガスはどうした?空間カッターであらゆる場所で侵入者を特定してバラバラできるはずだ!そう設計したのだ!」
「2分50秒前にすべての防衛システムはダウンしました、復旧の見込みは現在ありません」
「防衛システムが?そんなこと・・・はぁ・・・あり得るわけが・・・なんでもっと早く言わんのだ・・・」
隣同士座っているポラリス担当オペレーターとイリホビル担当オペレーターが報告する度に森崎の顔色は赤くなり青くなり紅くなり、血管が浮き出て、今は20歳も年をとったかのように疲れてきている・・・息切れしている。
「地下5階の温度、さらに下がります、数名がDOA状態、ええっと、つまり、生命活動を停止しかけています、シャッターは破壊困難、想定外の硬度になっています」
「なんだ・・今度は・・・軍人の死人はまずい。仕方ない、魔封結界を解除せよ」
「森崎。それはまずいでしょう。あの女召喚士が魔封をキャンセルする能力なのか異常に魔力が強いのか不明でしょう。それにイリホ周辺に、あるいはビル内に協力者がいるかもしれません・・・個人でイリホを襲うとは自殺行為でしょう」
「はあはぁ・・・そ、そうですな・・・て、敵の思うつぼですな・・・待て撤回!撤回だ!魔封結界はそのままだ、いいな・・・いいな・・・」
交互に左右のオペレーターは報告した・・・その度に森崎は肩を怒らせたり、落ち込んだり・・・傍から見ていればコントのようだ・・・。
「Xシリーズ、押されています。“ニルヴァーナ”に想定外の能力者が、先ほどの強制催眠能力者ですXシリーズはユニットスーツを装着しておらず半数ほどが昏睡状態・・・」
「はぁあ?竜族が眠らされるとは・・・戦闘プログラムを切り替えよ!クソッ!!!・・・クソ実験体のクソどもが!思い知らせてくれる・・・」
精神攻撃に耐性のあるフェンリルが眠らされたのだから召喚士も危険という判断・・・第3拠点を攻めていた現場指揮官の報告だが・・・森崎は覚えていないようだ。
「地下5階から回線を変えて緊急コールです。すべての脱出口が何らかの能力で硬質化して開かず壊せず脱出できないそうです」
「だ、脱出してどうする・・・あの女を殺せ!たった一人だぞ!何をしている!追いつめろ!脱出できないのはさっきも聞いた!・・・はぁ・・・」
喋り過ぎて森崎の口端からは泡が出ている。
「さらに地下5階から応援要請です、内部はブリザードが吹いているようです!間違いなく魔力干渉です。咲原少佐より“我ら遭難し救援を要請・・・”」
「ポラリスが先だと・・・ええい!・・・貴様らが応援部隊であろうが!しゃんとせい!ビル内で遭難するか!ボケ!・・・そう伝えよ!・・・軍人に死人が出てももういい・・・いいな!地下5階はもういい!ポラリスが終わればXシリーズを地下へ向かわせる!ポラリスだ!まず!ポラリスふぁ!おあ?な!なんだ今度は!」
「ああああ!」
「あっ!」
今度は2人のオペレーターが同時に叫んだのだ。
「部長!次元環ポラリスとイリホビルの地下5階が直結します!・・・つ、つまり・・・ああ!“ニルヴァーナ”がここに・・・ここに来ます!どうして?」
「森崎部長!管制塔ODCシステムが乗っ取られて地下5階に空間直結反応・・!戦闘区間が拡張!イリホ地下5階エリアに“ニルヴァーナ”構成員が転送されます!」
目が顔からこぼれ落ちるかと言う程に森崎の顔は驚愕している・・・いくらなんでも想定していない・・・。
「うそをつけ!うそを!・・・直結するだと?な、なな、な!なんだ!なんだと!一度に喋るな!はあ?なんだと!!ODCシステムをなぜ使用できるのだ・・・地下5階を、ふ、封鎖せよ」
(あのニルヴァーナが、こ、ここ、ここに来るだと・・・イリホの戦力では太刀打ちできんぞ・・・ど、どうするのだ?)
「―――潜伏中の女召喚士の能力ですでに封鎖されています!聞いていますか森崎部長、それに凍りついてあらゆる電子機器が使用できません、咲原少佐よりもう一度救援要請・・・」
「ぁああぁあああああああああ!!!・・・うるっさい!うるさいわ!!咲原なんぞ知らん!知るか!」
森崎は激高して力の限り叫んだ。
もうオペレーターの話しは半分くらいしか森崎の頭に入っていない・・・許容をパンクしたのだ。
だがオペレーターからさらなる事実が告げられ続けた。
「―――ODC転送システム稼働を検知、こちらの座標と約1分で次元直結されます。メインサーバー室から異常な魔力回帰波を検知、モニターに波形を出します・・・」
もう社長が近くにいるのも忘れて妙な呻き声を上げている。
「ぉおおお?おおお!だまれ・・・・・・だまれ!いま、今考えているのだ!いまぁ!!!」
とりあえず、とりあえずどうしたらいいのだ?
「うぉお・・・ポラリスとイリホの次元空間直結を直結前に、あー、物質変換加速装置を3基とも緊急停止せよ!」
「先ほどからずっと緊急停止命令を送信しています・・・受け付けません!キャンセルされます。ほとんどのシステムはメインサーバー室に権限が移行されていまして復旧するにはまず現地の―――」
「咲原少佐より再度応援要請です!“我ら極寒のなかでマッチ売りの少女を見たり・・・”」
「ぁあああああ!あああ!うるさい!少佐のことはもういい!今度言ったら首にするぞ!貴様!・・・マッチ売りの少女?なんじゃあ!それは?!!!」
傍から見ていると5人でコントをしているようだ・・・主役は森崎だ。
「・・・森崎・・・」
「―――では動けるXシリーズを全員管制塔に向かわせよ!ポラリス管制塔を奪回せよ!最重要任務だ!」
「無理です!部長!再度張られた防御結界のため管制塔に近づけません!メインサーバー室から防御結界を再設定されていまして現段階での見地からは・・・」
「だまれぇ!バカモノ!だまれ!なぜ自分達に自分たちの防衛結界が・・・」
声だけは出ているが常識的な判断はすでに森崎には難しい状態になりつつあった。
だが状況の悪化は進んでいる・・・想定される最悪の事態になりつつあるのだ。
ここ都内のイリホビルに戦闘中の“ニルヴァーナ”が来ればどうなるか・・・。
「次元トンネルが開通・・直結します・・・直結しました、ぶ、物理的に安定化します」
「なんだと!ああ?なんだと!ぁあああ!ラボの魔獣をすべて起動させよ!地下5階へ向かわせるのだ!」
「緊急起動でも30分かかりますし攻撃対象を指定してプログラムを設定する必要がありますが・・じ、実行いたしますか?最低37分はかかります」
「さ、30分だと?間に合わん!そうだブラックボムだ!あれを・・・」
事実上、森崎の案はすべて手遅れでオペレーターに現状を突き付けられるたびに森崎はすべて捨ててここから逃げたいと本気で感じていたが・・・ただプライドと権力欲がそうすることを強烈に拒んでいた。




