3-1-3.決め顔で修学旅行へ行こう③
―――“ポセイドンの槍作戦”の実質的な司令部・・・イリホビルの一区画に左目に眼帯をしている厳つい男性がノック後にドアを開けて入ってくる・・・見た目も実年齢も40代前半だ。
姿勢よく西園寺御美奈に敬礼し名乗った。
「咲原少佐であります。精鋭部隊を連れてやって参りました」
モニターを見て大忙しの森崎だったがすぐに来訪者を歓迎した。
「お待ちしておりました。咲原少佐。ここに社長がいることは先ほどご連絡差し上げた通りご内密に・・・」
「頼みますね。少佐・・・ここが戦場になることはないでしょうけれども・・・」
もう一度、咲原少佐はビシっと敬礼した。
「はい!身辺警護はお任せください!」
そしてくるりと振り向き部屋を出るときもう一度一礼して出て行った。
すぐに森崎はニコニコと笑い西園寺社長に話しかける。
「警備のモノと連携させましてイリホビルを完全防備させます。ここが攻撃される可能性は低いでしょうが念には念をです」
「この作戦が成功すれば日本支部長に役員会で推薦しよう・・・」
「はっ!過分なご評価をいただき光栄です・・・さらにXシリーズをポラリスに最低限を残して83名集結させました・・・役員会と言われましたがXシリーズは役員会を通しておりませんが秘密裏の作戦を決行する非常事態ということで日本支部長代行権限を行使いたします・・・つまり事後報告となります」
「・・・まかせましょう」
―――メキシコの第3拠点の攻防は緊迫していた。
現地時間21:43を回ったころ。
神経ガスは地下基地に十分充満しているはずであり、ユニットスーツという魔装鎧と宇宙服を掛け合わせたようなデザインの重装備を着こみ武装した人造召喚士たちが7ヵ所から地下へ突入した。さらにソードフィッシュアメリカ支部のランクAサマナーのみで構成される非常に強力な対テロ特殊部隊もそれに続いた。
同時に爆発音が一帯に響いた。
突入が難しいが逃走の可能性のある複数ヵ所に対しては同時に爆破が行われたのだ。
地下基地がテロ部隊に探知された通りの構造なら基本的に脱出口はすべて塞がれたことになる。
このころにはメキシコ政府も動いており周囲は軍隊によって封鎖された、カルテルの縄張り争いもない比較的平和な夜の農園はものものしい軍隊と特殊部隊が行きかう戦場となった。
120人のテロ構成員に対して召喚戦士・・・人造召喚士を含めて・・・600人以上のチームが現地入りしており攻撃と支援を行う。さらに1700人の軍人が急遽集められこれを包囲し・・・さらに現在、この第3拠点に向かい戦力はさらに集中しつつある状態である。
―――「これは・・予想外にアメリカ政府も対応が早いですな。“ニルヴァーナ”には手を焼いておりましたからな・・・社長。これほどの戦力が動くとは、さすがの影響力ですな。さすがです西園寺社長」
「・・・ふむ・・・」
次々情報を見ている森崎はさすがという言葉を繰り返し女社長に使っている、邪魔者はいない・・・好き放題に西園寺財閥トップにゴマがすれるわけだ。
「いよいよ。突入ですな。社長・・・これで我々の負の遺産も清算されますな。Xシリーズの出番は無いかもしれませんが・・・何、デモンストレーションの場なぞですな・・・」
「ODCシステムを用意しておくように、森崎・・・」
「この戦力差でXシリーズを投入するのは・・・」
「二度は言いませんよ。ODCシステムをInbibeモードで待機させなさい」
「ほほう、なるほど。そういうことですか。なるほどさすがです、勉強になります。“ニルヴァーナ”が全滅する前にリーダーの“ドール”を捕らえるおつもりですか・・・おい!ポラリスのメインサーバーをこちらに繋ぐのだ、早くしろ。管理者ID持ちが2人いるのだ、全く問題ない」
この森崎が語気を荒げてオペレーターの女性に指示を出してほんの数分後に事態は急展開したのだ。
オペレーターの一人が金切声をあげた、彼女は戦闘区域の物理的情報収集が主な仕事である。
「・・・あああ!まだ上がっています・・・そんな・・・第3ターゲットの中央は9.12MPaです!」
「わかるように説明せんか!分かるように!」
「こ、これは“ニルヴァーナ”による広域気象魔法と思われます・・・非常に強力です・・・そんなこんな魔力を持続して・・・」
「9.12というのはなんだ?わかるように説明せんか!」
「気圧です。約90気圧です!撤退してください!甚大な被害が予想されます」
90気圧・・・単純な圧力だが人造召喚士のユニットスーツは楽に破損するレベルで・・・ソードフィッシュの数名のサマナーを残して突入組は大半があっという間に見えない圧力に押しつぶされて地下基地内で命を落とした。
地上・・・複数のカメラは周囲の惨状を映し出していた。召喚士も召喚獣も、軍人も押しつぶされて・・・それだけではない、装甲車や戦車も見る間に変形していった。空中で待機していた人造召喚獣“サンダーバード”もバラバラと落ちて来る。
最後のカメラが破損して・・・森崎が怒鳴り散らす部屋のモニターは真っ暗になり・・・第3拠点の映像は衛星画像に切り替わった。
第3拠点付近は上空から見下ろしの衛星画像でも明らかな異常を捕らえていた。雲がちぎれ風速100メートル以上の風が地上で吹いているようだ。
持続する超強力な広域気象魔法・・・もともとは攻撃魔法かすら不明だが・・・恐るべき攻撃力で且つ効果範囲である。90気圧というと水深900メートルの深海と同程度である。
「気圧が今度は急速に下がっています・・・2分ほどで正常化します」
隣のオペレーターも何かを見付けたようだ。
「・・・森崎部長・・・第3拠点内部に約50名の生命反応を感知します・・・もっといるかもしれませんが感度が低くて・・・」
そして3人目のオペレーター・・・全員女性だ。
「森崎部長。USA政府よりMOPの使用を検討中とのことです。コメントいたしますか?」
「MOPだと・・・社長・・・ステルスにより貫通爆弾を使用するとのことです」
優雅に長椅子に腰かけている西園寺社長は冷静そのものだ。
「・・・ODCシステムを作動させなさい」
「社長・・・国際問題になる恐れが・・・」
驚く森崎だが社長の言葉を否定することはしない。
「責任はすべて私がとります。Inbibeのみで作動させなさい」
「・・・・・おお!なうほど!Xシリーズは外には一切出さないおつもりですな・・・はっ!すぐ3人で準備しろ」
「あのお言葉ですが衛星からの探知だけでは人物の特定が上手くいきません、つまりテロリストか特殊部隊かは分かりません。周囲に何らかの探査機器の配備をお願いいたしたく・・・」
「その必要はありません・・・地下基地の生命体すべてを選択しなさい・・・早くしないと逃げられてしまいます。MOPは間に合いません。こちらで未発表のシステムを使用し安全かつ速やかに解決すると伝えなさい・・・どれくらいで準備可能ですか?」
「はい、しゃ、社長。基地の生命すべてでしたら問題ありません。ただしポラリスにある程度の物理的影響が起こります・・・もっとも被害の少ない兵器実験場に転移するよう計算してあります・・・準備はもういつでも可能です」
表情を変えずに西園寺御美奈社長は頷く。
―――第3拠点の現場は・・・まだ非常に強い風が吹いており生き残った者は遠巻きに避難している。至る所で地割れが起きておりほんの少し前とは地形すら変わって見える。
戦闘不能となった特殊部隊隊員や軍人がいたるところで倒れており装甲車や戦車も変形し一部は炎上している。
風が強く逃げている者たちの声はほとんど掻き消されている・・・多くは呻き声や叫び声であるが。
この時点で本電撃作戦はほぼ失敗に近い状態である。
第3拠点の真上、あるいは突入した特殊部隊隊員たちはほぼ全滅、ソードフィッシュの強力なサマナーは生き残りがいるようだ。取り巻きの軍隊も大きなダメージを負っている。さらに衛星からの情報が確かなら“ニルヴァーナ”の構成員も半数以上が命を落としている計算になる。
「なんだ?あれは」
サポート要員だったソードフィッシュメンバーの一人が最初に気付いた・・・彼が指を指すのは丁度、逃げてきたあたりである。一台破損した装甲車が浮いている。
かすかにその周囲だが光っている。
「なんだいくつも・・・?」
負傷者たちは足を止めて異変を見ているが中には新たな広域攻撃魔法の前ぶれかと岩陰に飛び込んでいる。
かすかに光り、その近辺だけ重力から切り離されるようで地面が・・・倒れている軍人たちが宙に浮いている。
バシュ!!
その数十か所の光は突然消えて・・・静けさが戻った。
―――オペレーターの一人が報告している。
「報告いたします。問題なく強制転送完了いたしました。地下基地内部にいた生命反応のありました対象となる55名全員を次元環ポラリスへ送ることに成功いたしました」
よしっ・・・とガッツポーズする森崎部長の顔は赤らんでいる。
「さすがですな。社長。これで奴らは袋のネズミです。さすがです。Inbibe modeでの使用であれば目立ちませんからな・・・地球上のあらゆる場所に瞬時に戦力を送り込める次元システムはどの国も喉から手が出るほど欲しがるでしょうな・・・この場合は戦力の引き上げですがデモンストレーションとしては申し分ないですなあ・・・」
何度も首を縦に振り、いよいよ油ギッシュな森崎はノッている・・・嬉しくて仕方ないのだ。
「よし!これより“ニルヴァーナ”の掃討作戦に移行する。ポラリスにいる職員は全員基地施設内のセーフティールームへ移動させよ、管制塔には最低限の人数だけ残すように」
「いやいや、社長。Xシリーズの実戦投入が実験的に行えるとは・・・素晴らしいの一言ですな・・・GE能力者同士の真剣勝負となれば、すばらしいデータになりますな」
オペレーターの女性が恐る恐る言葉を発している。
「・・・あの森崎部長・・・申し上げにくいのですが先ほどと同じ問題ですがXシリーズに敵ターゲットを認識させられません。つまり・・・」
「いや問題ない!ポラリスへ転送させた全員を速やかにXシリーズのターゲットとせよ!特殊部隊に化けている能力者がいる可能性がある、全員をターゲットとせよ!・・・実験体どもめ、思い知らせてやる」
オペレーターの3人の女性は全員が一瞬固まり顔を見合わせている・・・ポラリスに送り込んだ55人のだれが敵か仲間か正確には分からないため全員をターゲットに、つまり攻撃命令と同時にXシリーズ・・・超強力な戦士たちはそのターゲット全員を襲う・・・西園寺社長は特にその部長命令を撤回するそぶりはない。
Xシリーズは命令に忠実な兵士で感情は無い、戦闘では絶対で躊躇することはない。運よく味方であるはずの対テロ特殊部隊隊員が助かる可能性は限りなく少ない。
オペレーターの3名は森崎のお気に入りの美女である・・・各部署から引き抜いて自分の非公式であるが秘書のようにしている者たちなのだ・・・3名とも怒らせれば何をされるか分からないのは重々承知しているのだ・・・危険なうわさも数多く聞いている。
「ええ?・・・は、はい・・・ではそのように伝達いたします・・・」
「いやまて、高齢なものだけ数名残せ、その中に“ドール”もナンバー2の“フォックス”もいるはずだ。2人とも肉体年齢は80歳前後のはずだ。計測せよ・・・そうだいい考えがある・・・」
もう作戦は終了したと言わんばかりに笑いながら森崎は西園寺社長の隣に遠慮なく座り、もう冷めているコーヒーを一口ガブリと飲んだ。
ここは見せ場なのだ。少々冷酷な方がこの流れでは高評価・・・躊躇してはいけないわけだ。
無表情な西園寺社長は足を組みモニターをジッと見ている。
―――“ニルヴァーナ”が送り込まれたポラリスの兵器実験場は屋外だが非常に強力な結界で囲まれており脱出困難、脱出できたとしても次元環ポラリスからは出られない。兵器実験場結界内は対象者の魔力封印や超高熱化や急速冷凍や強烈な磁場・・ガス攻めなんでも可能である。
非常に近代的な機器や施設が立ち並ぶが・・・もともとは広大な石畳の上に置かれている。
ここは封印され失われた古代竜王家の墓標・・・御所なのだ。
非常に広大な敷地に石でできた建設物が芸術的に配置されている。その上にややメタリックでグロテスクな近代施設が強引に乗っており至る所で巨大なチューブがむき出しになっている。それを古代の女神像が見下ろしている。
4000年前に王都が封印された時、この御所の大部分は3つの次元に分けられた。
それが次元環カペラとスピカ、そしてポラリスである。
この次元環がなぜ重要か。
ここには4000年前に封印された秘儀秘術が数多く眠っているのだ。
危険すぎて禁忌とされたもの・・・制御できないもの・・・これほどの異常に高度な魔法科学が当時存在したのは驚異でしかない。
御所の封印はしかし、竜王家のものしか解くことはできない。強力な封印だけではない・・・強引に侵入すれば内部の秘儀や魔法兵器は消滅するカラクリだ。
ここは霊眼を持つもののみが踏み込み存在することを許されている場所なのだ。
霊眼を持っていない場合、速やかに御所結界内から出る必要があり出れない場合、あらゆるエネルギーが枯渇して死に至ることになる。
―――隔離された兵器実験場内はすでに戦闘中だが、それほど時間もかからずに収束した。
戦闘は“ニルヴァーナ”構成員と特殊部隊が場所を変えても戦っていたのだが“ニルヴァーナ”に軍配が上がった。
生き残っているのは43名・・・恐らく倒れているのはユニットスーツを着ているものが多く第3拠点に突入した特殊部隊の者達だ。生きている“ニルヴァーナ”構成員も座ったり倒れているものは多い。
先ほどの“ニルヴァーナ”の広域魔法は敵である対テロ特殊部隊を崩壊させるほどの威力だったが自分達も少なくないダメージを負っている・・・諸刃の剣だったというわけだ。
―――一方、イリホビル地下のダークアリスのいる独房の周りが騒がしい。
ガチャガチャした足音が響いている。
そして怒声が聞こえる。
「クソが!」
「おお、ここか!」
30名程のカラフルなスーツを着た団体が到着した。
3時間ほど前にアリスに高級車をぶん投げられた吟悟会の連中が招かれたのだ。
ドアのロックが開く。
「さっきはよくもやってくれたな。お礼に来たぜ。姉さん。車代は高くつくぜ」
「ただで済むと思うなよ・・・」
現在この階層は魔封状態となっておりあらゆる魔力・霊能力は使用できない。
木属性の竜族であるアリスは能力的には普通の女性と変わらないがドヤドヤと粗暴な男性が入って来るのを見ながら手錠をされたままの黒川有栖はゆっくり立ち上がった。




