第3章 プロローグ
高校生召喚戦士の祭典ともいえるインターハイは終わり、季節は一気に秋から冬へかけて加速していく。
来年4月に450年ぶりの聖魔大戦を控えているが・・・それももう半年ほどで始まる。
魔族の地上侵攻は繰り返され約4000年間で11回目となるが、世界中の魔力観測機構は一様に同じ観測データをはじき出している・・・たった3ヵ所で最も小規模な地上侵攻になるだろうと・・・魔族が地上で物質化するのは事前に観測が、現代では可能で文明の進んだ西暦2055年の今現在では・・・あっという間に魔族は撃退されると考えられている。
僕の竜王の霊眼は朧げな未来を感じている・・・そうはならない・・・。
―――旧美術講堂玄関前で乾布摩擦中のアフロにエキゾチックでスタイルの良い美女が話しかけている、黒のワンピースが彼女のスタイルを引き立たせている・・・髪は薄い栗毛だ・・・。
美女は明らかに生徒ではないし教員でもない。
「こちらに神明全さんはいますか?」
そう言って珍しい髪型・・・緑色のアフロをやや不思議そうに見入っている、滑らかな喋りだがイントネーションからすると外国訛りのようだ。
「キエ~、来ていただいて申し訳ないが奴はおらん」
警戒されたと感じたのだろう、美女は少し笑顔を作って告げた。
「申し遅れましたが、私はジョーといいます。所用があって参りました。神明全さんはどちらに行かれておいでですか?ここで待っていれば会えますでしょうか?」玄関の縁に腰かけて緑アフロは美女をマジマジと見ている。
「どこへ行ったかはわからん。そして待っていても絶対に会えんだろう、間違いない」
「・・・それはどういう―――」その言葉は遮られた。
「簡単であろう。敵意を持って奴に会うのは不可能であろう」
「!」
彼女は目を見開いたがすぐもとの涼しげな表情にもどる。
「いやいや魔力は微塵も漏れておらん、殺気もな。テレポーターとして奴の方が上手なのであれば鬼ごっこしても・・・まず捕まえれんであろう」
美女は再度、目を見開いて・・・表情はやや硬くなっている。
「テレポ・・・・・・これはこれは・・・何者ですか・・・私がテレポーターだという証拠は―――」
対する答えとして落ち着き払ってただ言葉をアフロは継ぎ足した。
「歩き方と距離の取り方で予想着くであろう、奴はお前がいる限りここには近づかん。ま、それで良ければいつまでも待つがよかろう」
一回りほどは年上の女性に対してアフロ隊長は不遜とも丁寧ともとれる会話を続けている。
そして目の前の学生は手強い・・・予想外に・・・彼女は予想していなかったのだろう・・・こういった展開は・・・エキゾチックな美女はどうするか即決しきれない雰囲気だ。
「・・・彼の敵だと予想して・・・それが事実だとしてあなたは私を―――」
「奴を甘く見過ぎであろう、同僚の心配をするべきであろうな。そしてあなたと戦う気はない。奴の戦いに首を突っ込む気はない。もけが共闘を申し出れば話しは別だがのう。さらに人質にはならん。ドライな関係でな」
短い会話に予想外のことが多かったのだろうジョーという名の美女は呆然と立ち尽くした。恐らく他者からの評価は非常に優秀であり続けたであろう彼女の人生において珍しい経験なのだろう・・・会話に反撃の糸口が見いだせないのだ。
旧美術講堂は丘の上にあり周囲は木々が生い茂っており、実際運動場などよりは少し涼しいがジョーという名の美女が年齢が一回りも離れているであろう高校生から寒気を感じていると気づくのは数秒あとだろう。
―――第3高校の召喚戦闘チーム“ドラゴンディセンダント”は1年生中心のチームだが手練れが多い。一番イマイチなロミオですら1年生としてはトップクラスだろう。
部室は第3高校に10個もある体育館一つの二階部分だ・・・メンバーの数からいえば大きすぎるといえる部室の広さだ。まあ1年生中心とはいえ、インターハイでは召喚戦闘部門において個人では準優勝者・如月葵がおり団体戦でも3位であったことを思えばこれくらいの優遇措置は当然なのかもしれない。
そんな部室のほぼ中央でロミオは戦闘モードだ。全身に魔力をみなぎらせている。
「わが拳は触れるもの全てを砕く・・・」などと相対している者への抑止力のつもりの言葉だろう。
4月ごろとは比べ物にならないスピードでロミオは間合いを調整している。
“空破拳音叉六音縛”!!
渾身の魔力を込めた攻撃は手ごたえがない・・・。
「ぐあっ!!なんやコイツ」術が破られると同時にロミオは跳ね飛ばされ床を転がっていく。
転がったロミオの丁度頭と重なって巫女姿の足が見えている。こちらも気合十分・・・臨戦態勢だ・・・基本、四文字熟語で話す硬い女・・・三守沙羅である。
“反鏡群現”!!
“多角強化結界”!!
対する敵の動きを封じるであろうかなり強力な結界が発動したが・・・結界は崩れ始める・・・呆然と自分の結界を沙羅は見つめるが力の差があり過ぎるようだ。
「え!!葵さん!轍鮒之急!」ロミオに続いて連続で唱えた三守沙羅の術も完全に消し飛んで消えた・・・沙羅は二回後ろにステップして腰を下ろして構える。
代わりに少し前に出たのは金髪ショートでで黒のレザーのようないで立ち・・・秋元未来だ・・・宙に浮き既に術は完成しつつある。あどけない表情と裏腹に強力な闇の魔力が周囲に回帰波を作る。
高速で未来の両腕が術を形成し、両目が紅く輝く。
“滅ビノ言ノ葉”
“刻んで捨てよ”!
“万剣烈斬”!!
闇の魔力が形作る無数の数えきれない剣が部室中央で降り注ぐ・・部室の床を・・天井を・・・少なからず傷つけて粉塵と火花が舞う。
表情を変えずに空中の未来は言う。
「・・・葵ちゃん、この人。強いなのなの」
魔装しているロミオと沙羅が足止めしようとして失敗。
有無を言わさず黒いレザーの姿に一瞬で変身した未来は達人クラスの召喚士でも大けがしかねないヤバい黒魔法を侵入者の全身に集中してぶち込んで・・・しかし相手は無傷だったのだ。
―――ほんの数秒前に突然、“ドラゴンディセンダント”は体育館の壁をぶち抜いて部室を襲撃されたのだ、いつもの日常は壊された・・・敵の接近に気付かなかったこと自体が相手の実力を物語っている・・・ここにいるのは高校生とはいえトップクラスの召喚戦士なのだ。
最も冷静であった沙羅が言った。
「敵は探知範囲に一名・・・敵意あり・・・みなさん、戦闘準備。そして伏兵に注意」
「また妙なのが来やがったな」と聞こえないほど小さく言ったのは座ったままのブレザー姿の葵だ。
襲ってきたのは1名・・・浅黒い肌・・・筋肉質な身体・・・ボサボサに伸びた赤い髪・・・年齢は30代後半くらいの男だ。歩く姿からは自身が漲っている・・・未来の強力な術がほぼ無効であることからもトップクラスの召喚戦士であることが伺える。首から下は魔装しており戦闘準備は万全だが・・・兜をかぶっていないのは自信の現れか、あるいはおごりがあるせいか。
しかし相変わらずブレザーをだらしなく着こなして足を組んで座っている葵は全く動じていない。
「たまんねえな。てめえ。人ん家になんのようだよ」
一瞬宙を見てすぐ足元に目をやり、そして侵入者に話しかけた。
「おお!挨拶がまだだったな・・・俺はケーイレブンってんだ」
初めて葵は襲撃者の顔に視線を移し一瞬睨み合う。
「・・・すっかりわすれてたぜ。あたしは襲撃されるのは嫌いなんだよ」
「そう言うな。周りの雑魚には興味ねえ。アオイキサラギだけだ、用事があるのはな」
「けっ!自信たっぷりじゃねえか!」
「なあに少し戦ってくれりゃいいんだぜ」隙だらけの襲撃者は背筋を伸ばしてギラギラした表情で獣のように歯を見せた。
「・・・てめえ、ゲヘナの残党か?」終始、座ったままの葵は嬉しそうだ、少し笑い始めている・・・2人とも要は戦いたくて仕方ない感じだ・・・そう言う意味では似た者同士なのかもしれない。
「あんなのと一緒にするな、 “ニルヴァーナ”だぜ、その名は猛き“ニルヴァーナ”の戦士、ケーイレブンだぜ」
「時間が惜しいぜ!もうランク戦の時間なんでな!・・・そうか“ニルヴァーナ”か」
ブレザーのまま葵はゆっくり立ち上がり間合いを詰めていく。葵以外のメンバーは“ニルヴァーナ”という言葉に聞き覚えがあるようだ。
2人は挑戦的な笑みを浮かべながら距離をゆっくりつめる。
「ほう!知っているようだな」
「・・・簡単だぜ!ネコ・・・じゃなくて葡萄の名前だったか?」「違うで部長。なんでや、フルーツ売りに来てへんで!」うん、相変わらず全く葵には緊張感というものがない。
敵から目を離さない沙羅は相手の戦力を決めあぐねている・・・葵ならあるいは全員でなら勝てるのか・・・と。
「葵さん、新たな悪逆非道・・・相当な強者」
「だから葵ちゃん!悪い奴なのなの」
「ん~~?」
「如月部長!分かりやすく言うとな、ゲヘナよりヤバいテロ組織や!」
「ロミオちゃん。もっと分かりやすく言わないとだめなのなの。やっつけて葵ちゃん!」まあ、おおむねそれでいいのだろう。黒いレザー姿の似合う秋元未来・・・中身も少し変わったな。
一瞬腕組みして考える葵・・・いや何を考えることがある?
「・・・がぁあ!おまえら一度に喋るんじゃねえよ!要は倒せばいいんだろ!倒せば!」
「なめんなよ!なんとかヴァ―ナのおっさん!壁壊しやがって弁償してもらうからな!」
「・・・いくぜ!!」
殺気交じりの魔力の回帰波が葵の周囲に現れその周りの景色は歪んで見える・・・赤い鱗で覆われた魔装鎧を纏い葵は戦闘態勢をとりつつある・・・。
それを見ても手を出す気はないらしく襲撃者は余裕で葵を観察している。
そして魔装が完了するや否や・・・床にヒビだけ残して葵は飛んだ・・・垂直に飛んで・・・そして体育館の天井を突き破って轟音とともに部室を出ていった・・・!
それを残された一同は声も無く見上げた・・・バラバラと天井の破片が落ちて来る・・・襲撃者すら・・・額に汗が出ている「マジかよ、アオイキサラギ・・・予想以上だ・・・」「うちの部長を舐めない方がいいで、おっさん」「葵ちゃん、また叱られるのなのなの」「うちに妙案・・・天井も“ニルヴァーナ”が破壊したことにして保険適応を進言・・・」・・・赤い髪の襲撃者ケーイレブンに三守沙羅は軽く睨まれたが睨み返した。




