閑話.スピーカーズコンテスト②
―――結局、僕とアフロと青木君と村上君とオールバッカ―の5人がタイガーから合格をもらい登録することになった。こんなことで期末テストの点が10点も上がるとは・・・楽勝だ。そして15名に選出されればさらに5点追加・・・。選考委員は全員が第1高校関係者だ・・・僕らが通る見込みはないが。
それよりも僕は優先せねばならないことが山積みなのだ。
潰さないといけない研究機関はだいたい網羅したし・・・どちらにしても呪詛が解呪できない以上、いつ何があってもいいようにしておく必要がある。“ミスプリント”がやっていることを前倒しにしないと・・・これだけはしておかなくては来年とんでもないことになる・・・多分、僕はもうその時はいないので・・・引継ぎが必要だろう。アフロか麗良しか思いつかないが・・・。ん~しかし優先順位は低いが研究機関を先に潰すか・・・“ミスプリント”の連中はもう少しかかるだろうし。
昼間っから、旧美術講堂の部室でメールのやり取りに余念がない僕は・・・働き者だな。香樓鬼さんも半身失ったけどリベンジできたし良かった良かった。
「キエ―――!!もけ!」
ん?アフロも昼からサボる気か?・・・というかこの声色・・・何かあったのか。
仕方ない行くか・・・。
ん?タイガーセンセも一緒?
「もけ・・・7番手である。そして自分は9番手・・・青木はオオトリで15番手である」
「・・・何が?アフロ・・・」嫌な予感がする・・・。
―――うんうん、僕は興味ないものを全く見ない悪い癖がある・・・見落としは良くないのに・・・。
い、いやだー、助けてぇ・・・。
タイガーセンセがニッコリ笑って肩を組んでくる・・・逃がさない気か。
「いやだぁああ!」
完全に無視されて僕はタイガーセンセに拉致された。
そして始まる“第3回降魔六学園スピーカーズコンテスト”
すでに第1高校の体育館は人だかりだ・・・。
―――見てみてZ班よ―――
―――間近で見るとオーラがすごいですよ―――
―――あのZ班から3人も出るそうだよ―――
―――じんめ様ぁこっち向いてぇ―――
―――全国制覇したZ班だ、普通じゃないよな―――
―――ホーリーライト・ザ・ファーストを下したZ班だ―――
―――かわいい、とういか神々しい、美しい―――
―――世界最強チームだ―――
あああ・・・ま、まさか人前で話すの・・・?
これって現実・・・こ、怖わぁ・・・。
第7弁士:神明全、“学問のおすすめ”・・・ってプログラムに書いてある・・・。
き、危険だ・・・棄権しよう・・・。
さっさと病気で欠席にしてもらおう・・・タイガーは?
「青木君ならできるわ、すっごく良くなった。やる気って大事ね。先生感動したわ、見直した」
「へへ」ハゲの青木君が鼻を指でこすって照れている。
何か絆でもできたようだが。
教師と生徒の絆・・・ああ、どうでもいい。人前で話したくない・・・いや人前に立つのも嫌だ。
「チャレンジ精神は何物にも代えがたいわ。青木君の反骨精神というか一種独特な考え方は反感を買うかもしれない。でもいいのよ。それでいいの」
「先生・・・青木小空、今日は宇宙まで飛びます!飛びます!」なんだこの2人は。
えええ・・・青木君が涙を流してタイガーセンセに敬礼している・・・深夜までやってたけど、一体あの晩なにがあったんだ。
すげえタイガーに言いにくい・・・病欠にしてくださいって・・・。
あああ。始まってしまう・・・。
ああ、どうしよう。
どうしよう。人前に行きたくない・・・どうしよう。
「弁士の方はこちらです、どうぞ」
「係りの人に着いて行ってね」
いや待ってタイガーセンセ~、にっこり手を振っている場合じゃない。
「それでは第1弁士の古市淳さんで“今こそネットマナー2055”です。それではよろしくお願いいたします」
7番目ってまだ時間あるし・・・。腹痛が起きたことにしよう。
あっと言う間に僕の番になってしまった。
視界がフワフワする・・・足元がおぼつかない・・・。
これはあれだ・・・桔梗と戦う前と似ている。
イヤすぎて拒絶反応だ。
壇上に立って分かった・・・コイツ等オーディエンスは全員僕を見ているのだ・・・頼むから目を閉じてくれ。
「―――それでは始めてください」
「あ・・は・・い。はい。えっと・・・えっと・・・」なんだっけ?何を話すんだっけ?
頭真白だ・・・。
あ、そうか書いてきたんだった・・・これを読めば・・。
「あ、どうも第6高校、神明全です・・・えっと・・・が“学問のおすすめ”です」
(さっさと読んで・・・気絶しそうだ・・・人の目が多すぎる)
「えっと、学問の・・・種類はなんでもいいんですけど・・・究極の学問とはなんでしょう。みなさん普段勉強していますよね・・・多くの高校生は・・・学生は大なり小なり勉強します・・・なんのために?まあ“Z班”に全く勉強しない同級生もいますけど・・・何が目的で?高校受験や大学受験のため?・・・もし試験が目的だとすれば、それは単位時間当たりの能力を見ているだけで―――」
なにやら全く勉強しないのところで失笑が漏れて少し楽になったな。少し落ち着いた。
「―――つまり宿題をしても試験でいい成績を取っても学問は進みません。学問の最終形態は覚えることではなくて新しい1ページを作ることです。つまり高校でやっている勉強の多くは恐らく正しいと思われていることを盲目的に覚えているだけです。例えば科学はかならず間違っています、100%自然科学を理解するのは不可能ですからどこかに間違いが―――」
「高校で成績トップの高校生というのは現段階ではあらゆる学問の発展には全く影響しません、逆に学問にとって必要なことは間違いを正し、新しい何かを見付けることにあります。点数を付けられないんです―――」
「―――今見つかっていない何かを探して証明するのが学問です。教科書を丸暗記して試験のテクニックを磨いても世界でトップのテスト成績でもその人は賢くありません―――」
「―――クイズ王が新しい動力を発明しますか?新しい薬を作りますか?盲目的に覚えた知識や固定概念は新しいものを生む妨げになりかねない。どれだけ柔軟に―――」
いつの間にか普通に拍手をされて壇上を後にしていた・・・よく覚えていない。詰め込むだけの勉強は発展しない・・・とか言いたいのだが伝わったのだろうか。
(はあ、やっと終わった・・・。どうでもいい、美術講堂に帰りたい・・・)
ああ・・・アフロのを聞いてから逃げるか。
「第9弁士の―――」
変なことを言っていないか思い出しているとあっという間に9番目のアフロの番になった。
舞台袖からちらっとみてやる。ブロッコリーがなにか喋り出した・・・緊張しないのかな。
「まず最初にこの場にいる全員に聞きたいことがある・・・“幽霊奇譚”という題だ。何を聞かれるかなんとなくわかるであろう。できれば挙手を頂きたい。つまり・・・幽霊を信じているものと幽霊を信じていないものだ・・・これをまずあなた方に聞きたい。挙手しなくてもいい。だが心の中で挙手してくれたらいい」
「ではまず、幽霊を信じている者・・・挙手を願いたい・・・できれば先生方も・・・なるほどなるほど恥ずかしければ心の中で挙げて頂きたい」
「次に幽霊を信じていないもの・・・そんなものあるか、という人は挙手を願いたい・・・なるほどな・・」
「ふむ。予想外であるな。みなさん・・・素直に結構な人数が挙手してくれるところに多少の驚きがある。まあそれはいい・・・本題に入ろう・・・今幽霊を信じますか?という問いに答えたみなさん・・・信じるか信じないか?8割以上がどちらかに手を挙げてくれてたようだ。心の中で手をどちらかに挙げていたものを足すと9割以上が回答してくれたようである。最初に結論を言おう・・・どちらかに手を挙げた者は・・・つまり幽霊を信じている・・・あるいは信じていないと手を挙げたそこの君・・・君、君」
「どちらかに手を挙げた者は全員・・・俺の敵である!」
はあ?なんだって?
「話にならんな君たち・・・証明する手立ても無いものを信じる奴も信じない奴も同レベルのバカである・・・全く話にならん」
「あなた方には明確な類似点がある・・・命を賭けて知力を振り絞って・・・幽霊がいないことをあるいはいることを証明しようとするものは、この中に多分いない・・・幽霊というだれでも知っている言葉・・・これが実在するかしないか・・・そこそこ大きな事例であろう・・・幽霊を見たから存在を信じる・・・見たこと無いから信じない・・・親が信じているから・・・悪いことをしたものは捌かれるべきだから死後の世界はあると思う・・・ならば幽霊もきっといるはず・・・レベルが低すぎて話にならん―――」
「―――幽霊の話しはついでだ・・・幽霊がいるか信じますか?信じませんか?と聞かれれば自分ならこう答えるであろう。幽霊がいるかいないかは知らん!・・・知らんよ・・・笑いが漏れているな・・・もう少し言い方を変えよう・・・幽霊がいるかいないかは分からない、証明する方法を思いつかないし証明できた者も過去にいない・・・信じるか信じないかの2択の答えは・・・分からない、だ・・・幽霊がいる可能性は低く・・・いたらいた方が面白い・屁理屈に聞こえるだろうか?二択を選択しないことは色々なものに応用が利く・・・A君とつき合ったら幸せなのかB君とつき合ったら幸せなのか?進路もそうだ・・・生き方も・・・大人になれば仕事を続けますか辞めますか?・・・ただしA君とつき合おうがB君とつき合おうが悩むような相手であれば恐らくどちらも正解だ・・・どちらとつき合っても上手くいくだろうし。そして、もう一人があたりだったかと後で思い悩むであろう―――」
「―――UFOなども同じであろうな・・・あるんだかないんだか分からん。そして本気で信じている者にとってそれは現実と同じだ。そして本気で信じていないものはバカにして自分からUFOがいない事の確固たる証明を半生をかけてすることはない。いないことの証明の方が難しいからな、そしていない方につく方が有識者ぽいからな。だがしかし・・・この中で河童を信じている者はいるかな?この話の流れで挙手できる強者はそうそういないだろうが・・・。1人いるとしよう・・・この聴衆の中で河童という妖怪を信じている者が一人いるとしよう・・・やや異様だ・・・変わり者だろうか、この河童を信じている高校生はもう一人、河童を信じてくれるものをこの聴衆の中に増やせるだろうか?まあ難しかろう・・・だが例えば数百年前の1000人の隔離された村があったとして・・・半世紀・・・50年ほど河童のマネをする変なオジサンがいたとして・・・村人ほぼ全員が河童の祟りを信じている村で・・・そこで生まれて河童を信じない選択肢が可能だろうか?どう思う―――この村では思考に大幅な偏りが生まれている、つまり―――」
「―――盲信するのは真実へたどり着くのを困難にあるいは不可能にするわけだ。どっちでもいいと思うか幽霊など・・・実際・・・君たち召喚戦士は・・・君たちのチームは“Z班”に負けているではないか・・・総合的な能力は低くても・・・いやいや“Z班”の総合的な能力は低い・・・まあ全国レベルで考えればな・・・万年1回戦負けの我々は試合慣れすらしていない・・・そう・・・できそうもないことをやってのけるのが知恵という真実そのものであろう。真実とは無形でかつ流動的なものであり―――」
「―――もう一度考えて頂きたい・・・君は自分で自分の目を塞いでいないか?自分の感性を?筋肉を?知恵を?戦闘経験を?伸ばすのは真実に近づく第一歩であろう・・・自己の感受性や対応力を成長させるのは凝り固まった心では効率が悪かろう・・・人間の心のキャパシティはアビリティはポシビリティはとても一生で使いきれん―――人間の可能性を効率よく伸ばすのに似て非なる脳と心の関係は―――」
むお?聞き入ってしまった・・。
まあ第6高校の我々なんて馬鹿にされているのだろうが・・・そもそも第1高校だからな。でもまあ、そこそこ拍手が沸いている・・・さすがアフロ。
でっかいブロッコリーが壇上からテコテコ降りてくる。
うん、いつも通りか・・・さすがだ。緊張で死にかけた僕とは違うなぁ。
―――アフロがやって来る・・・竜族の召喚士になって目が良くなったな、会場は暗いのに一目で2階席の僕を見つけている。
「やあアフロ、お疲れさま・・・とっとと逃げない?この場から」
「キエ~、一応・・・青木の弁論を聞いてやろうと思っておるのだが・・・どうも嫌な予感がするのう」
「ああ、そう・・・そんなに興味ないけど」
「興味を持つ必要はなかろう・・・間違いない」
まあ、やっぱそうなるのか。
15番目だから青木君はまだまだ先だな。




