閑話.保健室で健康診断
ある日の午後に僕は呼び出された。
そして仕方なく第6高校の保健室にいる僕は・・・殺すかどうするか?・・・を思案中だ・・・目の前の女性をだ。
そう。そして目の前の女性と話すことなんて何もないのだ。
・・・こいつとは・・・毒島渚先生とは特に・・・。
もう長い付き合いだ・・・だが言葉を交わしたことはない・・・今後も交わさないだろう。
・・・勝負があるとすれば僕の勝ちだ・・・。まあ僕が呪殺されることを考えれば結局向こうの勝ちなのかもしれないが。
「はい、聴診しますよ」そう言って彼女は聴診器を構える「・・・」僕は無視だ。いつも無視しているのにしつこい女だ。
「まあ心音は問題ないので問診は異常なし・・・とします」
木属性の竜族の召喚士は大抵、五感に優れる。そもそもステートなんていらないだろうに。
(誰かに見張られているのか?・・・いやそれは無い。僕の霊眼が見落とすはずはないのだ)
第6高校の保健室に来るのはあの時以来か・・・由良が攻めてきて私刑が開始され・・・しかし僕とアフロの機転で危うく難を逃れれた時だ。まあその後で葵に抱きつかれ桔梗に振り回されて肋骨が折れたが。
このアル中の毒島渚先生も救急車で運ばれて中央病院でもめたらしい。
この第6高校の・・・他の高校より小さなガランとした保健室に今は神明全と毒島渚だけなわけだ。
僕より身長は高く黒髪は長いが僕ほどではない。足は組んでおり胸元はやや開いている。そうセクシーと言ってもいいのだろう・・・一部生徒からはセクシー先生として圧倒的に人気だ。美人コンテストもでてたな・・・ビール一気飲みなどして・・・。
対する僕はブレザーのままだ・・・健康診断だろうが脱ぐのも断る!
この女・・・殺すかどうか今、僕は迷っている。
だめだ・・・。
だめだ・・・リスクが高すぎる・・・。
それでも僕の身体に一番詳しいわけだし、本来消してしまった方がいいかもしれないが。
それには自分の身が完全に安全でないと、完全犯罪でなければならない。
目の前で白衣をはおり足を組んでいる毒島渚はソードフィッシュのクラスBエージェント、実際そこそこ強いだろう。
保健の先生の給料なんて知らないが・・・クラスBでもエージェントの給料は高い。差額分は・・・いや全額・・・それもボーナス付きでもうすぐ支払われるだろう。
11歳の時から数えてほぼ7年・・・僕はもうすぐ18歳だ。長い付き合いだ。
「・・・」
「・・・」
この女は不必要なことは何も話さないし、こっちも話さない・・・話すことなんてないのだ。
「採血結果も問題ありません。変わったことはございませんか?」
「・・・」
変わったこと?よく言うな・・・まったくよく言う・・・。
(腹の中は煮えくり返っているのだろう・・・この女は?・・・無害・・・とは言い難い・・・消しておくべきなのだろうか・・・)
この女は西園寺御美奈の仲間だ、部下だ・・・もと“ホーリーライト・ザ・ファースト”の補欠だ。
もう29歳のはずだから11年前まで第1高校の生徒で・・・そして、今でも西園寺御美奈の忠犬だ。
突然この女はやって来た。
左肩に呪詛を埋め込まれ妖蟲族と強引に感覚合一させられて・・・全寮制の小学校に突っ込まれた時、同時にこの女も保健医として赴任してきたのだ。ソードフィッシュの就職を蹴ってまで。
中学に僕が上がるとこの女も僕の中学の保健医となり、第6高校に進学したときも保健医としてついてきた。
そう7年も監視しているのだ・・・僕を・・・なんのため?
報酬のためだろう・・・仕事の内容はシンプルだ・・・。
呪詛が問題なく元気に存在しているか・・・僕に西園寺に対する反意がないか・・・その能力がないか・・・そして有事にはこいつが僕の呪詛をアキュート化させるのだろう。その可能性は高い。
呪詛が発動すれば6秒後に僕は死ぬ・・・そうはさせるか・・・触媒法で40秒に寿命を延ばしてやる・・・その40秒の間に・・・呪詛の発動者を・・・その時、御美奈はきっと近くにいないだろう、末端の人間が僕の自爆で巻き込まれても何も思うまい・・・そういう女だ。
この女はいつでも僕を殺せるわけだ。
呪われた拝み屋め・・・。
僕の死を確認するのが唯一の仕事・・・。
東大では召喚学部特殊魔術学科に在籍し専攻はまさしく“呪詛”・・・僕の監視役にはもってこいというわけだ。
ただ命令とはいえ7年もよくやる・・・同級生の西園寺御美奈がそんなに怖いか・・・いや金のためか。卒業してずっと僕の監視がお仕事・・・楽しいか?
こいつの目をどれだけ僕が気を付けたか・・・こいつとの二人きりの健康診断で・・・竜族の召喚士であることはあっという間にバレてしまう・・・中学の時・・・どれほどの時間を・・・こいつの対策に費やしたか・・・。
こいつの前ではバカな妖蟲族の三流召喚士を―――ダメダメ高校生を演じる必要があった。前の後見人の矢富沢より明らかにできるため・・・大変だったのだ。
高校1年生の4月にコイツの健診を受けて・・・そこからすぐに次元環へもぐり・・・命がけで甲竜モルネを騎竜としたのだ・・・僕は竜の召喚士となった。召喚獣を付け替えるなんて4000年間誰も知らない裏技だが・・・しかし健診では一瞬でばれてしまう・・・。本当に何万もの方法を吟味し、仕方なく仮契約状態としたのだ・・・。影にいれて影獣化していなければ・・・騙せる・・・。
中学生だと・・・僕を侮ったせいだ。
変わったことはないですかって?竜の召喚士になりましたよ!どれほど難度が高く低い確率だったか。
そして2年半もの間・・・仮契約状態は続き・・・副産物として高速レベルアップを編み出したわけだ・・・この仮契約状態での高速レベルアップのお陰でZ班のクズ達は・・・驚くほどの進歩を遂げた。
というか蛹からいつ孵化するんだ?モルネは・・・長くない?
「身長は伸びましたね。体調のことで困っていることはありませんか?」
年内に殺す相手になにを言うか・・・。
この僕を殺すプロジェクトのサブリーダーが澄ました顔で何を言う・・・。殺した後で僕が所有する竜王家遺物の分配先まで決まっている・・・そこに来年4月内定していることも知っている。
「・・・」問いには無視に決まっている。お前なんかと話すことは何もないのだ。何も。
生涯一度も口を利くことはない。
コイツは失敗したのだ・・・監視は失敗した・・・あろうことか僕は竜族になり・・・桔梗も倒してしまった。竜王位継承権は現在第一位なのだ。そうならないための監視だったはずだ。
数年前だが竜王の霊眼は見通す・・・僕を殺害しソードフィッシュにもどった暁には2億円の臨時ボーナスが出るのだ、さらに7年分の給料も支払われるだろう・・・ソードフィッシュのクラスBエージェントの給料7年分で、ちょうど1億円くらい・・・つまり3億円欲しさで僕の呪いの監視をしているわけだ。
だがボーナスは削られる可能性が出てきた・・・。
焦っているはずなのだ・・・この毒島渚は。
高校2年の健診は肺炎をこじらせたと入院し凌いだ、もちろん嘘だ。
さらに高校3年の健診は理由をつけて逃げ回っていたのだ。
・・・よく今の僕を健診に呼び出したな・・・。
いつでも殺せる相手だ僕は・・・それは変わっていない・・・だが僕は今・・・いつでもお前を殺せる・・・細かな採血の数値が役に立つとは思えないが。
僕を呼び出して健診?・・・形上取り繕ったのだろうか。
しかしお互い今殺すわけにはいかない・・・か。
取り敢えず思い切り無視しとけばいいや。
インハイ全国大会に出場した時点で、自衛大学の召喚学部特科は推薦で確実に入れる・・・もうタイガーセンセを通して推薦してもらっている・・・それどころか今死ねば自衛省が強制捜査する可能性が高いだろう、西園寺グループと癒着していなければ・・・だが。いつでも殺せるが殺しにくくなったはずだ。
まあインハイは出場どころか優勝してしまったが。
小さなころに一度だけ会った姉もこの方法で身を守り王位継承権を放棄したのだ・・・。ただし長男の僕はいくつかの次元環や強力な遺物の竜王家権限を持ってしまっている。そう簡単にはいかないだろうし・・・暗殺は決まったうえで巨大プロジェクトが動いているのだ・・・強引なことをしてくる可能性は高い。
自衛大学の召喚学部特科は戦前は竜騎召喚科大学という単科大学で、竜王家の者が竜騎士になるということは王位継承権放棄とみなされたのだ。これを僕も姉もやっているわけだ。
唐突に現実に引き戻される・・・終わったようだ。
「それではこれでおしまいです。お疲れさまでした。」
「お疲れさまでした」あ?喋ってしまった・・・しまったぁ、7年間喋ってなかったのに・・・。
あああ・・・無視の記録が途絶えてしまった・・・。
「え?」
キョトンとした顔で僕を見て来る・・・毒島めぇ・・・ハメたな。
ああ・・・しまったぁ、なんか負けた気分だ・・・そんな僕の表情を読まれたのかもしれないが話しかけるな・・・。
「あの?少しお話ししませんか。神明君・・・」
・・・絶対しゃべらない・・・つもりだ。
この保健の先生との浅からぬ関係はまだ終わりそうにない。




