第2章エピローグ②
―――ん?上の方で反応あり・・・誰かゲヘナの結界に入ってくる・・・僕が入ったゲートじゃない。
閉鎖空間に隠れているゲヘナの基地は僕の造った黒曜重積爆弾・改によって壊滅的なダメージを負っている。
中にいたゲヘナの主戦力は全滅・・・危険な兵器もほぼ戦闘不能状態だ。
霊眼を使い、超感覚で情報収集しているのだが・・・こう壊れていては・・・。
ガラガラと・・・まだ天井やら壁が少し崩れている・・・。
上から侵入者の気配が降りてくる。
(それにしてもソードフィッシュのテロ対策チームが突入するには早い・・・)
(周囲にいた“ゲヘナ”メンバーが戻ったか?)
まあ倒しておくか・・・。
この程度の距離と遮蔽物は僕には無意味・・・って?ん?魔装もしていない・・・この顔は。
スーツ姿の女性が9メートルくらいを一気に飛び降りてくる。
少し離れたところに降り立つ、もちろんこっちに気付いている。
(時間があまりない。テロ対策チームのランクAエージェントが乗り込んでくると厄介)
まあ、挨拶は大事だな・・・。
「こんばんは。香樓鬼さん」
「・・・」
返事なしか、まあ仕方ない。
「ええ。警察でもソードフィッシュでもありませんよ」
「・・・あなたは一体?これは・・・一体?」
スーツ姿の彼女は周りに目を配っている。変わり果てたアジトに。
殺気はない・・・戦う気はないようだが。
「捕らえられていたんじゃないんですか?縄の跡が身体についていますね。ついさっきまで。見張りは倒したというところですね。アジトの異界化結界が破損しているのに気付いたんですね。まあ派手に光りましたからね」
「・・・これをあなたが一人で?」テログループの一員とは思えない含みの無い会話だ。
そして、その問いに答える必要性は無い、代わりに言うことがある。
「未来ちゃんはご心配なく、異能刑務所に送られることはありません。知っていることはなんでも話すでしょうし大して何も知りませんから」
「・・・そうですか。事実なのでしたら・・・」
「夕方とは別人みたいですね。アストラルボディで来たときとは」
「・・・お会いしたことがありますでしょうか」
少し顔をこちらへ向けて真面目な顔つきになった。やはり全く戦闘の意思はないようだ。
敵の可能性が高い僕に無策とは。
「あいさつしたことはありません」
「・・・そうですか。学園の関係者・・・ですよね」
思い出そうとしているようだが、何年も顔を隠しているし分からないだろう。
時間もないし、どうするか。
「もうすぐテロ対策チームが侵入してきますよ?捕まる気ですか?今後どうするんです?」
「・・・決めていませんが・・・あなたに話しても仕方ないですが、ここにいなかったはずのある“鬼士”を追うつもりです」
「蒼哭鬼ですね。数的に鬼士が一人足りないので。結界が破損した瞬間に・・・もともと結界の外にいましたが単独で西へ逃げましたね、恐らく長野のとある研究所でしょう」
多分。蒼哭鬼に魔族の角を呪詛として寄生させられたのだろう。恐らく、未来も。だとすれば蒼哭鬼は未来の・・・。
「・・・驚きました。名前も分かるんですね・・・あなたは一体?」
「その問いに答えるのは無粋ですね。あなたの知識で分かりますでしょう?九鬼芙蓉導師は思いつきもしなかったようですが」導師は大したことなかったな。
「そう・・・そう・・・如月葵、さんの・・・師匠・・・?つまり・・・竜王家ゆかりの方ですか・・・未来から報告がありました。異常に能力の高い協力者が葵さんにはいると」
「さっきの吸血鬼よりずいぶんましな答えですね・・・これから蒼哭鬼を追ってそれでどうするつもりです?刺し違える気ですか?騙されていたからですか?」
「・・・けじめをつける必要があります」
「未来ちゃんはどうするんですか?」
「・・・もう、未来と会うことは無いでしょうね」
「なるほど賭けてもいいですね。負けますよ」
「・・・?・・・なぜそう思われますか?」
「あなた、香樓鬼さん。ご自分の魔晶石は奪われたにしても倒した見張りから魔晶石を奪って簡易展開くらいできるでしょう。離反したのならここは敵地のはず。敵地に武装せず丸裸で来るとは、いえ服は勿論きていますけど・・・つまり自分に魔族の血が流れていると思っていたから魔族のために尽くしたと。実は人間だったので今度は人間のために尽くそうと。騙されていたので気乗りはしないが復讐もどきをして人生の集大成にしようというんですね。真面目ですね。だからアジ・ダハーカの封印すら見つけられないんですよ」
彼女はほんの少しうっすらと笑ったようだ。
「・・・そうでしたね。あなたにはハメられました。凌空門での復活も読まれていましたね。アジダハーカ様復活おめでとうの垂れ幕には本当に驚きました。真面目過ぎますか。そうかもしれませんね」
「未来ちゃんもよく似ていますよ。嫌なことも真面目にしますから。お互い相手の立場と自分の過ちを考えて会いたいのに二度と会おうとしないでしょうね。そうやって自分の考えを縛るから・・・真面目な所を利用されたんですよ。蒼哭鬼に甘えのあるあなたは絶対に勝てません。武装せずに行って返り討ちです。彼はビジネスマンですからね、彼はソードフィッシュにも在籍しています。というか元々ソードフィッシュの社員です」
「・・・なるほど。ゲヘナのライバルともいうべきソードフィッシュの・・・あの人らしい・・・といいますか」
表情はあまり変わらない・・・どうでもいい?・・・自暴自棄?だろうか。
「ゲヘナは西園寺グループの科学魔術開発機構が造った末端組織で、ソードフィッシュは西園寺グループの内庁法務執行センターの一部です。もともと西園寺の右手と左手の関係です。両者を競わせていくらでも利益が出せるでしょう」
「それは・・・それは・・・そういうことですか。思い当たることはありますね。何をしても、うまくいかないわけですね・・・」
「いえいえ。上手くいかない方が人生面白いでしょう。勝ち続けるのが目標ですか?負け戦も楽しいですよ。上手くいかない間こそ充実するでしょう?・・・いま僕がしている事って勝つためではありませんよ、興味はありますけどね」
自分を指さして僕は言う・・・顔を見せているのに今日は剛毅だな。
彼女も魔族もどき・・・と思えば全然対人恐怖症が発症しない。
「少し気が楽になりました。不思議な人ですね、あなたは。ユーモアがありますし・・・ふふふ。役割を全うしようとする真面目さに付け込まれたと・・・もう少し早く出会いたかったです・・・あなたが年上で男性でしたら人生こんなになっていなかったでしょうね」
遠い目でなにを言ってるんだ?
あと僕は男性ですよ?
「固いですよね?考えが?・・・20年ほど氷漬けにして復活させましょうか?僕より年下になりますよ?あと僕は男性ですからね?」
「男性?・・・えええ!・・・そう。そう・・・もしかして・・・あなたは男性・・・なら予想できる人が・・・そんな?・・・葵さんの関係者で・・・まさか第6高校にいる神明全・・・さんくらいしか思いつきませんが?」
「正解・・・」
おっそいわ。
「そんな・・・最初の検証で全く無害としか・・・人質の価値もないことが分かって・・・なるほど恐ろしい人です。攻略資料の最初のページのあなたが・・・あなたなんて、そういえば顔も髪で覆われて・・・顔も知りませんでしたね」
全くの無害で、人質の価値もない・・・か。完璧だ・・・僕の仕込み通りじゃないか。
「・・・」
「・・・」
心なしか、雰囲気が和らいだようだ。
「・・・氷漬けにするのは勘弁してください。できましたら今後連絡をとれませんでしょうか?」
「アドレスでよければいつでもどうぞ。このアドレスは安全ですので・・・さあソードフィッシュのサマナーがなだれ込んできますよ・・・娘の未来ちゃんは多分・・停学だけで済みます。執行部に知り合いがいますから間違いありません」
去ろうとした彼女だったがふと立ち止まった・・・。
「破壊の神・・・の誕生・・・」
「なんですって?」
「・・・思い出したのです・・・もっともレベルの高い予言者です、もちろんゲヘナの能力者ですが。2年前にニルヴァーナとの戦闘でメキシコで命を落としておりますが生前予言したのを思い出しました。この世に破壊の神が現れると。わたしはその神の誕生に立ち会うと言うのです」
静かな口調にはなにかの確証でもあるというのだろうか。
「・・・なぜそれを僕に?」
「このすべてが消えてしまった基地の有様と人知を超えているあなたを見ていると、ふと思い出しました・・・いえ忘れてください・・・あなたは娘からの報告以上でした。とても尊敬できる方に出会えました」
よく分からないけどまあいいか。彼女は去って行った。
昨日、旧美術講堂の模様のある壁を引っぺがして売りに行こうとしていたら・・・緑アフロ隊長に人知を超えたバカか、間違いない!自信を持て!・・・と言われたばっかだが・・・。
はっ!忘れていた!金目のモノは何か落ちてないか?何か売れるものは?
ああ!これは慌てないと・・・明日の夕飯が・・・。
!!!
上の方で気配がする。
ああ?ソードフィッシュのサマナーたちが入ってきちゃった!
ああ・・・詠唱短縮してテレポートしないと逃げないと・・・あああ、1円にもならないじゃないか!
お願い。誰か報酬をください・・・世界的なテログループを壊滅させてんだから・・・600円でいいから・・・たまにはコンビニのお弁当が食べたいよう・・・。
お腹すいたな・・・。
―――その後、何度か香樓鬼さんと部室のPCでメールのやり取りをしていくつか情報が増えた・・・結構頻繁にメールが来る・・・真面目か・・・。
あ?また新しくメールが来ている・・・うーん、なるほどな・・・香樓鬼さんは有能だ。
髪の毛で顔を隠しているが画面は問題なく見れる。
それにしても葵は負けてしまったし、しばらく桔梗も葵も覗けないし。
ん?・・・アフロは雑誌を読んでいる・・・青木君と村上君は将棋か・・・霊眼でチラッと見ると青木君が二歩して反則しているが気付いていないようだ。
まあ、しばらく感合印は封印して大人しくしていよう。
ボロボロの旧美術講堂の部室は落ち着くなあ。
最近の・・・アジ・ダハーカといい、介入しすぎると足がつくかもしれない・・・誰かが僕の存在にたどり着くとやっかいだ・・・しばらく隠れよう、まあずっと隠れているが。
ゲヘナは戦力を集中していた・・・あの横浜のアジトに・・・おかげで一網打尽だった。
色々と情報をまとめていくと、いくつか見えてきた事がある。
・・・見落とすわけにはいけないのだ、時間がない。
実は・・・香樓鬼さんも知らないだろうが・・・ゲヘナは順調だったのだ・・・。
まず鏡のダンジョン・・・罠にしては大掛かり過ぎる・・・確かにそう思った、罠なら無駄だらけだ・・・。
検証して真上から見ると・・・鏡のダンジョンは魔方陣になっていたのだ・・・ただ作動しなかった・・・他に邪魔な封印があったからだ。
予想外の封印・・・それが古代の竜、アジ・ダハーカ・・・。
当初この古代の竜の復活がゲヘナの目的かと思ったし、実際ゲヘナは復活させる気だったが本当の目的ではなかったのだ・・・ついでだったわけだ。真の目的のためにアジ・ダハーカの封印は余計で予想外だった・・・これは香樓鬼さんもたどりついていない事実だ。
そして封印は解かれアジ・ダハーカは復活して数十秒後に葵の自爆技によって倒された(まあ、計画したのはこの賢い僕ですけど。700円でいい、報酬が欲しい・・・)
・・・それで、この古代の竜の復活がゲヘナの悲願だったとしたら割いた人員が少なすぎる、これも気になっていた。
次に奴らがセイントストーンと呼んだ黒曜重積爆弾・・・。
第3高校で爆発すれば数千人の召喚士が命を落として・・・生贄として真の目的に捧げるつもりだった。
そう、鏡のダンジョンは復活の魔方陣であり、それを妨げていたアジ・ダハーカの復活と同時に・・・余計な封印が無くなって・・・復活の魔方陣は完成したわけだ・・・つまり予想外にアジ・ダハーカの封印なんてものがあり、それが邪魔で肝心の真の目的を妨げていたわけだ・・・あとは復活の魔方陣を発動させるだけ・・・。
実はすべて計算の上だったと。
つまり・・・ゲヘナの導師が3名とも消滅してこれを知っているのは僕一人か・・・。
まあインハイまで、じっくり策を練ろう・・・上手くいくかは知らないけど。
そして香樓鬼さんは、どうも・・・どうやら、不思議なことに充実して楽しいのだと言う。
警察に追われ、テロ対策特殊部隊に追われ、ICPOに追われ、ゲヘナの残党からも追われて・・・楽しいとは。
私の心は荒野を駆け巡る
帰れるところは一つもないかもしれない
けれど想いは時を越えて誰かに届く
こんな文章で彼女のメールは締めくくられている、戦闘中なのに大した余裕だな。
そう、逆境を楽しめれば人生は面白いだろう・・・まるで僕の・・・。
PC画面から顔を上げて聞いてみよう・・・ってアフロが読んでいる雑誌、月刊誌プラナリアの世界ってなんだ・・・月刊誌だと?
「時にアフロ?逆境は楽しいか?」
「キエ~。もけ。底なしの穴のように楽しいものであろう・・・落ちれば落ちるほどに、加速するほどにな。間違いない自信を持て」
復活しかかっている・・・この地に封印されし最上位魔族・・・ベルゼブブ・・・。




