第2章エピローグ①
―――60歳程の男性は飛ぶように建物の上を音もせず走っていく・・・服の田村山の主人はどこへ行くのだろうか・・・。
単独で動けるとなると“鬼”だろうか・・・香樓鬼のような“鬼士”ではないだろうが。
予想通り目的は秋元未来の救助ではなかった・・・部下にいるはずの“使い魔”は見当たらない・・・単独任務中のようだ。
コイツの目的は黒曜重積爆弾の方だった。
第1高校の結界に易々と侵入して、まあつまりこういった任務専用の能力者なのだろう。
(今晩動くとは思っていたけどね・・・)
今日の秋元未来をめぐっての“ドラゴンディセンダント”と“DD-stars”に対する“ホーリーライト”の全面戦争はとてもいい情報源になった。
各人の戦闘力がかなり垣間見えたと言える・・・。
ん?田村山の主人はやはり横浜へ向かっているようだ・・・。気配もほぼ無く、スピードは中々のものだ・・・まあ僕と比べても仕方ないが。
危険なのはやはり西園寺桔梗だ・・・。
明日の如月葵と西園寺桔梗の言わば決闘は・・・厳しいだろう・・・葵は負ける可能性が高い・・・。
極悪人・桔梗の能力は特筆に値する・・・レマと纐纈君、カンナ、葵、そして権藤先生の5人で倒せないとは・・・。
未熟な葵をぶつけるのは時期尚早かもしれない・・・。あれだな・・・三守沙羅のせいだな・・・覗きすぎたか・・・自然と四文字熟語が出てきてしまう。
あのアジ・ダハーカ戦のせいで葵はしばらく自爆技は使えないし・・・弱体化を余儀なくなれている・・・全く使えない。
・・・手駒が欲しい・・・切実だ。
しかし“王家のコイン”が纐纈君の家から出て来るなんて・・・これで“原始の船”が恐らく動く・・・。現代の科学で・・・そして現代魔術での想定を超えた戦闘行為が可能になるだろう。あれさえ動けばどれほどの魔術兵団だろうと捻じ曲げて戦闘が可能だ・・・こちらは無傷で周囲ごと焦土に変えられる。
そうそう・・・現在は全く問題ないが特筆すべきはもう一人・・・緑川尊だ・・・権藤先生が言う程とは思わないが・・・異様に成長しているのは間違いない。ひょっとすると緑川も候補に挙げていいかもしれないって・・・。
ん?
田村山の主人はスピードを緩めている・・・迂回している?一応ザルだが・・・追跡を考慮しているのか・・・そう訓練されているのか。
赤い外観の倉庫にたどり着いた・・・結構古いが・・・まだまだ使用されているようだ。
その4階部分の窓になるだろうか。一番左の窓から身体を滑らせて入っていく。
ここが入り口・・・の一つかな・・・。
祟鏡鬼が死んだ後も異界化結界は問題なく存在している・・・他にも安定させる術士がいるのだろう。
ゲヘナの構成員・・・服の田村山の主人・・・タムちゃんとでも呼ぼう・・・の気配が完全に消える・・・。
なるほどね・・・これだけ巧妙だとプロでもわからないわけか。
タムちゃんには“印”がつけてある・・・ヴィジョンアイならこの結界もだいたい理解したし中が覗けるだろう・・・。
ン――。
やっぱりな、かなり集まっている。
失敗続きだからな・・・。鏡のダンジョンは消滅、アジ・ダハーカも失敗、爆弾は不発、それに大幹部の香樓鬼は離脱?したはずだし・・・喝を入れると言ったところだろうか。
誰かが演説している?
内部はビジネスホテルのような大きさで・・・造りだが一番広いところにかなりの人数が集まっている。
集団の前にいるのは導師かな・・・。
やっぱり演説中だ・・・静かに他の連中は聞いている。
両手をひろげてうやうやしくお話し中というわけだ。
構成員も雑魚じゃない・・・“鬼士”は5人かな・・・“導師”は3人か・・・アジア全域とヨーロッパで主にテロ行為をしている“ゲヘナ”の幹部たちだ。
ん?ほとんど全員いる・・・。
うーん手強いな・・・TMPA換算で4万後半がごろごろいるし、それぞれ特殊能力があるだろう・・・場合によっては2対1でもきついな・・・。
・・・どうするかな。
「―――世界は生まれ変わらねばならん!人はまるでウイルスだ!ではウイルスは何を蝕んでいるか?・・・そう母だ・・・母なる地球を蝕んでいる・・・風邪をひけば熱が出る・・・母は病んでおられるのだ・・・治療が必要なのである・・・それも早急に・・・魔族の侵攻はバランスを保つためである・・・我らが同士である・・・」
演説は続いている・・・見渡しても未来の母親、香樓鬼はいないな・・・やっぱりな・・・逃げたか捕らえられたか・・・まあどうでもいいが。
幸い演説は続く・・・どうするか考えないと。
「志の無い力は暴力である。力のない志は無力である・・・我々は利用されながらも立たねばならんのである!一度覚えた悦楽は・・・便利さは人は手放すことはできん!哀れなものだ!エネルギーが不足すれば家電製品をすべて捨てられるか?飽食の時代だ・・・食事はっどうだ?一部の地域であまり、捨てられ、大多数の場所では不足している・・・この不均衡は誰が整えるというのだ?」
・・・こんなに戦力があるのか・・・相当な物量だ・・・戦争が可能だ・・・。
まだまだ演説は続いている・・・鼓舞するのも大変だな。
「人では無理なのだ・・・我々もウイルスの1種なのだとすれば進化せねばならんのである!欲望の赴くままの人の時代は終わり進んでいかなければならない、停滞している暇などないのだ・・・世界と魔族と共存し・・・」
「我々は誰とも競わぬ!この思想こそが・・・命を越えた力であり・・・分かち合えるものはみな仲間である。人は進化せねばならん!下劣な欲望を無くせばまさにそれは新しい人類の形である・・・世界に永遠の平和をもたらさん」
「・・・どうした同士よ・・・」
ヒソヒソ・・・。なるほど名前が聞こえた・・・演説しているのは九鬼芙蓉導師か、40代に見えるが・・・。
あれだ・・・タムちゃんが演説していない導師に・・・女性の導師だ・・・こうしてみると結構美人だな・・・頭にニョッキリ生えている角とか痛そうだけど・・・と話している。
3人とも導師は特にゲキ強よだな・・・。
それに疑似魔族に、似て非なる人造魔族。人造魔獣・・・さてさて何処産だろうか・・・まあ予想はつくが。
「おお!皆の者見るのだ・・・これを・・・我らが希望の光は潰えておらん!セイントストーンである!」
周りの観衆が波のように動く。
オオオ―――!!!
「このセイントストーンは人の身のみを攻撃し母なる地球は全く傷つけないのである・・・黄眼鬼に拍手を・・・では壇上にあがるがよい・・・」
タムちゃんはみんなに頭をペコペコ下げている、実際いい奴なのかもしれない・・・ひょっとしたら。
「皆の者、功労者である黄眼鬼に“鬼士”の位を授けるが異論はなかろうな・・・」
パチパチ・・・!タムちゃんは少し照れている・・・単独任務向きだから中間管理職は向いていないと思うけどな・・・香樓鬼が抜けたのはイタイと見える。
つまり立て直す気か。
「人と魔族は共存し・・・世界を今より少しでいい・・・良くしようではないか」
「皆の者・・・協力してくれ・・・私も皆に協力しよう・・・どうすればよくなるか切に求めよう・・・されど強制してはならん!・・・召喚士以外の犠牲は極力減らし、人類をあるべき状態へ皆で導き、皆で変わっていくのだ・・・我々は少ないが人類にも協力者は多い・・・究極の均衡を保ち世界に・・・何度でも言おうではないか・・・世界に永遠の平和を・・・」
泣きながら演説しながら・・・九鬼芙蓉導師は黒曜重積爆弾を右手で高く持ち上げる。
感動し泣いているものもいる、異形のものと言っても中身は・・・。
だいたい中央だな・・・。
よし爆破しよう。
ジャシャ――――――――!!!
真白になり一瞬でヴィジョンアイは見えなくなった。
すっごい眩しい・・・。
・・・ああ、全く・・・。
忍び込んだ倉庫の4階の異界化結果の入り口からまあ・・・眩い光が漏れた漏れた・・・。
これは警察に・・・テロ対策グループにバレるなぁ。
・・・さて入るか。
倉庫の4階の影の部分から僕は実体化する・・・そしてさっさと結界を破り内部へ侵入する。
“黒衣”・・・本当の名前は知らないが・・・僕は“黒衣”というローブのような魔装を纏っている。黒髪は後ろで束ねて顔は珍しく出している。
よいしょっと・・。
おっと!出た先は床が無い・・・。
“加速一現”
気配を消して動くのはタムちゃんより僕のが得意である。
バラバラ!ガラガラ!と音を立ててまだ内部は崩れている。
よっと、おっと・・・。
建物自体が光っているので多少暗くなったが肉眼でも見える・・・。
先ほどの・・・演説していた空間にたどり着く・・・。
だいぶ変わったなあ。
パラパラとまだ崩れている。異界化結界そのものは無事だな。
大体予想通り・・・爆心地には何もない・・・ずいぶんゲヘナのアジトは地形が変わっている。
何にも無くなっちゃったなぁ。さらに地下も全滅かな。
―――「麗良ちゃん、眠いよ」
「男の子でしょう、一晩くらいなによ」
「いや、でもすごくない?秋元さんが生物部の換気口に爆弾仕掛けたのが午前1時でさ、すぐテレポートして超難解なやつを解除してさ。それからずっとだよ、ゲヘナが30年かけて作ったとかいう黒曜重積爆弾のレプリカをたった半日で無色の魔晶石を使って作ってさ、しかも威力はねえ、オリジナル何て比じゃない・・・」
「男の子は自慢しないの!こっちだってアスモとかいう変態女に襲われてブス桔梗には第3高校の校舎と運動場壊されて予算が大変なのよ!予算が!アキラが直してくれるのね?じゃあ?如月葵が壊したところはアキラが弁償してくれるのねえ?」
「ぇえええええ・・・ごめんて。そんなお金あるわけないでしょ。ごめんごめん麗良ちゃんの方が大変だねぇ」いかん、麗良は機嫌悪いな今日は。
「それでさぁ。こっちのレプリカを1高に盗みやすいとこに置いといてくれないかな、オリジナルは適当に厳重管理でいいからさ」
「なにか考えがあるのね。わかったわ。貸しですからね。危ないことしないよね?」
「あ、うん」危ないことしかしないよ。
「そうね・・・報酬は・・・ハグ・・・で、いいわ」小声で何て言った?
「え?なんて?剥ぐ?」剥ぐってなにを?「うん、そうしよう。それでいいよ」
「・・・きっとよ、アキラ・・・あなたは一生分不幸だったんだから働かなくても一生食べさせてあげるからね。予算組むからもういくわ」剥ぐってなにを?剥ぐ?小声だったし聞き間違えたかも?聞き直したら怒るよね・・・。
「う、うん。じゃあ・・・それで行こう」わけわかんねえ。
―――罠は2重だったんだけど一つ目に見事にひっかかってくれた。
タムちゃんはこの僕が造った方の爆弾をかかえてアジトへ戻ってくれたわけだ。
大して調べもしないから・・・もう少し慎重にならないといけないね。
観察できている範囲では・・・生命は・・・あ・・・いる?
まあいいや。
構成員、使い魔クラス、鬼クラス、鬼士クラス・・・は全滅・・・。
疑似魔族や人造魔族も消滅・・・。攻撃用のマジックアイテムもほぼ消滅もしくは破損。
導師クラスは2人消滅・・・あと1人。
というわけで・・・。
この細胞の増殖は・・・導師が1人復活しかかっているようだ・・・。
速いな・・・吸血鬼かな。
ひび割れた大地から染み出してくるように細胞が増殖し形を成していく。
小さめのガーゴイルのような蜥蜴と人間のキメラのようなクリーチャーが形成されていく。
よく分からないが唸っているようだ。
グゥゥゥゥ!!
「聞こえますか?」
ウウルル!!!
ヴィジョンアイで確認する・・・アブミ骨がまだ再生されていない。
聞こえていないようだ・・・。
しばらく僕は観察する・・・タイミングを待とう。
「やっぱり吸血鬼か、聞こえますか?」
グルルルル!
ああ・・・今度は声帯がまだ不完全か。
さらに再生していく・・・。
小さい・・・かなりダメージを負ったようで元のサイズからは程遠いようだ。
・・・でもすごいな、再生していく。
「クィー!!ク!キィサァマァ、キィサマァアアア!」
「聞こえますか?九鬼芙蓉導師ですか?こんばんは」
我ながら間抜けな会話だが仕方ない。
明らかにこのクリーチャーは狼狽しているようだ。まあ驚かせてしまったか?襲撃は予想しておかないと。
「コレハナントシタコトカ、ミナガ・・・ミナガキエテシマッタ・・・ナカマガ」
(聞き取りにくいな・・・もうちょっと再生してくれないかな)
「ナゼジャ・・・ヲヲヲ。コロスヒツヨウナカッタデアロウ・・・しんじだい・・・新時代を担う皆が・・・こんな・・・こんなバカな」お?声帯も完全に復活してきた様子だ。
「何度も学園を襲撃したんですからそろそろやり返されるのは想定内でしょう?」
「・・・襲撃は彼奴等を出し抜く必要があったのだ・・・貴様は何者?」彼奴等?
「見れば分かるでしょう?予想外なのは自分の洞察力に問題があるわけです。新時代に引きずり込むために第4高校の穂村恵美を噛んだんですか?」
こちらの出方を伺っているようだが、選択ミスとしか思えない。相手の能力未知数ならまず逃走したほうがいいだろうに
「穂村じゃと・・・あのものは失敗であった。命の重みに耐えることができなかったのだ」
「なるほど。予想通り失敗したと言うわけですね?」
「吸血衝動に抗えれば吸血鬼は新人類としての一翼を担う能力が十分ある。蜂野薫子は素晴らしい能力を・・・世界を変える能力を持っておったのに・・・命を奪ってしまいよった・・・新人類は・・・ああ、蜂野薫子は後継者になるはずであった・・・」人造魔族も疑似魔族も、結局・・・生殖能力はないはずだ。唯一の成功例といえるのが吸血鬼か?まあ勝手に増えるからな。
「新人類、新人類って・・・あなたのさっきの演説は、誰でも思いつくような内容でさらに自分の考えを相手に刷り込ませるのが目的でしょう?古い古い人類の使い古された手法ですよ。新人類からはほど遠い。普通の人類でしたよ・・・穂村恵美を噛んで吸血鬼化して暴走させ、山のように死人を量産して・・・秋元親子を騙して・・・何年も服従させた・・・」
くぐもった声で返答がある。
「新たなものを生み出すには痛みがいるのだよ・・・美しい娘さん!」などと言いつつ両目が怪しく輝く・・・竜族には効きにくいし・・・ましてや霊眼持ちですよ。
“魅了眼光”なんて効きませんよ。
つか・・・娘ってなんやねん。
「チャームは跳ね返ります・・・」あと僕は男ですと言おうかと思ったが・・まあいいや。
吸血鬼はしゃがみ込んで身体を揺すっている・・・精神感応系の術が跳ね返ったのだ。
「う・・・う・・・これはこの能力は・・・竜王家の血筋か・・・貴様の正体読めたぞ・・・また竜王家のものか・・・だから早急に倒さねばならんと・・・貴様!何をしているか分かっておるのか世界を救うための選択肢を奪っておるのだ・・・世界は進歩しなけれなならん」
「いや正体読めたって言われても顔も出してるしさ。なんにも隠していませんよ・・・あなたの都合での世界の救済なんていりませんよ・・・それにしても僕ってあれだな。人間不信なのに魔族は平気なんですよね」
一瞬この吸血鬼は僕の目を覗き込む、反応遅いな・・・迷っている?
“土竜覚醒砕波”!!
遅すぎる・・・反射しておこう・。
魔法を唱えた九鬼芙蓉導師は獣のような声をあげ転げまわる・・・実際見た目は獣に近い。魔法攻撃は・・・僕の周囲だけは何事もないのだ。
「跳ね返りますよ・・・弱いな。かなり消耗していますから仕方ないか・・・驚いていますね。単純な覚醒魔法なら跳ね返すのは難しくないんですよ。何来るかある程度予想がいりますけど」
その後・・・数手やりあったが・・・というかすべての術を反射してやった。攻撃力はともかく術の選択もダメ。術の詠唱も遅い。予想外のことをしないと僕とは戦えないね。
自分は安全な所からテロ行為を繰り返していただけのことはあって、正直弱い。跳ね返された魔法攻撃で体組織は破損し、吸血鬼とはいえ再生が追い付かない・・・もうすぐ消滅するだろう。
「ゴフゥ・・・人がこの地球を食い潰してしまう前に・・・我々には大義が・・・救わねばならん・・・世界を救う・・・こんなところ・・・で・・・うげぇぇ」
「まあ、こんなもんなんですね。戦闘技術も理念も、そうそうツキシマって誰ですか?一人しか思いつかないけれど・・・」おや、吸血鬼の目つきが変わったな。結構、情報をくれるんだ。
(ツキシマって名前を聞いただけで無策で飛び掛かって来るとは・・・実在するのか。ゲヘナの盟主ツキシマ・・・)
さすがに接触テレパスで心をゆっくり読んでいる暇はないな。
無色の魔晶石を一つ勿体ないけど使って倒してしまうか。
“光輪群現”
18枚の光輪が僕の周囲に現れる・・・更科麗良の技・・・として知られているが彼女に教えたのはもともと僕だったりする。
“陽光覚醒八咫鏡”
哀れな吸血鬼の最後だ・・・光に飲まれ消えていく・・・。
こんなものか・・・アジトにいた“ゲヘナ”メンバーは全滅した。
(さてとなるべく情報を集めておくか・・・)




