2-14-8.決勝リーグ⑧
おや?
試合後に闘技場をグルっと周って“ドラゴンディセンダント”の連中が数人、挨拶と握手?に来たようだ。
ところどころ青い髪の不良少女と、凛と澄ました和風美人、そして金髪ショートの美少女だ・・・まあ知らない人から見ればアイドルユニットかと思うようなレベルだろう・・・だが各人の戦闘力は・・・同学年の召喚戦士と比べても大きく逸脱している。まあ僕はアイドルとかさっぱり分からないが。
この3人の少女の見た目と戦闘能力のギャップはとんでもない・・・そして全員高校1年生だ・・・2年後に降魔六学園を卒業するころには恐るべき戦士に成長しているだろう。
あともう一人は春ごろよりも髪の短くなったロミオだ。
「兄さま、戦って頂けるとは名誉でした」さっきも会ったじゃん?葵・・・握手いる?まあいいけど。
「お兄様、お久し振りでございます。ふふ。如月部長の敬語はうち慣れられません」まあ三守沙羅なら握手してやってもいいだろう・・・ん?・・・手、離してくれる、沙羅?なんか目が潤んでる?花粉症か?
「な、な、な、な、なんちゅう綺麗な兄ちゃんや」変顔しないと喋れないロミオか・・・お前とは握手せんからな。
「その節はいろいろとお世話になりましたなの。お兄様」君も・・・握手長い・・・。右手は沙羅で左手は未来・・・・で、やけに顔が赤い・・・君も花粉症か?
「おまえら・・・」やや怪訝そうな顔で葵は左右の沙羅と未来を見ている・・・。
なにやら如月葵を中心に微妙な雰囲気になっている、1年生3人組は目配せし合っている。
「おめえら。なんでそんなに兄さまに馴れ馴れしんだよ」
「うちは少しだけ術の手ほどきをして頂いたことがありまして・・・」
「・・・兄さまにか?聞いてねえぜ」
ヒソヒソと目の前で・・・・。
「あたしもちょこっと助けていただいたのなのなの」
「兄さまにか・・・未来、それも聞いてねえぜ」
どうも葵の目つきが危ない・・・何するか分からないからな。
後ろから坊主頭のロミオが覗き込んでくる・・・結構背は高いな・・・まあ僕が低いのだが。
「なんや、ええな。わしも何か教えてくれると嬉しいで」
「だあ、余計なこと言わなくていいんだよ、恥ずかしんだよ!ロミオ」
何やねん、気付いてないんかい。
「あのロミオくん」
「は、はい!」返事してるけど・・・どこ見とるん、こいつ全然僕と目あわせん気か。まあいいけど。
「・・・入院してる時に魔導書あげたでしょ」
「・・・!!!ええええ!あれ!これか!あああ!まさか!病院にあった魔導書は・・・わしを成長させてくれた・・・おおおおおおお、お兄様が?」兄ちゃんからお兄様に呼び方変わっとるやないか?
すげえ騒がしかったが“ドラゴンディセンダント”は長居せずさっさと帰っていった。
魔導書返してくれないかな、珍しい本だから売れば500円くらいになるはずなんだけどな。
あああ!しまった!魔導書あげたでしょって言ってしまった貸したでしょって言うべきだったのか。
もういいや。うん、僕らも控室に引き上げよう。
ん?闘技場の端だ。
霊眼を使わなくても余裕で見えるが城嶋由良と花屋敷華聯が遠くから会釈している・・・なんだ?・・・ああ。そうか次の第7試合は“Z班”対“Z班第二部(王下竜騎兵団)”だったか。
ガリバー兄弟は復活しているだろうし・・・メチャクチャ手強いぞ・・・。
お互い全力でやりましょう・・・挨拶・・・というわけか。
―――そして昼休憩だが・・・昼休憩とかいらないんだよな。
でっかい村上君がガラガラと点滴棒を持って頭をかきながら控室に向かう我々のところへ追いついてきた。
村上君は点滴をしながらだがみんなのいる控室に戻りたいと医務室から出てきて合流してきたのだ。
能力の使い過ぎで頭痛はあるだろうが、どっちにしても入院にはならなかったか。
今のところ落ちこぼれ“Z班”は順調だ。
いろいろ考えたいことはある・・・あるが。
まあ、でもしばらく休むか。
本日二度目の控室前だ・・・お茶とお弁当が人数分届けられている・・・ん?何かおかしい・・・。
「あれ?控室にだれかいるよ?気配がある」
霊眼を使っていなくても僕の感覚は研ぎ澄まされているのだ・・・控室から何者かの気配だ。
「まさか、もけキュン。ど、泥棒?」
「怖わいわねえ。じんめちゃん」
そう言ってグイグイタイガーセンセが抱きついてくる・・・。
ひっ付かなくってもタイガーセンセより強い泥棒なんているわけが。
「え?それはまずいですよ。警察を呼びましょうか」
あの村上君それは無いやろ。っていうか青木君は四つん這いになって何を見てるんだ?
「お、おれっちのドローンで外からよぉ」
それも無いやろ、オールバッカ―、だいたい持ってきて無いやろ。
あ、そっか。霊眼で見ればいいんだ、僕って賢いなあ。
「キエ―――!ダイブツくんであろう。ウツケどもめ。ずっと寝ておったではないか、間違いない」
「・・・あ」
―――午後は第7試合から始まるわけだけど、しばし休憩だ・・・残り4試合でインハイ団体戦優勝が決まる。
一応“Z班”は優勝圏内ではある。
しかし・・・こいつら・・・。
・・・だから試合中は弁当食わないんだって・・・バクバクバクバク・・・。
「さすが決勝リーグでっすね。ミラクルパッションおいっしいです」
「なんでえ。青木ちゃんよお。つやつやしてるじゃねえか」
「キエ~。矮小な欲望を満たしておったからのう」
みんなモグモグパクパク食べまくっている。
相変わらず青木君はいくつ弁当食べる気だ、身体小さいのになあ。
ちなみに僕はスポーツ飲料だけだ・・・お弁当は持って帰ろう。
うう、しかも・・・この座高長い奴・・・村上君も点滴しながら食べるのか。
「でもすごいことですね、みなさん。決勝リーグ2連勝ですよ」
「キエ~。村上。まだまだこれからである」
だから少なめにしようよ。大事な試合なら体調がかわるって。
「グモ~。グモ~・・・どお~して起こしてくれないのじゃ!お弁当食べないとやってられないのじゃ」
「キエ~。秘密兵器はとっておくものである」
適当によく言うわ。天井をむいて手足をバタバタさせてるから起きてるかと思った・・・決してすっかり忘れていたわけではなく。第5試合、第6試合の間中ずっと寝てるのもどうかと・・・。
野生の動物ってみんなあんな感じで寝る・・・なわけないか。
うーん、しかし・・・ご飯粒を派手に顔面と床にまぶしつつ・・・よく食べるねえ・・・謎食欲だ。
それにしても、この美人こそ謎だが・・・。
「それにしても、もけキュンは強いねえ。一回も回復した覚えが無いの」
「そいうえばそうね、さすがじんめちゃん。アンタッチャブルって触れられないって意味のニックネームもあったものね」あったっけ?
「偶然です」そりゃそうやろ、痛いのはいやや。
「神明さまはあんまり食べないんですね。なんか戦いも何もかも神様みたい・・・茜は尊敬しています」
「キエ~。ただの出来損ないであるがな・・・」
そうそう僕の事分かってくれてるのはアフロくらい・・・ああもう一人いたか。
もう一人・・・幼馴染みが・・・この幼馴染みも・・・。
「あっ」と星崎が言ってなにかゴソゴソしている「真名子、手伝いましょう」「半径1メートル以内に入ったらコロスよアオキ!」2人は相変わらず仲がいい・・・もうつき合っているようなものだろう?
・・・ゴスゴスゴス!!
胸を触ろうとして青木君は7発殴られていた・・・。
ん?タブレットを出したかったのか・・・?
『みんな。あたしだよ。あたし。ちょっとなら話していいって・・・分かってる分かってるって・・・』入院中の黒川有栖からだ、ベッドの上で看護師2人に付き添われて・・・というか多分脱走しかけて監視されているわけか。
星崎さんはタブレットをみんなの方に向けてくれている。
『みんなやるじゃん。すげえ強ええじゃんか。あれ?先輩は?じんめ先輩が写らない』
なんなんだ・・・映ってないといけないのか。
「いるよ。大分いいみたいだけど。脱走しようなんて思わないようにね」
『さすが先輩。分かってんじゃん。ダイジェスト版だけど試合みてるよ。すげえじゃん世界一強ええぜ』分かってんじゃんじゃねえ、重症なのに脱走すんな。
「まあ有栖に笑われない程度には頑張るよ」
『先輩・・・信じてるね。あと、華曾我部先輩・・・』
「あ、はいはい!黒川さま。華曾我部茜と申しまして・・・」そう言ってタブレットに向かって正座した。
『あんたすげえガッツだな。いけてるぜぇ!』軽くこの不良は弱っているせいか微笑みながらウインクしたが時間のようだ、看護師にしっかり管理されているようでよかったよかった『さわんじゃねえよ、んじゃまたな。みんな・・・勝てよ!』
病床のダークアリスとの会話は終了した。アリスは戦士として口だけじゃなかった、一人前の戦士として尊敬に値する。
「キエ―――!生意気な後輩であるが、舐めた試合はできないであろう。第7試合はZ班同士・・・そして第9試合で“ホーリーライト”とあたる。この控室に戻ってくるのは全部終わってからになる。さて、出来損ないども。集合せよ!円陣を組めい!」
緑アフロ隊長がタイガーセンセに目配せする。
「そうね。きちんと声をかけるのはこの決勝リーグでは最後かな。・・・コホン。先生は知ってるわ。みんなは強い、この異常な成長スピードに勝てるものは何もないわ。恐れる必要も無い。何かあったときは先生にまかせて・・・みんなは前を向いて好きなようにやって頂戴!」
なかなかイイこと言う?タイガーのくせに。
「キエ~。最後にZ班の総合コーチ。もけ。一言頼む」
おおお?ええ?振るなよ。あほか。苦手やねん。
げえ、みんなの視線が集中する、この場合長いコメントはおかしいし、あんまり哲学的でもあれだし。なんや?なんも思いつかん。
「・・・えっとあの・・・コーチらしいので。では一言・・・えっと。刹那のタイミングで勝敗なんでどう転ぶか分からない・・・試合の勝敗なんてどうでもいい。チームのことはアフロ軍師にまかせて・・・今日、得るものがあればそれでいい。自分を成長させるために自分の為だけにエゴイスティックに自分を探すために戦ってくれ。ここまで来たんだ。楽しもう」
「おっっっけーだぜ!もけちゃん!」
「キエ~!全員手を出せ・・・行くぞ!最下層の出来損ないども!為すべきことを成せ!最たる負け組の同胞よ!一生に一回くらい凱歌を揚げよ!・・・いくぜ!!」
オ――――――――ッ!!!
ん?まるでチームみたいだな・・・。
総合コーチ・・・悪くない響きだ・・・ヴィジョンアイ・クラッカーモードをこっそり発動。
霊眼を開放して4倍速で考えよう・・・。
総合コーチだと言うのであればだ・・・もう少し考えて次の試合の・・・各戦闘の戦術なんかも教えた方がいいのだろうか。
“Z班第二部”は強い・・・勝っても負けても激戦になるだろう。
目の前の緑アフロ隊長はどう戦略を練っているのだろう、何も考えていないようにも見える。
もしくは、もうすべての試合が見えているのだろうか?・・・まさかな。
さらに僕は考える。
リーグ戦だから全勝しなくても優勝の目はあるだろうが“ホーリーライト”以外にはせめて勝たないと・・・優勝はどう考えても厳しい。うちじゃなくてもいいが“ホーリーライト”をどこかのチームが倒してくれれば、あるいは得失点差でいけるかもしれない。
だが“ホーリーライト”を倒せるチームがどこにある?
希望的観測だけだは先へ進めない。
2連勝している我ら“Z班”は確かに優勝の可能性を残しているのだ・・・3勝1敗にはしたいところだ。
そういう意味では“Z班第二部”との試合はわざと負けて戦力を温存して“ホーリーライト”戦にかけるのはどうだろうか?自分ならそうするだろう。
“Z班第二部・王下竜騎兵団”は非常に強力なメンバーで・・・成長している。
こいつらにもし勝っても・・・消耗が激しければ、あるいは誰か脱落すれば・・・次の“ホーリーライト・ザ・ファースト”と戦う前から負けることになる。
どうする?
強力な雷使いで捨て身技まである泉麻希、あの高成弟を倒すプリン西川、わけわからんガリバー兄弟、実は今大会でも最強クラスの“神の目”花屋敷華聯そして竜族すら麻痺させるリーダー城嶋由良の・・・とりあえずの特徴と危険な技・・・くらいは話しておこうか。比較的安全な距離も・・・。
控室から闘技場までの薄暗い通路を歩いている間・・・ある程度はこの“Z班”の連中に・・・伝えられただろうか。
「―――麻痺に関しては蓄積してると思ったら少し距離をあけて時間を稼いでね。というわけ・・・みんな分かったかな?何か質問ある?」頑張ってまとめたのだが、少しは役に立つといいが。
「真名子――――!!この戦闘が終わったら好きなことを好きなだけさせてください!!」
「もう一回おトイレいっていいかな?」
「死ね!アオキ!・・・この変態から私を守ってミイロミューン」
「キエ~!村上はもう戦闘終了であろう・・・緊張する意味がなかろう、間違いない」
「グモファー・・・眠いのじゃ、枕持っていくのじゃ」
「おれっちの覚醒魔法で焼き払ってやるぜい、なあ。もけちゃん」
「だからあの覚醒魔法は安定しないし、氷属性なんだから凍えさせるの間違いでしょう?・・・第二部について何か質問ありますか?」
「質問ていうか・・・じんめちゃん、暗いところってなんか燃えてこない?」
・・・不安だ・・・不安しかない。
―――第7試合・・・。
“Z班”対“Z班第二部・王下竜騎兵団”との試合順を見て負けたと思った。
・・・ああ、想定範囲外・・・僕もまだまだか・・・何が総合コーチ、一言頼むやねん。
総合コーチって・・・言わなかった?
何やねん。
何の意味もない。
いや何も読めていないのは僕か。
ああ、全く。
自己嫌悪だ・・・戦略はアフロに任せればいいのだ。
もう知らん。
もう知らんからな。
勉強不足は認めよう。
この試合結果は・・・。
先鋒戦・・・プリン西川が棄権して華曾我部茜の不戦勝。
次鋒戦・・・泉麻希が棄権してオールバッカ―の不戦勝。
中堅戦・・・ガリバー兄弟が棄権して青木くん・ダイブツくんペアの不戦勝。
副将戦・・・花屋敷華聯が棄権して緑アフロ部長の不戦勝。
大将戦・・・城嶋由良は嬉しそうに笑い、僕の不戦勝。
第7試合、僕らの3戦目は勝利したっていうか。
っていうか、なんでタイガーセンセは抱きついて来てるんだ・・・不戦勝だよ・・・。
なんやねん・・・なんでやねん。あの由良と華聯の会釈はなんやったんや。
(いやいやいや、そんな馬鹿な・・・さっき控室で円陣組んで盛り上がったのはなんだったんだ、一体。中堅ダブルスが青木くん・ダイブツくんペアって勝つ気ないやろ・・・つまり棄権するの知ってたな、この結果を予想してたな・・・アフロめえ・・・)
いやあラッキーラッキーじゃねえよ、オールバッカ―も。




