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ドラゴンディセンダント  作者: ドクターわたる
第4章 プチ聖魔大戦
251/265

4-12-2.主人公現れる②コイツがスパイ

―――眩い光が収まっていく。


「あ、あああ!」


少しやつれていた城嶋由良の身体は生気が急速にみなぎる。

そしてゆらゆらと全身から魔力の回帰波が出ている。

能力を失っているはずなのにだ。

当然・・・いつもの小悪魔チックな魔装は復活していく。

みんな呆然と見ている。


唖然として由良さんは自分の両手を見ている。

そう失われた魔力が戻ったのだ。


「こ、これは神明さま・・・」

「え、ま、魔装を復活させたの・・・神明くん?」


そう横で見ている麗良ちゃんがまあ驚くのも無理はない、この術のことは麗良ちゃんに言ってなかったっけ。

いつも2人きりの時はアキラって呼ぶから神明くんという響きは他人行儀で新鮮だ。


「ま、魔力が・・・魔力が戻りました。そんな、えええ・・・じゃああの子も・・・」

「うん、蘇生させたよ。特殊な魔法でね。実は竜神明王家には・・使えるのは僕だけだけれど影の中で死んでいる召喚獣を蘇生できるんだ・・・つまり竜を復活させたわけさ」


「わたくしの竜が・・・あの子が・・・生きている」

「ああああ、よ、よかったじゃないの」涙ぐんでいるのはカンナさんだ、医務室に半日くらい一緒にいて情が移ったのかもしれない。


「えええ・・・蘇生・・・蘇生ですか・・・」


「あ、相変わらず規格外だね、君は。古来より召喚獣を復活させる方法は無いとされているんだけどね・・・」

「いえいえ、苦労していますからね」


「相変わらずムチャクチャやで・・・このお人は」


「神明様・・・なんてお礼を言ったらいいか由良は・・・」

先ほどとは別人のような生気に満ち満ちた表情になっている。


よかった、よかった。

まあそりゃあ驚くだろう・・・。

召喚獣は蘇生できないというのがここ4千年間の通説だからだ。

うちの茜さんもこの魔術のお陰で第6高校に転校してきたみたいだし。


むう、しかし麗良ちゃんには後で怒られそうな気もする・・・この魔術の話しはしてなかったな。由良さんの胸を触った時もにらんでいた気がする。


さらにもう2人ほど自分の身体に起きた変化について驚いている女性がいる・・・まあ当然だ。


「え、え?」


1人は瞳がとてもきれいな女性だ。

そういえば4月から一緒に暮らす約束をした気がする。


第3高校が誇る雷神・不知火玲麻さんだ。

類まれな美しさのレマさんにあんな姿は似合わないのだ。

近くにいるカンナの方が目を丸くして驚いている。


「ちょ、レマ。どうなって・・・え、すごい。これって」

「じ、神明君・・・腕が・・・両腕が・・・生えてきてる」

「当然さ。光子覚醒降誕はそこそこの身体欠損も治るからね」


「神明くんすごい、すごすぎるわ。どうやってお礼したらいいか・・・それに光子覚醒降誕を範囲魔法にしたのね?人間業じゃない・・・さすが私のか―――」


「ぅわああああ!すごいわ!すごいわ!すごいわ!ありがとう神明くん、レマも治してくれて・・・さすがだわ、ハグしていいかしら」

泣きながら鼻からも何か垂らしながらカンナさんがこっちに向かってくる。


「お、お断りします」

「え?あら?そう?」


「カンナ先輩、節操無いのはアカンで・・・」


もう1人静かに驚いている・・・第1高校の誇れる天才だ。

それはコアの近く、1人離れたところにいる安福英美理さんだ。


「あれ、目が見えます・・・」

僕の超強力回復魔術で当然彼女の顔の傷も消えて視力も回復する。

自分の顔を触っている。

みんなも振り返って注目を集めている。


「エミリー顔の傷が消えている・・・」

うんうん、貸しだとは言わないけど桔梗も喜んでいるようだ。

鬼の目にもなんとかというやつだな。


一生残るはずだった顔の大きな傷と視力も回復した・・・まあ予想通りだ。

その場にいる全員の傷もすべて消えているはずだ。


ふふん。

驚かれるのは気持ちいい。


絶望しかけていたところに突然僕がやってきて蘇生・回復させまくっているのだ。


うんうん自分は役に立っている。


―――ズカズカッ!


突然、僕の真ん前にガチャガチャと侍がやって来た。

何か言いたげだ。

どうにもイライラしている男・・・武者姿で顔も見せない辛気臭い高成弟だ。


「いや神明・・・そんなもの焼け石に水だ、すぐまた殺され潰されるだけだ」


「いやだからそうはならないようにするんだよ・・・ところでスパイをいぶり出す前に・・・簡単な質問から始めます、実は日時が大事なんですよ」

「なんだと?日時ぃだと?」


「だから黙りなさいよ。高成」


全く高成弟はうっとうしい。

話す順番が狂うじゃないか。

腕組みしているこの男は執拗に僕にプレッシャーをかけてくるのだ。


「いやあの君じゃなくて・・・じゃあ雑賀捜査官・・・今日は何年何月何日でしょうか?」もちろんみんなの視線は雑賀捜査官に集まる。


「俺?・・・俺が答えるのかい?何を意図しているのか分からないが・・・君の能力はよく分かっている、いつでもプロでやっていける・・・その美しさでしかし男とは残念だが・・・いやまあいい。協力するよ、なんだか分からないが・・・今日の日付は2054年の6月6日だ」


「なんやて?」

「え?」

「はあ?」


―――!!!


まあみんなこれも驚くだろう。


「貴様が・・・」

「えええええええ!」


って予想より驚いてるな・・・。


「今は2056年の1月です・・・」

何気なく僕は会話を続ける。


一瞬バツが悪そうに雑賀琉人は両手を少し広げたがいつもの余裕たっぷりな感じに戻った。


「・・・!・・・はっはっは!・・・なんだって・・・いやいや・・・いや待て何の冗談だ?2054年6月6日だ」


その場の数人が桔梗を含めて殺気立つのが感じられた。

スパイはこいつかと訝しんだのだ。


いやそうじゃないんだけど。


「みなさん。落ち着いて下さい。雑賀捜査官はスパイではありません。ですが雑賀捜査官。ご自分の竜を召喚してください」


「なんだって・・・この雰囲気だと。2056年ってことなのか?どういうことだ?」


「あなた薄着ですよね。6月にしては寒いでしょう?ご自分の竜を召喚すれば分かりますよ。何が起きているのか・・・」


「・・・いいだろう・・・我が竜を召喚しようではないか」


召喚士は自分の影にいる召喚獣を影に接する場所から魔方陣を使って召喚できる。

理解が追い付かない雑賀捜査官だが召喚してくれるようだ。

両腕を交差して構える。


―――ズズズズゥ


珍しくも無い影からの召喚獣の登場・・・だ。


だが。

非常に珍しい状態だった。

影からできたモノが物質化する。


「な、なんだこりゃあ!」本人が一番驚いている。


竜は現れた・・・全長6メートルほど小ぶりだが強力な雷竜だ。

だが背中にはもう一つ顔があった・・・身体もだ。


召喚獣は1体としか契約できない、当然だ・・・2体いるわけがないのだ。

背中のもう1体は余計だ。


―――ギィイイエェ!!


竜は苦しんでのたうち回るがその場から動けない。


妖気を撒き散らしつつダークグリーンの鱗がびっしりと敷き詰まった竜の背中にまとわりつく魔獣、もしくは魔族・・・ソイツは雷竜とほぼ同サイズであり竜に馬乗りになりながら絡みついていた。

体幹からはイカかタコのような触手が生えており竜に絡みついている。


竜にアクマが覆いかぶさっているのだ。


魔族の両腕はサイズはかなり大きいが猿人のような形であり指まで長く爪は鋭く、竜の首と胴体に深く食い込んでいる。


「なんじゃこりゃあ!」

「魔族です・・・あなたの召喚獣ではありません」


・・・。

誰も動かない。


「あ、倒してくださいね」


早よ動かんかい・・・お前ら・・・。


「直ちに駆逐せよ!!」そう桔梗が号令をかける前に戦闘は始まった。

「燃えとけクソデーモン!ゴミ溜めに帰してやる!」

全身を燃えるような魔力のエフェクトに包む葵は口が悪い・・・誰に似たのか。


―――ドスドスドスジュウゥウウ!!!


そこそこの中級魔族なのだがこのメンバーである。

あっという間に高成と桔梗にバラバラにされてまだ生きていたのだが葵に焼き殺された。

そこそこ焼肉のような匂いがしている。

塵も残らないほどだ。


(うん、焼肉食べたいな・・・ピザの予定だけれど)


雷竜は軽傷だし・・・さらに城嶋由良の回復魔術で傷はあっという間に消えていく。


もともとかなり自信家である雑賀琉人だが流石に自分の竜を見上げつつ呆然としていた。


「どういうことか説明してくれないだろうか・・・」

「おそらく貴方は2054年のミッションに失敗してからずっと魔族に操られていたんです。身分証どころか財布もケータイもないなんておかしいでしょう」


「いや・・・待ってくれ。2年間だぞ・・・トレーニングで召喚すれば魔族が出てくるんだぜ。気付くだろう」


「そういう気にはならないはずです。操られていますから。それに正気にもどったのはつい最近のようです。つまり我々の中に潜り込ませるために貴方の洗脳を緩めたのでしょう・・・そして今倒したコイツがスパイです、燃え尽きましたけど。コイツはなんでもかんでも魔王にこちらの情報を伝えていたわけです・・・これで僕もなんでも喋れます」


「いやちょっと待て・・・魔王?いやその前に俺の部隊はどうなったんだ?行方不明だったのなら捜索願はどうなんだ?」


その答えには権藤先生が応えてくれるようだ。

「2054年6月なら香港で起きた事件なら知っています。やはりそうでしたか。協会から海外派遣されたアタッカーチーム・・・たしか211、212部隊は全滅したそうです。面識のある人はいませんでしたが・・・とっくに告別式まで終わっているはずです」


「はぁ?・・・俺の212部隊が全滅?・・・いやマジか・・・マジか・・・言葉も無いな・・・じゃあエリカは・・・いや待てガセだったんだ。ゲヘナはもういなかった・・・何も無かったんだ・・・いや待て・・・確かあれは6月8日だ・・・俺らは何と戦ったんだ?エリカは?生き残りは?」


「その後の記憶はありますか・・・」


「覚えているのは・・・タレコミはガセで良かった良かったと、中華でも食うかと・・・そこで、そこから記憶がない。6月8日の夜だ、腕時計を確かに見た。そうだあの時計も持っていない・・・今2056年だって・・・1年半も俺はどこで何を・・・」


さすがの雑賀捜査官も考えはまとまらない。

そして相変わらず高成弟は何かに焦っている、まあ理由は分からなくもない。


「なこたあどうでもいい!神明!・・・策ってのはこれと関係ねえだろ!」

まあ呪眼なんて埋め込んでも僕は心読めるんだよね・・・。


「もちろんだよ。スパイをなんとかしないと話せないからね。と・・・その前に・・・」


「いや待ってくれ!影の中でずっと俺の竜とアクマが争っていたって言うのか?」


「違いますよ。あなたの竜は今僕が蘇生したんです。由良さんの竜を蘇生させた時です。つまりさっきまで死んでいました」そういえば由良さんの胸を触る必要あったのかな・・・今の僕の能力だと触る必要ないのでは?・・・こ、これは特に麗良ちゃんには秘密にしておこう。


「そ、そ、そりゃあそうか・・・さっきの術で蘇生したってのか?」


その時だ。

―――ビチュン!


何かが飛び跳ねるような気配を感じた。

全員が振り返る・・・階段の方からだ。

簡易結界が破られたのだ。


何者かが階段から飛び出して闘技場の天井まで達している。

天井に張り付いてこちらを凝視する。

手足の長いどうみても女性だ。


飛び降りてくる。


そうもう1人の第6高校生徒だ、彼女には悪いことをしたとか殊勝にも思う。

僕も成長したよな・・・。

由良さんは両手を広げてもう泣いている、親友だからな。

その腕の中に彼女は飛び込んだ。


そうとも優秀な僕は蘇生魔法を範囲魔法にしたんだ。

つまりそういうことだ。


「由良さま!神明さま」

「か、かかかかか・・・か、華聯さん?」

「やあ久しぶり・・・」


昨日の正午に上級魔族と戦い命を落としていた花屋敷華聯の復活だ。

いやあ親友同士が抱き合う姿は美しい・・・気がする。


それだけでは無かった、階下から男性がこちらを覗き見ている、頭だけ出ていて滑稽だ・・・第3高校の副会長その人だ。


「レマ?カンナ?君たちは大丈夫かい?安全確保できているのかい?その感じだとそこは安全なんだよね?」

相変わらず彼はなんだかうざい。

死んだ後までレマさんに嫌いって言われていたな。


「ええええええ?こ、こうけ、こ、纐纈君?生き返ったの?脳浮腫は?え?病気は?」

「生き返っただって?上で魔族の反応があったから花屋敷さんと急いで来たんだよ。倒せたように感じたけれど魔族は倒せたのかい?何度も聞くけれどレマは無事かい?・・・えっと、ここどこだい?」

「・・・無事です、ここは白蓮塔です」レマさんの返事は思ったより刺はなかった。

「白蓮塔か。なるほど、相変わらずレマは美しいね・・・」

「や、やめてください・・・」


「レマ・・・よかった、よかったわ・・・纐纈君、本当に生き返ってる」

カンナはさっきからもう泣いている。


疾患によって亡くなった場合は蘇生できないという通説も覆したわけだ。

いやあ僕って優秀だ。

蘇生魔法は得意なんだよね・・・なんでかよく分からないけど、無属性のモルネは関係ないと思うけど・・・っていうかモルネはいつ目覚めるんだ?


・・・は!


いかん、いかん、時間がないしアフロに怒られる。


「とにかく・・・魔族を倒しましょ、策があるんです、ちなみに下にいる49人は全員復活しているよ、対消滅結界に転げ落ちないように言っていてください。纐纈さん・・・そんなことより・・・」

「そんなことより?」

「了解したよ、神明全くん」

「兄ちゃん、すごすぎるで」

「・・・49人と言うことは医務室に安置されていた遺体も蘇生されたのですわね」

「由良さん、その通りだね」


「みなさん、神明君の話しを聞きましょう。時間がないそうです」

こういう時はエミリーも役に立つな。

麗良ちゃんも由良さんも味方だし話しやすいのはありがたい。


「神明君・・・」


・・・ここで理性を総動員させてまともな会話が可能になったのはやはり権藤那由多先生だ。

相変わらずこの人は要注意だな。


「・・・聞かせてくれないか。その成功確率と効果はどれくらいなのかね?見ての通りこちらの戦力は100人もいない・・・」


「80%以上ですね。それ以上の確率の策があるならソッチでもいいですよ。ちなみにこれから35分以内に敵を倒します」

「80%も?・・・そうか。予想もつかない方法だろうね・・・なるほど35分と言ったね。つまり時間制限があるんだね」

「そうです。聞いてください」そう言って僕はクルっと背を向けた。


・・・はあ。


スピーチは苦手だ。

大嫌いだ。

特に人前でのはイヤだ。

逃げ出したいくらいだ。

顔を見られるのも嫌いだ。


面倒だし逃げたい・・・。


・・・だが大丈夫だ。

聴衆が大勢いたスピーカーズコンテストを乗り越えた僕なら行ける。

そういう意味ではタイガー先生に感謝だ。

演者だったアフロ隊長と青木君にもだ。


そうだ。

深呼吸しよう。

逃げるのは止めよう。


・・・ふう。


僕はみんなの前をツカツカ歩き回りながら説明することにした。

この方がカッコいい気がするのだ、それにこの方が落ち着きそうだ。


そうだ!


それにこのブラックな鎧はお気に入りだ。

今まで背が低すぎて女性用のフィーネの鎧しか着装できなかったのだが黒竜の鎧がサイズ的にぴったりだったのだ。


うん鎧は関係ないな。

まあそんなことはどうでもいい。


「まず敵の勝利条件と我々の勝利条件と引き分け条件についてお話しします」

「この絶望的な状況下で勝利条件があるのかい、我々に・・・神明君」

「あるんですよ。権藤先生・・・とにかくみなさん。聞いていただきます」


権藤先生の言いたいことは分かる。

戦力が少なすぎるし、すでに1万2千人も命を失っていると言いたいのだろう。

でも第6高校をなめてはいけない。



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