3-4-7.竜の迷宮⑦
―――この異次元に閉じ込められて5日目・・・事態は予想通り収束する気配はない。
恐らく1000人以上の召喚士の卵がここ“マルカブ”へ送り込まれて脱出不能となっている。
魔族や魔獣やゾンビに襲われて数はどれくらい減っているだろうか。
とにかく情報が足りない。
騒がしい相棒が今日も騒ぎ立てている。
「それにしてもジンメさんって・・・ムチャクチャ強いっすよね・・・一撃で全部倒してますもんね。見た目は美少女にしか・・・いやなんでもないっす」
・・・最初の晩の魔族の襲撃の時に知り合った但本央介という見た目は普通・・・召喚士としての能力はほぼ最低クラスの大学生・・・彼と僕は2人で組むことにした。
そして今晩は2日ぶりの食事だ。
当番制にしようと言ったのだが「俺にさせてください、じんめサン。雑用は全部俺が・・・」とか言うので食事当番は彼の役目になった・・・ついでに雑用も全部。
夕食は質素だが量は結構あった。
ちなみに夕食の内容は焼いたチーズと水だけだ。
飲み水は僕が川の水を浄化して大量に蒸留水を樽にストック・・・チーズは彼が魔術で火を作り焼いて持ち込んだスナック菓子なんかで適当に味付けしているはずだ。4000年前のチーズだが・・・4000年前の1日を4000年間繰り返しているわけだから・・・恒常維持の魔力なかで・・・ようは都は滅んでいるが・・・今日食べるはずだったチーズなわけで。
まあそこそこ極貧だった僕には美味しく食べられる・・・探索していてチーズと硬いパンのようなものはいくつか見付けているのだ。燻製肉もあったが、なんの肉かもわからないし野生化しているダイブツくんじゃないんだ・・食べられない。
石レンガ倉庫の中2階で火を起こしてそれを2人で囲んでチーズと水だけのディナータイムというわけだ。
「いやあ、美味しいっすよね。じんめサン」
「そうだね、悪くないよ」
レベルアップだけしてればいい君と違って僕は忙しいのだ。
「そ・れ・にしてもこうして真向かいに座るとじんめサンってとんでもない美少女にしか見えないっすね。ほんとに男子高校生なんすか」
適当に頷いておく。
「そうなんすね・・・」
それにしても、王城にはやっぱり地下から入るしかなさそうだな。
彼は良く喋るが結構陽気だ・・・しかしこの喋り方・・・ひょっとしてアイツに似てるな・・・あの誰だっけ?葵の同級生・・・あー、あー。なるほど緑川尊か、あいつも陽気だったな。でも顔は緑川が勝ってるな・・・多分。
胡坐をかいて向かいにすわる但本君は言う。
「大分、分かってきましたね。ここのことが・・・まさか半ゾンビなんて言われてもっすね―――」
―――3日前―――
「ええええええ!スーパーゾンビってなんすか?」
なんやねん、こいつ良く驚くなぁ。
瓦礫の上だし静かに歩けないし・・・うるさいし、捨てたろか・・・魔獣にみつかるじゃないか。
「スーパー?スーパー?スーパーなんでしたっけ」
「Superficial living corpseです、Superficial undead modeとも言うみたい。中途半端なゾンビって意味かな。まあ表面上じゃなくて内部組織の変性だから意味はおかしいですけどね」
「へえええ?じんめサンってなんでも知ってるんすね」
驚きっぱなしやな・・・頭は悪くないと思うけどな・・・オールバッカ―よりは。
「濃密で強烈な瘴気に一気に晒されたせいで肉体がそれに適応したんです。瘴気にね。魔力を持っていない一般人は即死するので生きてるのは召喚獣の魔力のお陰なわけですけどね」
両手をまじまじと但本君は見ている。
「スーパーゾンビになった感じは無いですけどね、干からびてないし」
「だからスーパーゾンビじゃなくって・・・正確な用語じゃないですけどハーフゾンビって呼ばれてるんですよ。脈拍を調べればわかりますよ」
「半ゾンビ状態ってことっすね。ところで・・・脈拍ってなんすか?」
「・・・1分間の心臓の拍動の回数です」
脈もとれんのかい・・・この子は。
「・・・俺の心臓25回でした・・・けど?」
「ですから徐脈・・・通常の半分以下でしょう?」
「そうなんすか?25回って?半分なんすか?ジョマクってなんすか?」この喋り方、似てるなぁ・・・。
「お腹もすかないはずだし、食事も普段の数回に一回で十分でしょうね。病気に強くなり死ににくくもなります、呪いというか呪詛は効きません」
「へえ、半ゾンビってエコっすね。いいことばっかっすか」
「ここで活動するにはですけど、記録では5ヵ月前後で全員、本当のゾンビに変わります・・・瘴気によって変異した場合は自己進化のようなものなので・・・いままでに世界で治癒しえた症例はありません、ゾンビ化したら終わりです、人生終了ですね」
「えええええ。タイムリミット5ヵ月なんすね?・・・・それにしてもじんめさんってメッチャ物知りっすね。ネット検索いらないです、ここはネット繋がらないっすけどね。しかもメッチャ強くてメッチャ美人・・・本当に男なんすか?」
なに頭かいてるんだ?この軽いノリ・・・緑川尊に似てるなぁ。
「ああああっ!!」
相変わらずガラガラ音を立てて彼は立ち上がる・・・。
「ええええええ!う、うし、後ろ・・・ゾ、ゾンビ先輩が大量に襲いに来てますよ」
「知ってますけど?ゾンビ先輩ってなんですか?」
「ゾ、ゾンビの先輩っすね・・・おれらゾンビ見習いじゃないっすか」
なんやと・・・ちょっと面白いか?
・・・夕暮れ時、僕らは大量のゾンビ先輩に囲まれつつあった。
夜間探索しやすくなるように気配を飛ばしておびき寄せていたのだ・・・。
さっさと焼き払おう・・・僕は右手の第二指と第三指そろえてあらかじめ拡散した抗術を発動した。
“光角覚醒結界”
ギィエェェェェ!!!
ゾンビ共が輝きながら消えていく。
「すっげ!アレだけの数のゾンビ先輩が・・・うじゃうじゃいたのに・・ぜ、全滅っすね!・・・・」
よくしゃべるなあ、但本君は。
「・・・はっ!最初の襲撃でこの術を使ってたら、大勢助かったのでは?あっ!でも光属性だからゾンビ先輩にしか効かないか?あれっ!魔族にも光って効きませんかね?ありっ!スーパーゾンビの俺らには効かないんすか?ま、まさか俺たちも光あびたら消えちゃうみたいな・・・だ、大丈夫なんすか?」
「消えません・・・」
(この人面白いな・・・会わせたらダークアリスにきっとカツアゲされるな)
―――とういわけで食事は2日に一度で十分なわけだ。
とはいうものの、この“マルカブ”に入り込んだ研修生たちは恐らく3食たべているとそろそろ食糧難になるだろう。
チーズを頬張る大学生の但本君の見た目は本当に普通だ、そして戦闘力は急速に上昇中・・・。
まあ僕が鍛えているからな。
「それにしても信じられないですよ。まさか俺が竜族にクラスチェンジするなんて・・・」
「ヒトカゲは竜の眷属ですから第一段階から第二段階に上がるときに先祖返りと言われてるけど竜になることがあります」
「いやあ聞いたことがあるような・・・ないような。それにしても伝説の竜騎士になれるなんて・・・ムチャクチャ嬉しいっす。向こうに帰ったらモテモテっすね」
「・・・もう少しレベルアップしないとね」
召喚獣の蛇や蜥蜴、鰐など竜の眷属と呼ばれる種族はクラスアップ時に稀に竜族に成長することがありえる。
霊眼の影響だろうか・・・なんとなく成長が予想できるのだ。まあ“Z班”の連中を散々観察して鍛えてきたのも役に立っているのは間違いない。
要は力の流れを少し変えてやればいいわけだ。
そして但本君はめでたく火竜の召喚士になった。
かなり・・・いや非常にラッキーなことだ、ネットニュースになってもいいくらいの事象だ、1パーセント未満の可能性だし。
そしてさらにラッキーなことに僕は “如月葵”というデタラメな火竜の召喚士を鍛えてきている。
なにが火竜の召喚戦士に必要か・・・どう鍛えるか・・・かなりの知識と経験がある。
彼の火竜・・・“ヒメミ”はまだヒトカゲだった数日前に仮契約状態に戻してある(多分、自分しか知る者がいない禁呪で)・・・つまり火竜になった後も夏の合宿の時のように24時間ゾンビを狩り殺していて自動レベルアップ中というわけだ。
まあ大丈夫だろうと思いつつも念を押しておこう。
「24時間ぶっ通しなので多少睡眠障害になるかもですがハーフゾンビの状態だとそもそも寝なくてもあんまり問題ないはずなので・・・教えた術のイメトレでもしておいてください」
「オッケーっす、じんめサン・・・いやジンメさま」
「・・・さて僕は探索してきます」
「またこんな夜更けにっすか?まあジンメさんなら大丈夫でしょうけど・・・」
少し不安そうな但本君を残してさっさと出て行く。
・・・というわけで真っ暗い街を・・・と言っても霊眼で昼間のように見えているが・・・探索しているわけだ。都市の中央は巨大な湖になっている・・・爆心地の窪みに水が溜まったのだろう。
4000年前に180万人が暮らした“フランヴィーネ”の首都・・・この時代にこんな巨大都市があったこと自体が驚きだが。この国が地球のどこにあったのか・・・あるいは今どこにあるのかは不明だ・・・歴史学者が推察しているが確証はない。
少し高い建物から見渡す廃都は静かだが・・・探知するとゾンビだらけだ・・・。
知覚できるだけで1万体はいる・・・。
視線を移せば天にそびえる王城がある・・・すぐ届きそうな距離なのに強烈な結界で入れない。入り口は数日探索して目星はついているけど。
地下だろう・・・ダンジョンがある・・・恐らく巨大な・・・。
情報が足りない・・・但本君だけでは厳しいな。
仲間がいるか・・・人間嫌いなのに・・・仲間がいる・・・。
この次元環は厳しい環境だけど適応しようともがく召喚士が一番危険かもしれないな。
“清竜王の試練”が戦闘力のアップを目的の一つとしているなら・・・ここに封印されている魔王と呼ばれる最上級魔族と戦闘を乗り越えるのが最終目標なのだろうか?それも4体?
そう・・・4体がこの“マルカブ”に封印されていると言われている。
残りの最上級魔族は4体だが・・・“マルカブ”以外に封印されている3体はそれぞれ一つの次元環に1体ずつ封印され米国が2体を管理、1体は国連が管理している。
つまり最上級魔族7体は場所が分かっているわけだ。
最後の1体は行方不明だ。
最上級魔族は言いにくいな・・・一般名で呼ぼう・・・魔王と・・。
この次元環は4000年前の一日を繰り返すため・・・封印され大幅に弱体化された魔王を倒してもいずれ復活するわけだ。繰り返される一日という封印はこの次元環の中の魔獣やゾンビ・・・建物等までに及ぶ。
瘴気が強ければ強いほど封印は強くなるのだ・・・外から入った人間も影響される・・・一般人は一瞬でゾンビに・・・召喚士も恐らく5ヵ月ほどでゾンビ化して・・・そしてゾンビ化は解除不可能だ。ちなみに夏合宿で使った次元環は目の前の大きな王城の向こう側に本来あるはず・・・城塞の向こう端から竜の谷までだが・・・そこは瘴気はほぼ無かった。
まずこの次元環から脱出する方法を調べないとな。
我々をここにぶち込んだテロの目的や首謀者は後廻した。
―――夜通し・・・まあ気になるとこは寄り道していたが。ちなみに但本君は留守番だ。
ようやく見つけた・・・。
地下ダンジョンの入り口と、さらに重要なものだ・・・古い基地だ。
それがどうもおかしいのだ・・・あり得ない年代だ。
恐らく84年前の基地のようだ、正確にはもっと前から使用していたはずだが最後に使用したのは84年前のようだ・・・史実と異なるな。
かなり大きな屋敷で周囲の建物に比べて損壊が少ない・・・審判の日に強力な結界で守られていたのだろう。この区画は何ヵ所も陥没して巨大な穴が無数に開いている。
もうすでに焼き切れていたが結界の残り香のようなものを知覚したのだ。
物品や防護服や魔術系工作具、いくつか文書も見つかった。さらに古いものもある・・・明らかに異質だ。この屋敷の地下3階からダンジョンに入れるようだ。
見付けた文書には1971年の文字が読める・・・84年前に召喚士部隊がここにいたのは間違いない。
(妙な話し・・・でもまあ当然か)
最後に“清竜王の試練”をクリアしたのは月島名誉会長ただ一人・・・これは124年前だ。
20年に一度だけこの次元環は開いたとのことだから104年前も開いたはずだ。
史実では確か・・・この104年前に“マルカブ”は失われたとだけ読んだ記憶がある。
(何かが起きたのだろう・・・もう少し月島名誉会長から話しを聞いておけば良かったな)
歴史の本では104年前に“マルカブ”はもう失われていたはず・・・ところが召喚士部隊が84年前に入った形跡がある・・・入れたのなら失われていない・・・なんらかの理由で隠された?
なにが隠された?・・・“マルカブ”が失われていないことが?
84年前に部隊が派遣されたなんてどこにも記録がない・・・あるいは・・・最も可能性が高いのは正確な記録があるとすると・・・西園寺グループの科学魔術開発機構のデータバンクだろうがセキュリティが異常に高い上、そもそも今は調べようがない。
本当は失われていなかったとすると?
・・・いや待てよ・・・一番新しい形跡が84年前で、これが最後だとすると・・・84年前の部隊派遣を最後にその後は部隊は派遣されていない。
104年前ではなく84年前に何かあった?
固定概念は廃そう・・・集中しよう・・・思考を巡らすのは魔力の強さは関係ない。
おかしいのは、まず124年前の“清竜王の試練だ”、合格率30~40%ほどのはずが月島名誉会長しか合格していない・・・最後に合格したのはイリホビルで話した月島のおじいさん・・・後には一人もいない・・・84年前も合格者はいないのだろうか・・・。
ということは104年前に参加した召喚士は人数が分からないが全滅している・・・とういことか、そして失われたと世間に・・・世界に報告しなければならない何かがあった。
そして記録に無い84年前の部隊派遣・・・この目的は?
もう一つなぞが残ったな・・・何らかの目的で秘密裏に派遣された84年前の部隊は目的を遂行したのか?
失敗したのか?
そもそも目的はなんだろう?
約4000年間・・・20年に一度ゲートが開くこの最も危険な次元環“マルカブ”・・・そもそもなぜ20年に一度召喚士を定期的に派遣する必要があるのだ?
そして84年ぶりに今、ゲートが開いたのは人為的?あるいはアクシデント?
それはこの屋敷の地下3階に口を開けている・・・暗い入り口・・・眼前に広大な空間が存在しているのを感じているが・・・この暗く巨大なダンジョンが教えてくれるのだろうか。




