3-4-6.竜の迷宮⑥
―――数日たっていろいろ調査したが予想通り・・・ここは研修先ではない・・・と思う。
予想通りだったがゲートは開かず・・・つまり・・・この数日、この次元環から脱出できた人間はいないし入って来れた人間もいないわけだ。
我々は直径35から45キロほどの隔離された時空に閉じ込められたことになる。
この次元環についてはある程度、僕には予想がついている。
教官も含めても僕の知見がトップクラスだろう。
ここは恐らく“マルカブ”という名の最もヤバい次元環だろう。
100年ほど前に消失したと言われていた次元環だ。
そして紅い満月は“マルカブ”に特徴的だったはずだ。
確か紅い満月の時しか出入りできないんじゃなかったか?
だが4000年前の1日を繰り返すんだから明日も紅い満月じゃないのか・・・と思ったが・・・その次の日から毎晩普通の色の満月が出ていた。
―――そして今、僕ら2人は石レンガで作られた倉庫のようなところに身を寄せている・・・取り敢えずここは安全だ。廃都を見つけたのだ、それも巨大な・・・だ。
4000年前に魔族に攻め滅ぼされた古代の都だ。
・・・さて問題点を整理しなければならない。
僕らは現世からゲートを通り安全な次元環カノープスで9日間研修するはずだった。
ただ着いた先はカノープスではなく僕の知識から推察するにマルカブという名の次元環だろうというわけだ。
ゲートと言うのは現世から次元環への転送システムだ・・・送り先を間違う可能性はとても低い。事故とテロの両面から考える必要があるが・・・まずテロだろう。
ゲート一つにつき教官約100名と研修参加者が約630人ずつ入ったはずだが出た先には350人しかいなかった。残りはどこへ行ったのかこれはもう少し予測と調査が必要だろう。教官が少ないのも気になる。
この場所を仮にマルカブとすると・・・まず重要なことだ・・・実際そうなのだが瘴気が異様に濃いのだ。
生きた人間はそう長期間は活動できない。
しばらく瘴気が濃いのに気付かなかったのは身体が一瞬で適応していたからだ。
マルカブは最も大きな次元環で、最も危険な次元環でもある・・・あのロングライフルを持っていた教官も言っていたが、100年くらい前に失われたのだ。その経緯は不明だ。
ここマルカブは歴史上は有名で・・・“清竜王の試練”を行う場所として知られていたのだ。
記憶をたどると“清竜王の試練”と言えば最後の合格者が出たのが124年前、つまり西暦1931年で、その合格者とはイリホビル地下で会った月島名誉会長だ・・・強烈な火竜である“紅蓮返し”を身に宿す月島会長を除く全員は最後の試練で亡くなったらしい・・・これも奇妙な話しだ・・・いくらなんでも合格者が少なすぎるのでは・・・。
“清竜王の試練”は20年に一度開かれ毎回多数の召喚士が参加し、合格者は半分弱ほどで死者も多いと言う超難関試験なのだ。
合格すれば1流の召喚士の証となる。
・・・召喚士皆伝・・・つまりマスターサマナーとなり召喚戦士のリーダーの1人となることが約束されていたわけだ。
104年前は西暦1951年なのだが何故かマルカブへは入れなくなっていたのだという・・・次元座標が変わってしまって侵入できなくなったのだと聞いている・・・。
次元環マルカブに最後に侵入を試みたのは104年前で、それ以降ずっと侵入は成功していない・・・というか失われたとかいう不確かな説明だ。
“マルカブ”は消失したとされてきた・・・消失って・・・入れなくなったことを消失と言ったのか。
・・・現に今あるわけだが。
消失した理由はおいておいて、このマルカブでの“清竜王の試練”の目的は・・・何をするかだが・・・封印され弱体化した魔族を一定数倒すのが確か試験内容だったような気がするが・・・さすがに詳しくは知らない・・・年上の教官なら知ってる人がいるだろうか・・・調べるしかない。
さて・・・そして僕らがマルカブに送り込まれたのは何者かのテロ行為だったとすると・・・目的は何?
召喚士の卵を何百人もマルカブへ送った理由はなんだ?
送られた人数も正確には把握できていないが・・・。
あの広場では最初の襲撃で150人以上が帰らぬ人になったのは間違いない・・・その後も増えているだろう。
事故でマルカブに来たのならいくらなんでも救助隊だの捜索隊だのが紅いフルムーンが見えなくなる前に来ているはずだし。
そして日が変わるとこのマルカブには侵入できなくなる・・・次に入れるのは20年後というわけだ。
脱出は次の紅いフルムーンの日のはずだが・・・脱出方法がまだ分からない。
脱出するためには恐らく“清竜王の試練”に合格する必要があるのだろう・・・合格する資格がなにか分からないが。
考えることはまだまだある。
こちらについてすぐ僕の身体に起こった異常だ・・・これこそすぐに分からないなんて本当に本当に自己嫌悪だ。
さんざん頭の中でシミュレーションしてきたのにだ。
つまり・・・。
ゲートに入る瞬間に・・・左肩の呪詛が発動させられたのだ・・・何者かに。
11歳の時に埋め込まれクロニック状態だった死の呪詛が発動しアキュート状態となったのだ。
通常であれば発動後40秒で確実に死に至る・・・だがそうならなかった・・・。
これはマルカブの異常に濃い瘴気のせいなのだ。
敵ながら見事だ・・・ゲートに入る瞬間に発動を狙えば・・・僕から探知されて反撃を受けることもない。次元環に入り僕は1分ももたず速やかに命を落とすはずだった。
普通に考えて・・・西園寺御美奈が僕の左肩に呪詛を埋めたのだから・・・呪詛発動は御美奈の命令だろう・・・封印の御所のある次元環を3つとも本当に封印してやったからな・・・証拠はないはずだが状況から僕にたどり着いたか・・・まあ御美奈の自家用ジェット機も粉微塵にしてやったからなあ・・・。
ゲートの行先を変更するのは西園寺グループのシステムにアクセスする必要がある。今回の研修も西園寺グループが仕切っているのだ。
だが矛盾だ。
ここで可能性は・・・①御美奈の命令で僕を殺害する・・・②御美奈の命令で研修生をマルカブへ送り込む・・・これはあり得ない。御美奈には非常に優秀なブレーンが付いている。マルカブ内では僕を呪殺できないことくらいわかるはず・・・。
では・・・①御美奈の命令で僕を呪殺・・・②何者かの意思の介在で西園寺のセキュリティに侵入し研修生一人一人の行先を変更・・・。
だとすると非常に大掛かりだが。
西園寺グループ内に裏切り者がいる?
“ニルヴァーナ”などのテロ組織が介入した可能性は低い・・・ぶっ潰してしまったし。
それに西園寺のセキュリティは堅固だ、破るのは困難・・・内部犯行の線が強い。
これは予想だが・・・僕の死を確認するために・・・御美奈は腹心の部下をこの研修会に同行させているはず・・・多分あの女だろう。そしてこのテロをおこした何者かも内側から事の成り行きを、何らかの目的成就を確認するために仲間をあるいは主犯格自ら潜り込んでいる可能性は高いと考える。
・・・そこで取り敢えず、ここから出るための目的をまとめてみよう。
非常に困難だ・・・。
その①、恐らく超難易度の“清竜王の試練”を合格せねば“マルカブ”からは出られない。
その②、テロの目的をはっきりさせて対策をしないと敵の影を踏むことすらできない。
その③、この活動状態になっている左肩の死の呪詛をなんとかしないと“マルカブ”から出た瞬間に普通状態の人間にもどると瞬時に僕は命を落とす、ついでに瘴気の濃すぎる“マルカブ”に数ヵ月もいると本物のゾンビになり果てて人生終わる。
現在は見た目は変わらないが生物学的には半ゾンビ化状態のため呪詛が効きにくいのだ。
重要なポイントだ・・・この次元環“マルカブ”に入った人間は全員・・・入った瞬間に半ゾンビ化(Superficail undead modeとか言うらしい)する・・・そのために呪詛が効きにくいのだ・・・死人に死の呪詛は効かないわけだ・・・数ヵ月後、人間は全員が完全なゾンビになる・・・完全にゾンビ化した場合、あらゆる知性を失う・・・これを回復する手段は現時点でこの世には無い。
うーん。大丈夫かこれ・・・。
ついでに予想通り助けは・・・救助隊は全く来ない・・・そもそも魔族だらけの“マルカブ”なら来た瞬間に救助隊も遭難者になるだろうし・・・、侵入用ゲートが開くのは20年後のはずだ。
“マルカブ”から出るのは何らかの試練が、条件があるはずなのだ、これも情報が無いが・・・どこで何をすればいいのだろう。
しかも文献では紅い満月の時しか脱出できなかったはず?
紅い満月の周期も分からないし・・・。
そしてテロの目的を推測するに・・・今の状況が予測の手助けとなるだろうか・・・。
研修生は慣れてない実戦で連戦で休む間もなく・・・かなりの数が命をリタイアしている・・・。この状態がテロの目的の一つ?
・・・僕個人を殺すには大げさだし・・・そもそも戦闘力の高い僕は生き残る可能性が高い・・・それに・・・ここが瘴気のほとんどない“カノープス”なら半ゾンビ化せず呪詛でもう命を落としている。つまり西園寺御美奈の目的は僕の命だとして、テロの直接の目的は僕の殺害ではないのだろう。
しかし研修生の全滅がテロの目的なら“マルカブ”から出た時にトラップがあるかもしれないな・・“マルカブ”から出るとどこに出るんだろうか。そもそもこちら側の出口になるゲートはどこだろう?・・・王城内部だろうか
余計なことばかりだ・・・呪詛の発動を少しでも遅くするために研修に参加したのに・・・。
まだやることがあるのに・・・。
世界で一番不幸だな・・・相変わらず僕は。
―――古代の建物の石でできた窓の隙間から見える空は赤い・・・また日が暮れる。
僕と何もかも普通っぽい但本君との2人パーティは廃都へたどり着いているのだ。
廃都はゾンビは多いが戦闘力は大したことないし日中はゾンビの活動も落ちる・・・眠ったようになっている者がほとんどだ。
ここが次元環“マルカブ”であれば4000年間という長い間・・・竜騎士の鍛錬もしくは試練の場所だったはずだ。竜騎士というのは王家に仕える竜の召喚士のことだ。
試練があるなら休める拠点・キャンプも点在しているはずだし、とにかく情報が欲しい。
情報・・・。これは問題だ。
この“マルカブ”はとてつもない結界だらけだ、そこら中に縦横無尽だ。
この僕ですら壁の向こうが見えない・・・飛べない、テレポートできない。
近くに見えるのにな・・・この石レンガの倉庫の屋上からいつでもそびえ立つ王城がみえる。
立派な城だ・・・4000年前の祖先・・・最初の竜王Su-Saの造った城・・・そう思えば感慨は深い。
眼前に広がるは4000年前の城と都市だ・・・栄華を極め・・・魔術技術もさることながら、犯罪も無く人類の楽園だったと言われている“フランヴィーネ”の都。その中央に交通の要であったはずの大通りがあり、王の広場がありそこを進むと王城へ達する・・・ほとんど消し飛んでいるけど。
王城もとてつもない建造物だ。巨大な要塞だ・・・遠くから見るだけでも分かる・・・予想以上だな、高度な文明だ。
数キロ先の王城は・・・僕の遠隔視能力とテレポートがあれば好きなように入れる・・・わけではない。
とんでもない単純に強力な結界だ。
テレポートはブーストして1100kmほどの距離を普段なら転移できる僕だが。
計算してみたら数十万km以上を一気に転移できないと王城の結界は越えられない。
物理的に結界を乗り越えられないかと天空高く10km以上まっすぐ上空に飛んだが次元環の上端まで王城の結界があることが分かった。
つまり空中を飛んだり・・・空間をゆがめて王城内部へ転移するのは不可能だ。
・・・今、取り敢えず王城内部を目指しているのだ。この“清竜王の試練”が強力な魔族の討伐を目的とするのであれば王城の方から流れてくる濃厚濃密な瘴気がそこに強力な魔族がいることを示している。
・・・祖先の城を見ていると・・・呪殺される寸前なのにすこしワクワクする。
伝説の・・・神話に出てくるような古代の8体の魔王に会えるかもしれないという子供っぽい期待からだ(この次元環に封印されているのは4体だが)・・・伝説とか神話とかスパイシー青木君の病気に影響されてるかな・・・。
魔族は卵から必ず3体で生まれる。もし上級魔族が1体死ねば(倒すのは容易ではないが)その個体から最初に生まれた3体のDaughterの1体が残された魔晶石を食って繰り上がり、順次位が上がるのだ。そしていらなくなった魔晶石を吐き出し・・・さらに位の上がった魔族のDaughterがそれを喰らってランクアップする。
そのため最上級魔族が9体ではなく8体現れたというのは後の研究者を混乱させ諸説でている・・・1体なぜ少ないのか・・・魔界で勢力争いがあったとか、こちら側の現世のどこかに封印されているという、この2つが有力な説だ。
魔族の心臓である魔晶石が残っていれば必ず同格の魔王は9体いるはずなのだ。
・・・魔族の意識は統制がとられており同士討ちは基本的にしない。
4000年よりも前に人間が、召喚士もいない時代に最上級魔族である魔王を倒して封印したというのは不可能に近い。
何かを見落としているのではないのだろうか・・・まあそれはいい。
ここ“マルカブ”にはこの最上級魔族8体の内、4体が弱体化され封印されており4000年前の一日をそれこそ4000年間・・・繰り返しているのだ。
恐らく・・・“清竜王の試練”はこの大幅に弱体化している最上級魔族つまり魔王の個体を倒すのが目的ではないかと推測する。今まで124年前までの記録を流し読みした記憶からは確か合格は半分弱ほどだったはず。達人クラスのみが参加しているといってもそこまでの難易度ではないのではないだろうか。
確か160年前に成功した召喚士の予測TMPAは5万だったというあいまいな記憶がある。
禁書庫で読んだのは多分、4歳か5歳の頃だ・・・さすがに禁書庫の膨大な本は全部は読んでいない。
大きな屋敷を追い出されるまでにほんの数万冊ほどだろう・・・“清竜王の試練”についての詳しい本はさらに数万冊読んだ本の、ほんの一冊か二冊なわけで・・・残念だ、全部は覚えていない・・・記憶力はいいはずなんだが。
おっと、この建物の下の階から声が聞こえる。
「これずっと続けるんすか―――?ゾンビ先輩狩り?」
「ずっと続けるんですよ~」
と返しておこう・・・ゾンビ先輩って・・・。
下の子も困ったものだ。
下の子とはこないだ知り合った2歳年上の大学生の但本くんのことだが、ああ困った子だ。
言う通りすればレベルアップするのに。
まあ“Z班”の超出来損ないメンバーを鍛えた僕だ・・・なんとかなるだろう。
人手も足りないので魔族もぶっ飛ぶ火炎術士に鍛えてやるのだ!




