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ドラゴンディセンダント  作者: ドクターわたる
竜の迷宮
103/265

3-4-4.竜の迷宮④

―――遠くから声が聞こえる・・・霊眼の能力を使えばさらに精度が増す、まるでその場にいるように見たり聞いたりできる便利な能力だ・・・ただし匂いだけは分からないが、そしてこの次元環では霊眼の能力はやはり著しく抑制されるようだ、あまり遠くまで覗けない。


但本君と僕は夕日が沈んだばかりの木の枝の上にいる・・・かなりの数の魔獣が我々の下を通過していった。


そう、そしてそろそろ広場の研修生たちと魔獣の群れの斥候が接触するころなのだ。


―――キャ―!

―――ウワ!!

―――すごい!モンスターだ!始めて見た!!

―――見て見て!モンスターよ!ほら!

―――おお!!


これぐらいの距離なら霊眼は使いにくいといっても余裕で遠隔視で見える。


研修生がいる広場をドーム状に包む球形の簡易結界をあっさり破って林から体長7メートルはあろうかという魔獣サーベルタイガーが1頭だけ出てきたのだ、そして数人の大学生と向き合っている。

栗色の毛皮には光沢があり、見た目以上に防御力も高いようだ。


魔装もせず数名の大学生が魔獣とファーストコンタクトだ。

「すごいアトラクションだ」

「おお!けっこうカッコイーじゃね」

「ほ、ほんものかな」

「研修会に、んなもんいるわけねーだろ、教官のイタズラだろ。式神かなんかで倒せって意味だろうな」

そのうち一人が大げさに頷いている。

「うちの教官いないからおかしいと思ったもんな・・・じゃあやっちゃうか?」


どうやら7人のチームのようだが、その内2人だけ魔装して戦う気だ・・・。

周りの受講者も魔獣に気付いているが笑ってみている。

・・・いや写真撮ってる人までいる。


「すっごい迫力じゃん。これSNSに使お~」

「けっこ、かわいいじゃん」

「魔獣とツーショットで写真撮れないかな?」


あれ?この2人は見覚えがある・・・さっきの文里大の女性か、ふらふらしていたが覚えている。


うーん、それにしても・・・この状態は。

自分ならこんなに出所不明の魔獣を接近させないし、TMPAを測るし・・・伏兵がいないか霊視するだろうし。


うー、気付いているのか・・・囲まれつつあることに・・・距離を取った方がいいが。

思いとは裏腹に魔装している2人はおもむろに距離を詰めていく・・・大丈夫か?


TMPA17000の魔獣は同数値のTMPA17000の召喚士4人分くらいはタフだから・・・高度な魔法攻撃は仕掛けてこないだろうけど。つまりサーベルタイガーは近接戦闘タイプだから近寄らせなければどうとでもなるが。


・・・魔装した2人の男子学生のTMPAは10000前後だ、バランス型かな・・・スピードは遅そうだ。格上の近接戦闘特化型の魔獣に無策で近づくと・・・。


残念ながら・・・僕の印象では・・・即死だ。



―――不用意に1人がもう一歩足を進めた瞬間・・・。

鮮血が飛んだ・・・。


シュッ・・・・バッ!!


2人の召喚士は一度に一薙ぎで胴体を分断された。

そのままの流れでサーベルタイガーは残り5人の頭上を越えて写真を撮っていた2人の女性に空中から片方にアシッドブレス、もう1人の首筋に喰いついた。

あっという間で全く対処できていない。


4人の大学生は一瞬で絶命した。


―――うわわわ!!

―――ギャ――――!!

―――フア―――ア―――!!!

―――センセ―――!!!




―――この叫びを皮切りに紅い月に照らされた広場で長い長い夜は始まった。

悲鳴と怒声とがコダマしている。


・・・紅い月ってなんだったっけ・・・文献で読んだ記憶があるが・・・。


攻めてきたのは下級魔族率いる魔獣とゾンビ・・・下級魔族3体に魔獣40体ほどとゾンビ105体のようだ。


モンスターの群れ 対 召喚士たち・・・なのだが。


すでに魔獣たちに囲まれていた召喚士の戦線は、崩壊どころか・・・健康的な運動程度にと思ってやって来ていた平和ボケした召喚士たちはいつかのロミオのように魔装すらすることを思いつかず、逃げ惑い、呆然と立ちすくみ、自らの位置を悟らせるかの如く叫び声をあげていた。


一瞬で大地は血の海になっていった。


(あーあ。大学生ってこの程度・・・か)


これは狩りなのだ・・・追い立てられた召喚士たちは森へ逃げ込み下級魔族の罠魔法トラップにかかり、そこを攻撃されて倒されていった。

強力な召喚士も数多くいるはずだが能力を全く発揮しないまま喰い殺され、一部の召喚戦士は戦況が読めぬまま戦場から逃亡した・・・戦力の低いものを残してだ。


阿鼻叫喚の地獄絵図・・・まさしく現場は大混乱・・・だ。


それにしても僕は冷静だな・・・まるで他人事のように静かに分析している、そう情報が枯渇しているのだ・・・何もかも足りない。


どこそこで悲鳴が聞こえる。

召喚士のものか魔獣のものか把握しきれないが魔法攻撃による振動も途切れることはない。

この次元環は遠隔視がしにくい・・・声や振動も重要だな。


「まてまて俺は魔装できないんだ!召喚獣は召喚したら違反だし!おい待ってくれ!魔装できない・・・ギエ!ギャー!!!」

「本物だ!マジだって!喰われてるんだ!全員にげろ!にげろ!」

「ストップ!ストップ!ストップって!!説明しろよ!誰か!こんなの聞いてなグァ!」

「責任者出てこい!訴えてや・・・ア、アッツ!!!足が溶ける!うわぁあああ!!!」

「落ち落ち着け落ちつつつけ!」

「助け、助けて杉本さん!」

「こっち来るんじゃねえよ!バァカ!!」

「だれか手を貸してって!!」

「いやぁあぁあぁ!!うそうそ!!」


・・・全く立て直せないな・・・まあそれはともかく、先に入った教官はどこだ?


林を透視して広場もある程度見ているはずなのだが・・・教官は?

プロのサマナーである教官たちならもう少し戦況の立て直しができそうなものだが。


教官が少なすぎる?それにしてもさっきの男子学生訴えてやるって・・・魔族を?・・・ああもう動いてないか。


そんなことより気付いたことがある。


なんだあれは?・・・人間が・・・召喚士が倒された時に・・・周囲に出る5センチくらいの“赤い球”はなんだ?魔獣たちがそのプカプカ浮いている“赤い球”を奪い合っているように見える・・・まあ後で検討しよう。


・・・かなりの犠牲が出た後で一部の大学やチームは全員で魔装して円陣を組んで対処を始めている。


ああ、教官もいる・・・数人だけど。

別の場所に数人は教官がいるのを確認した、その周辺は大丈夫そう。

しかし教官ってこの広場に全部で100人くらい転送されているはずなんだけど?


霊眼で空中から観察してみよう。

よくよく数えるとこの広場と周囲に600人もいないぞ・・研修の受講者も・・・逃げたのを入れても全員で300人いないのでは?残りは?


600人以上いるはずだがそもそも半分くらいしかいない。



ん??

んんん??


ん?なんだ?・・・身体が揺すられてる?

視界がゆがむ。


「―――し、もしもし。じんめさん?」


「ああ、ごめん霊眼っていうか、透視してたものだから。そっちに集中してて」

そういえば高い木の上で但本央介って大学生と2人なんだった。

目の前にいる大学生は顔面蒼白、緊張してるな。


「こ、これ。く、訓練なんだよね?」

「僕はそうは思いませんけど?」

なわけないやろ?


「し、死人が出たりしないよね。研修会でさあ」

「もう50人以上死んでますよ?・・・あと多分これ研修会じゃありません」

死んでるよ・・・ギリ肉眼でも見えないかな。

まあ彼の探知能力は一般人レベルだからな。


「えええええ!ご!50人もですか!それに研修会じゃなけりゃ!い、一体?」

「まあ・・・テロでしょうかね?」

テロかな・・・テロリストはかなり減らしたんだけどね、ゲヘナとかニルヴァーナとか。

さてテロだとすると何が目的だろうか。


「えええええ!こ。こいつらテロリストですかあ?!」

なんで魔族がテロリストやねん。


「こいつらは魔族と魔獣でしょう。声大きいな・・・」


う~ん、騒ぎすぎだし。

術中に身体揺するなんて基本から教えないといけないな。あのデキソコナイたちと同レベルじゃないか。


ちょっとガッカリだ・・・彼の顔をちょっと見て考える・・・捨てていくかなあ。

「それにしてもめっちゃ美人ですよね・・・」

何言っているんだコイツ・・・ひょっとして・・・僕のことを女子だと・・・。


一言文句を言おうとしたが・・・ん?今度は本当に僕らが登っている木が揺れている。



「ひっ!」

といって抱きついてこられてもなぁ。


音を聞きつけたのだろう・・・この但本君は騒ぎすぎたのだ。


下を見るとトカゲと狼を足して2で割ったような2.5メートル程度の魔獣が僕らがいる木に登って近づいて来る。


多重結界のため確証はないだろうが・・鼻をくんくんさせている。

何かいるような気がする・・・その程度の感覚だろう。


「ひいいいい、来てる、来てるよ。じんめさん?」


こいつ臆病だな・・・まあだからこそ歴史上哺乳類は生き延びたともいえるだろうが。

生存本能だからな、臆病なのは悪いことではない。


(ただちょっとウルサイけど)

いつまで抱きついているんだ・・・。


この但本くん、大学2年生の能力はTMPA3800くらいか。

ほぼ経験的には素人・・・まあ変なクセがなくて指導しやすいだろう。


ギャン!!

ドサッ!


途中まで登って来ていた魔獣は一声鳴いて落ちていった・・・そのまま地上に落ちて気絶した。

一睨み・・・という奴だ。

この程度の魔獣なら効果あるようだ・・・殺気を飛ばしたのだ。

魔力に差があるからできる技だ。


「ええええ。何したんですか?じんめサンがやったんですよね?」

「指向性の強い殺気を飛ばしただけです。しばらくは起きないでしょう」

「おおお、ひょ、ひょっとしてじんめサンは・・・とっても強いとか?」


すでに興味を失っている僕はもう広場の方に感覚を移している。

うーん、召喚士側がどこも劣勢だな・・・魔獣のレベルは大したことないけど。


「強いという判断は相対的なものでしょう?」

「あの・・・えっと差し出がましいですが、そんなに強いんでしたら戦いに行きますか?50人以上もその、そんな状態なら・・あ!俺は無理っすよ、戦闘経験ないっつうか」

はああ?何を言い出すんだ?

僕の視界は召喚士たちと魔獣の死闘を見ながら会話だけはこの但本君と続けている。


「戦う?この魔族と魔獣の混成集団とですか?現時点では戦う理由がないですが?」

「で、でも・・・ひ、1人でも多く助けないといけないでしょ?早く救急車を呼ばないと・・・」

敵だらけなのによく喋るなあ。

しかも他人を助けるとか言っている、何かメリットでもあるのか・・・とりあえずいつまで抱きついているのか・・・離れろ。

あと異次元に救急車来ないから・・・。



「とりあえず離れてくれませんか?」

「あああ!すみません!そんな気は・・・」

だからうるさいってば・・・素人が。




・・・少し整理してみるか。

襲われたのは広場の大学生だ・・・襲ったのはこの次元環に封印されている魔族と魔獣どもだ。

観察範囲にいる召喚士はほとんどが大学生・・・それは分かっているのだが、教官も社会人も混ざってはいるようだが・・・教官が少ないか・・・。

それにしても全員召喚士のはずなのだが大半はパニックになり応戦できている者は僅かだ。

敵は下級魔族率いる魔獣が主戦力の部隊だ・・・大したレベルでは無い・・・TMPAは平均2万もない・・・降り魔六学園の召喚戦闘レギュラークラスなら一対一で勝てるレベルだ。


だが予想が正しければこれは・・・これを研修とまだ呼ぶのであれば、ご挨拶といったところだろうか、魔族からの・・・この夜は始まりに過ぎないかもしれない・・・。


うーん・・・情報が少なすぎる、とにかく。

襲ってきている魔族は大したことないが、これを引き起こしたのは誰なのか?どういう集団なのか?あるいは今現在、我々は何かに観察されているのか?


少し目線を変えてさきほど僕個人を攻撃したのは誰なのか・・・そしてどうしてタイミングよく失敗したのか。知らず知らずに僕は左肩を押さえている。


そう・・・危ないのは徹底的に・・・魔族では無く人間の方だ。

敵か味方か分からない人間を救うなんてありえない・・・けど・・・アフロならどうするだろう。


うーん・・・しかし弱すぎる。

能力を隠して僕のように周囲を監視している召喚士がいるのかと思ってさらにそれを霊眼で探しているのだが今のところいない・・・観察しているとレベルの低い召喚士たちは次々と魔獣に命を消されていっている。


確かに極悪人の西園寺桔梗はある意味正しいのかもしれない。

「常に実戦の気構えを持つのだ!一部の隙も不要なのである!諸君らには自覚が足りない!さらに・・・」

そう言って赤いブレザーに燃えるような魔力を全身に漲らせて彼女は声を張っていた・・・怖かったなあ。


そしてバトルスーツ姿の桔梗・・・。

「・・・私は剣になりたいのです・・・」

余計なことまで思い出してしまった、あの決勝リーグの後で言っていたことはなんだったのだろう。


京都で着物を着て正座をしている桔梗・・・。

「あなたとふしどを共にしたい」とか言ってたっけ・・・。

半年後に決闘するんだったか・・・。



しかしこの目の前でガクブルしている大学生といい、本当にどいつも大したことないなあ。降魔六学園の総生徒会長である西園寺桔梗はあらゆる意味で規格外だった。

優秀な大学生はどこにいるんだ・・・。


おや?


「援軍ですね・・・」

ぽつりと僕は呟いた。


「そ、そそそ、それは良かった、たすたす、助かった」

「え?いやあの魔族側の援軍が来ました、下級魔族が3体から9体に増えましたね。つまり単純に3倍になります」


「げえええええ!!」


あのなあ、こいつ・・・誰だっけ・・・但本くんだったか。


「声が大きいと何度言ったら・・・」


あまりに声が大きくて魔獣どもが真下に集まって来てしまった・・・仕方ない場所を変えるか・・・。

自分より一回り大きい但本くんを抱えて、彼の悲鳴を夜空に残して僕らは飛んだ。


空中浮遊レビテーションはかなり練習しているので大学生一人くらい抱えて飛ぶのは余裕だ。

戦闘中の広場上空へ向かう。


惨劇を下目に見ながら多少はこの大学生を安心させてやろうと思う。


「では援軍も大したことないので伏兵もいないみたいですし我々も反撃しましょう」

「はははは、はん!反撃ぃ?危なくないですか?じんめサン・・・特にあの、俺は・・・あの俺は・・・」

さっきは助けるとか何とか言っていなかったか・・・だめだこりゃ・・・まあ仕方ない。


どうやら観察し得る範囲に人間にしても魔族にしても“僕の敵”はいないようだ。

予想以上に弱い大学生召喚士たちは・・・そもそも現在すでに全滅しそうな勢いなのに敵戦力が3倍になるし・・・。


ずっと観察しようかと思ったが但本君の言うことも一理ある・・・仕方ない・・・戦うか。


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