3-4-2.竜の迷宮②
そして数日後のその日・・・いよいよ次元環研修会初日・・・場所はまた国立闘技場の一角だ・・・今日は観客はいない・・・集まってくるのはセミナー受講者のみだ。ざっと千人以上はいる、まだまだ集まってくるだろう。
相変わらず僕は黒と黄色のジャージを着ている、呪殺予防のために長く伸ばしている青い髪もいつも通りだ。
一応、大きめのカバンも持ってきている。
集合時間通り来たのに開会式はまだ先のようだ。
それにしても今年は色々あるな。
そう・・・まず春だ。
義理の妹の如月葵が入学してきて、少し予定と狂った。
いずれ西園寺桔梗や西園寺グループと戦わせるつもりだったが合成竜アジ・ダハーカとの戦闘が余計だった。切り札だった葵の自爆技を使ってしまったのだ。そして葵は回復しないまま桔梗と戦い、敗れた。
さらに予想外だったことがある。自分は鏡のダンジョンのころから少し介入しすぎたのだ。
ひた隠しにしていたこと・・・自分が実は竜の召喚士でありかなりの実力を秘めている事・・・これがバレてしまった。
あの女・・・西園寺桔梗は考えたわけだ・・・如月葵たち1年生だけでは説明がつかない・・・バックに何者かがいるはずだと。
そして仕組まれた、あの春の大会だ。予選の第一試合で僕は桔梗と戦うことになったのだ・・・僕はランダムで選ばれたのではない、事前に桔梗が選んでいたのだ。
同時に起きていた事件がある。緑川尊だったか・・・あれが死んでしまったせいで・・・少し予定が狂い続けている。
その後・・・夏が来た。
緑川が死んだせいで“ドラゴンディセンダント”メンバーは意気消沈・・・活発な活動はできなくなっていて、そういう意味でも手駒が欲しかったのはある。
お礼の意味もあったが。
降魔の地で最弱の第6高校の中でさらに最低チームと言われた・・・僕の所属する“Z班”だ・・・カラフル動物園とも揶揄されたチームのメンバーは・・・緑のアフロ・・・上半身すべて髪で隠している僕・・・金髪オールバック・・・ハゲ・・・天然パンチ・・・2メートル越えの巨人・・・歩く放送禁止用語と呼ばれた女子生徒・・・退学寸前の不良娘・・・。
このどうしようもない連中を僕は鍛えることにしたのだ・・・。
さすがに予想外だった。
この“Z班”が全国大会で優勝するなんて・・・。
・・・そして秋になった。
いろいろ考えていたらようやく次元環研修会こと召喚士実地セミナーの開会式が始まった・・・次元環への突入は例年通り午後6時きっかりとのことだ・・・もっと遅く来ればよかった。
・・・ちなみにこれは試験形式でありどの次元環で行われるかはまだ秘密だ。
それで我々は所定の場所に並んでいるわけだが・・・僕の目の前、第1高校の白ジャージを着ているのがこれに参加するもう1人の高校生だ・・・つまり高校生で参加するのは僕を入れて2人きりなわけだ。真後ろに僕がいることに気付いているだろうが向こうから挨拶する気はないようだ・・・ちなみに右隣と後ろは年齢もバラバラで社会人たちだろう。僕らは集団の左端の隅っこにいる。大多数はもちろん各大学の召喚学部の優秀な学生たちというわけだ。
全国から・・・参加するのはほとんど大学生だが・・・ざっと1900人程が参加するようだ・・・全員軽装で大きな荷物を持っている。さらに参加者の左右に計300人以上の教官がいる。全部で2200人超がいると言ったところか。
ここは国立競技場の透明ドームの下でオレンジ色の夕日の斜めの日差しが入っている・・・つまりもう長い時間、諸注意とか次元環内の説明を聞いているのだ・・・しかし夕日は見てると眠くなる。
さて僕はすっかり空きているわけだが長ったらしい開会あいさつは続く・・・もともとこの研修会は超難易度の“清竜王の試練”が元であるとか知ってるし・・・なんの新しい情報もない。
(・・・正直退屈だ。そして知らない人だらけでストレスいっぱいだ・・・対人恐怖症の僕にはきついイベントだ・・・)
顔も出してるし知らない人に見られるのは嫌だ・・・。
眠そうな人も多いがキョロキョロしてる人も多い・・・しかしまあ、こう長いとさすがに退屈だ・・・。
僕ら高校生の右隣と後ろに並んでるのはどう見ても社会人だろう・・・年齢がバラバラだし・・・社会人が参加する理由はそれこそ千差万別だが多いのはモグリの召喚士が国家資格を必要とする場合だ。つまり社会人は気をつけないといけない・・・非常に強力な能力者が参加している可能性があるのだ。
さっと確認した範囲では周囲に刺客みたいな人はいないが用心は必要だ。
さらにさらに長ったらしく注意事項を白髪の教官が説明・・・注意事項書いた紙もらってるし・・・読めない奴は参加していないだろうに・・・それにさっきも似たようなこと言ってなかったか。
「―――では責任をもって行動するように―――」
・・・はあ、やっとか。
参加者はそのまま動く必要はなかった。
我々の前方に直径18メートルくらいの半球状の黒いゲートが出現した。
大きめの魔晶石がはめられた円系プレートを中心に全部で3つのゲートだ。
このゲートをくぐると次元環に到着というわけだ。
我々は教官に言われるまま3つのグループに分かれて・・・やっと次元環へ突入できる。先に200人以上の教官も別れて入って行った。
―――あ!目が合ってしまった。
すぐ前の白ジャージ男がリュックを背負う時に目が合った。
とういかこっちに向き直った・・・。
そして無言・・・。
(うう・・・こういうのが一番苦手なんだけど・・・)
去年、麻疹にかかって次元環研修会に参加できなかった“ホーリーライト”の先鋒・・・高成弟だ。
あんまりどころか・・・もともと・・・苦手だ。
思いっきり目が合ってるんですけど・・・ガンつけるとうい奴だろうか。僕は不良は苦手だ。
「や、やあ・・・」とおもいっきり、満を持して挨拶したのに無視してゲートに歩いていく。
(な、なんやねん・・・)
まあいいや、フレンドリーにされても困るし。
因縁の相手とか思っているんだろうか。
まあ気まずい・・・よな、全国大会団体戦勝ってしまったし。
ついこないだの決勝戦は2勝2敗で高成弟がうちの華曾我部茜に負けて決着だったし。
自分は問題を起こしまくった“ドラゴンディセンダント”の部長、如月葵の戸籍上兄だし。
流石に僕でもわかる・・・コイツが好きな西園寺桔梗の婚約者だし、しかもその桔梗を春の予選で殺しかけたし、病院でも怒鳴られたもんな。
そして。
そして、これは高成弟は知らないが僕は彼の兄を神経ガスで殺害してるからなあ。
ふう、気まずい・・・できればあんまり会いたくない・・・そうも言ってられないか。
この研修は9日間もある。また会うかもしれない。
少し高成弟から離れて黒いゲートへ僕も入った。
歩いている感触が競技場の芝生から石畳にかわり、暗かった視界が開けてくる。
こっち側はもう暗いな。気温は少し次元環側が低いか。
次元を越えていわゆる異次元へ到達したのだ。
研修会場である次元環へ着いたわけだ・・・大学生たち・・・まあ先輩になるわけだが携帯端末で写真を撮りまくっている。写真は嫌いだ。
太めの石柱が何本も立っている。そこまで古そうに見えないが基本的にここは4000年前の世界のはずだから・・・まあ古い様式なのだろう。
ん?もうすでに騒いでいる連中が前方にいる。
緊張感のかけらもないな。
研修に使う次元環は毎回ヒミツなのだが・・・カノープス、リゲル、アンタレスの3つの内どれかしかない。要はこの国が所有する次元環で大人数の研修に使用できるほど広く、そしてほとんど瘴気が無く、封印されている魔族が少なく且つ魔獣は弱い・・・となると限定されてこの3つしかありえないのだ。
その中でももっとも地形が緩いのがカノープスという名の次元環で、ここ3年連続でカノープスで研修は行われている。そろそろ今年は変更されると言われているが、下手したら一人も怪我人が出ないくらい難易度は低い。
ここではそこそこ強力な、といっても下級魔族の場所は分かっており研修中は手練れの教官が数名ずつ付いて避けるように指示を出す。
9日間、何をするかというと野宿しながら5ヵ所に点在するポイントを探して教官から課題を与えられて実行する・・・その5ヵ所を探すのも研修の内だが・・・体調不良で帰る者を除けば基本的には楽勝の内容だ。多くは数日で終わり残りの日数はキャンプを楽しんで帰るわけだ・・・トライするものの半数以上が死ぬと言われた“清竜王の試練”が元とは思えないほどの緩さだ。
で、しかも全部ではない・・・課題は4ヵ所クリアで終了となる。
研修と言っても終了証を貰うための簡単な試験となっている、合格率は97%くらい、まあ余裕だろう。
(それにしても研修会場はカノープスじゃないな・・・どっちだ?リゲルかアンタレスか)
まわりがザワザワしている。
他の大学生たちも同じような疑問を口に出している。
そう、まずここがどこか調査することから始まるわけだ。
ゲートを抜けるとすぐ小さな林になっておりその向こうにみんな集まっているようだ。この次元環には3ヵ所にゲートが出現しており1900人が移動中のはずだ。
この場所には受講生630人と教官100人程がいる計算になる。
ちなみに今晩はポイントをみつけても課題はもらえない・・・準備中というわけだ。
多分、僕なら明日だけで終わるだろう。次元環の直径は大きくても20キロから24キロほどだから。その気になれば音速以上で飛べる僕には楽勝だろう・・・霊眼でポイントもすぐ見つかるだろうし。
ん?
んんん?
おもむろになんだ?急に知らない男の顔が出現した。
「ねえ君、どこの大学?会ったことあるっけ?」
林を抜けた瞬間、身長180くらいの茶髪の大学生に話しかけられた。
「いえお会いしたことはありませんけど」高校生だとか余計なことは言わない方がいいか?
「あれ?もしかして一人とか?ハハ」
「ええまあ一人は一人ですけど」
あれ?何かおかしいぞ・・・浮遊感を感じる。
こいつも変だけど僕の体調がなにか。
「よかったら、今日いっしょに寝ない?いやいやそういう意味じゃないよ、ハハハ」
「ああ寝るとこは困ってたんですけどね、寝袋はありますけど」全く気のない返事をしているな。なんだ一体?この妙な感じは?心窩部に違和感を感じる。
「それは危ないよ。一人じゃね。あっちいこう。まあまあ」
クラクラする・・・なんだ?
コイツが僕になにかした?いやそんな反応は無かった・・・。なんだ?
茶髪の大学生に引っ張られてなにやらキャンプファイアーしているとこに連れていかれる。
もうキャンプファイアーしてるんかい?
いやそんなことはどうでもいい・・・何故か体調が不良だ。
分からない・・・探知できない攻撃?・・・であれば倒しておくべきか・・・目の前のコイツ等。
「おまえ早いな。もうナンパ成功かよ」
「はじめまして文里大の杉本です。かわいいね・・・いや。めっちゃくっちゃ可愛いくね?」
「はい?そう・・・ですか?」
コイツ等何を言っているんだ?
それより浮遊感が治らない・・・なんだ?こんな感覚初めてだ。遠隔攻撃されている?いや・・・違う。
「この子、一人でしかも今日寝るとこ探してるって、ハハハ」
「イェー!」
「おねがいしゃーっす。エロい事を希望しまーっす、違うか」
「ハハハ」
コイツ等は12名ほど、男子学生10名女子学生2名の文里大学の召喚学部の3年生と2年生らしい。
まわりで色々喋っているががよく理解できない。
この浮遊感の正体がわかるまで単独行動は危ないか。
ああ、だがコイツ等TMPA低そうだけど一応召喚士なら一緒にいた方がいいか・・・盾にできるかもしれない。
「テント3つ立ててるけど、どれで寝る?」
「俺と寝ような、俺と!ハハハ」
「初日からそれは良くないよ!君ぃ!」
「そうそう名前なんてゆーの?こんなかわいいのに召喚できるのぉ?」
しかし騒がしいな・・・集中できない。
「明るいとこで見るといっそう可愛いね、ハハハ」
「食事つくるから待ってね、うちはねえ、女性にはこういうことさせないから」
「そんなくっつくから緊張しちゃうでしょ」
「髪って青く染めてんの?綺麗だね・・・全体的にぃ」
本当に何言ってるんだコイツ等・・・。
なにやら上から下までジロジロみながら仲間の女性も近づいてきた。
「あぁ、よろしくねぇ。うん・・・カワイイかも」
ぜんぜん浮遊感が止まらない・・・。
魔法攻撃は否定的・・・大気の組成の性状・・・毒もない。
何かおかしな点はないか?
「ぼーっとしちゃって疲れてるんだね、何もしないからこっちおいでよ」
―――こいつらどこに引っ張っていくんだ?そんなことより・・・おかしな点があるぞ・・・いくつも。
いや、だが・・・僕の体調とは無関係だ。
ん?もう3人合流してきた。
「2人ゲット、関西のお嬢様だってよぉ」
「イェーすげえじゃん、もう3人めかよ?」
「はじめまして、文里大の杉本です。名前教えて?イキナリ聞くケド関西のどこぉ?」
いくつもおかしな点がある・・・。
(・・・そう。ここは?どこだ?)
何かワイワイ大学生が喋っているが遠い世界のことのように理解できない。
「大丈夫だよ、何にもしないから。ハハハ」
「イェー!明日から研修頑張ろう・・・今日はエロい事がんばろう、違うか」
いくつか確かめることがある。
文里大の杉本とかいう奴が近づいて来る、小声で何やねん。
「君が一番かわいいからね。気が遠くなりそうだよ。もうほとんどお姫さまだもんねぇ。ぼーっとして疲れちゃった?あっちで休もっか?」
大学生って馴れ馴れしいな・・・こういう物なのか。
向こうで歓声が上がっている。
「なになにイェー!!」
騒がしい杉本とかいう奴が後ろを振り向いた瞬間・・・何か感じたのだとすれば僕は体調不良で気配が消せていないのだろうが・・・。
「あれ?どこ行ったの?あれれぇ?」
間抜けそうに僕を探している大学生なんてどうでもいい。
クラクラは収まらないが既に僕ははるか上空を飛んでいた・・・夕日は落ちて暗くなりかけている。
少し離れた静かな林に降りる、もっと離れて安全に人のいないところで自分の身体を調べる必要がある。
林の中はもうかなり暗い・・・暗い方がいい。
うっ・・・。
何だ一体・・・気持ち悪い・・・。
吐きそうだ。
まわりの景色が回っている・・・立ち眩みってやつか・・・この僕が?
何が起きている?知らない間に木にもたれている。
・・ひょっとして騎竜のモルネになにか?
目を閉じて感覚でモルネの反応を確かめる・・・蛹になってまだ眠っている・・・。
ちがうモルネでもない・・・つかいつまで眠ってるんだ・・・。
魔力の流れがおかしい・・・。これは僕の身体に起因する。
「あのどうかしましたか?」知らない男子学生に声をかけられている・・・誰にも見られたくないのだが。
(また声をかけられた・・さっきの連中の仲間ではなさそうだが、厄介だな)
ふらついて見えるのだろう、親切な人かもしれない。
身長165センチくらい黒髪の男子大学生か・・・パッと見は普通だが。
「苦しいですか?苦しそうですね?だ、大丈夫ですか?人を呼びますか?」
呼ぶな・・・人気のないとこを探して来てるんだよ。
「い、いえ結構です」
いくつか試してみるが治療系の抗術は一切効かない・・・なぜだ?
・・・この体調不良の原因は?
(確率が低いものも考える必要があるが・・・でも気絶するとまずいな・・・)
木が・・・空が・・・さっきより視界がグルグル回っている。
立っていられない。
ダメだ・・・集中できない・・・。
「人を呼んできます」
「ふ、不要です・・・絶対にいりません、絶対に」
この眩暈が体調不良が何らかの攻撃なら僕が弱っているのがその攻撃してる奴にバレるのはまずい。
だがこの場合、僕の申し出はかなりの確率で普通っぽい大学生に無視されるだろう。
それどころか・・・まさか、この人の好さそうな・・・この・・・こいつが刺客?
(こ・・・こんなところで・・・この僕が・・・視界が暗くなる・・・血圧が下がっていく・・・止められ・・・ない・・・なにが・・起きている・・・)




