チームワーク
(・・・・・・や、やばい)
真っ先に岳の頭に浮かんできたのは、その言葉だった。
状況は、最悪。
しかし、撤退できることすらも出来ない。
そんな絶望的状況を冷気を取り込んだ冷風が頬を優しく撫でた。
(考えろ!考えろ考えろ考えろ考えろ!
相手は、5人。くそッ!余りにもこっちが不利だ!)
そんな思考が岳の脳裏を駆け巡る。
だが、何も浮かばない。
(俺、死ぬのかな・・・・・・)
岳が、死を確信し始めたその時!
脳裏に電撃的に何らかのイメージが沸き起こった。
それは、黒く蠢くモヤ。つまり影。
岳は、この感覚に覚えがあった。
以前、監禁されていた時に危機を脱したあの感覚だ。
(今なら、出来るかもしれない・・・)
岳は、不安を確信へと、180度反転させて、隣にいる可憐たちに指示を送った。
「可憐!少し時間を稼げるか?」
いきなり話し掛けられて少し驚いた可憐だが、岳の意図を察したのか少し笑って首を縦に動かした。その後、隣の凛へと伝言して同じく凛も頷いた。
すると、相手がこちらの
動きに気づいたらしく眉を顰め、こちらを睨んでくる。
「何コソコソしてんだ!」
怒りに塗れた男は、一度怒鳴りつけてきたがすぐに不敵な笑みを浮かべて言い募った。
「そっちも準備出来たようだな!それでは、始めようか!デスゲームを!!」
その言葉と共に相手からの先制攻撃が放たれる。
先ずは、雷。上から岳達目掛けて黄色い稲妻が音を荒げながら降り注ぐ。
それを向かい打つように氷の槍がそれを防ぐ。
「これなら、どうだ!」
その言葉と同時に地面に亀裂が走り、地震のように強い揺れが起こる。
地面が轟、立つことも容易では無くなる。
しかし、その直後
「そうは、いかないよ〜」
その言葉を発したのは、サイコキネシスの能力を有する望月凛だ。
あらゆるものを操ることの出来るサイコキネシスでは、地面の揺れを収めるなど容易いことだ。
揺れが収まり、攻守交代。
「今度は、こちらの番です。」
可憐は、両手を真上に掲げながら目を瞑り集中している。可憐の能力は、アイスバレット。
名の通り氷を作り出し、操る能力。
故に、掲げた手の先からみるみる内に氷が募って、また募って、やがて直径5mは、あるであろう巨大な氷塊を作り出していた。
掲げていた両手を相手方面へ振りかざし、それに連動するように氷塊が相手の懐へ投下される。
相手は、チームワークを崩してバラけていた。
そんな中、岳は、ひたすら集中していた。
この状況を打開する漆黒の影像のイメージを。心の中で何度も叫び返した。
(もっとだ!もっと強くイメージするんだ!もっと!もっと!もっとだ!)
刹那!
岳の足元から不穏な空気を纏った漆黒の影が具現化していき、蠢きはじめ、徐々に先が尖っていく。やがて、その影が無数に発生し、どんどん大きくなっていく。
「良し!可憐!凛!後ろに下がってくれ。」
イメージが完了した岳は、2人に指示を出す。2人は、タイミングを悟っていたかのように早く動き岳の後ろへ下がった。
後ろに下がったことを確認した岳は、右手を前へ突き出し呻くような声で暗闇を纏った漆黒の影像をつき動かした。
「くらえーーーっっ!」
漆黒の影は、主の命令に従うように言葉と共に前へ進み、噴煙を巻き起こしながら5人へと迫る。
相手は、電撃や、地面などを動かすが影は、微動だにせず全てを飲み尽くし、
ガキっっという鈍い音を荒げかながら五人の全身を突き刺した。
しばしの沈黙。
風も何も存在しなく、ただただ静寂な時間だけが経過する。
眼前には、身体をわななかせながら抗っている5人の男がいる。
しかし、抵抗無惨にやがて身体が、壊れたロボットのように動かなくなる。
そのまま、影が相手の死を理解したのかどうかは定かではないが、吹いた一時の風に靡いて消滅した。
身体を支えるものが無くなり、真紅の液を零しながら地面へ倒れた。
対戦が終わり、取り敢えず安堵の吐息を漏らす。
しかし、安心したのも束の間、眼前の建物が瓦解している。それに気づいた岳達は、足元で、身を疼くめている竜也を移動させて応急処置を済ませた。
それから、気絶したままの竜也をおぶって東京過疎エリアという名の戦場をあとにした。