従軍記者の日記 96
「それであなたはどうするつもりですか」
目の前の髭を蓄えた青年将校シンにクリスは尋ねていた。
「おそらくこの状況は、ゴンザレス政権になびいた背教者達の弾丸が発射された瞬間から仕組まれていた。そして我々にはその状況を受け入れることしかできない」
「それは西部戦線を突破しての帰還を果たすということですか?」
クリスの言葉に、シンはタバコをもみ消すという言葉で応じた。
「それは上層部の指示があればそう動くつもりですが、私個人としては嵯峨と言う人物に興味がある。この状況を作り出した男が何を狙っているのか、それを知らなければ次の手をこちらも打つことができないですよ」
シンの言葉にクリスはハンガーの方を振り向いた。カネミツの前部装甲板は剥がされ、駆動系部品が取り外されて冷却コンテナに収容されている。その様を見つめる嵯峨には技術者が張り付いて各部位の調整に関する説明でもしているのだろう。
「ようこそ、人民軍西部軍管区へ!」
シンに向けて言葉をかけたのは伊藤だった。シンは人民軍の政治将校の制服を着た伊藤を棘のある視線で迎えた。
「やはりその目は見たくも無いものを見たという目ですか?」
「私は無神論者とは関わりたくないんだ」
シンはそう言うと再びタバコを口にくわえる。そしてくわえた紙タバコの先に火が灯った。クリスは目を疑った。ライターを使ったわけでは無かった。それ以前にタバコにシンは触れてもいない。
「そんなに簡単に法術を見せてもいいんですかねえ」
「なあに、この程度の芸当なら地球の手品師だってやることですよ」
伊藤の言葉に笑みで答えるシン。クリスは二人がぐるになって自分をからかっているような妄想に取り付かれていた。
「パイロキネシス。遼州ではそれほど珍しい能力ではありません。ひところの自爆テロではよく使われた能力ですよ。まあこのくらいに制御できるってのは私の自慢ではありますがね」
シンは大きくタバコの煙を吸い込んだ。
「それもまた遼州人の法術の特性、『空間干渉能力』の成せる技なんだよねえ」
クリスが振り向いた先にはいつの間にか嵯峨が立っていた。
「機体のほうは?」
「ああ、やっぱり技術屋さんが乗って調整した方が早いらしいんで。それでホプキンスさん。次の出撃の時はシャムの後ろに乗ってもらいますよ」
嵯峨はそう言うとタバコを口にくわえる。彼のタバコもシンが目を合わせたときには自然に火が付いて煙を上げ始めていた。




