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従軍記者の日記 83

「そんじゃあ、出ますよ」 

 嵯峨はそう言うとコックピットハッチと装甲板を下ろした。全周囲モニターがあたりの光景を照らし出す。そんな中、クリスの視線は検問所の難民の群れを捉えた。水の配給が開始されたことで、混乱はとりあえず収束に向かっているように見えた。

「じゃあ、行きましょうか」 

 そう言うと嵯峨は四式のパルスエンジンに火を入れる。ゆっくりと機体は上昇を始める。クリスは空を見上げた。上空を旋回する偵察機は東和空軍のものだろう。攻撃機はさらに上空で待機しているのか姿が見えない。

「とりあえず飛ばしますから!」 

 嵯峨の声と同時に周りの風景画動き出す。重力制御型コックピットにもかかわらず、軽いGがクリスを襲った。

「そんなに急ぐことも無いんじゃないですか?」 

 クリスの言葉に、振り返った嵯峨。すでに彼はタバコをくわえていた。

「確かにそうなんですがね。もうブツが届いているだろうと思うとわくわくしてね。そういうことってありませんか?」 

 にんまりと笑う嵯峨の表情。

「ブツ?なにが届くんですか?」 

 クリスはとりあえず尋ねてみた。嵯峨の口は彼の最大の武器だ。その推測が確信に変わった今では、とりあえず無駄でも質問だけはしてみようという気になっていた。

「特戦3号計画試作戦機24号。まあそう言ってもピンとはこないでしょうがね」 

 嵯峨は再び正面を見据えた。北兼台地に続く渓谷をひたすら北上し続ける。相変わらずロックオンゲージが点滅を続けている。その赤い光が、この渓谷に根城を置く右派民兵組織の存在を知らせている。

「特戦計画。胡州の大戦時のアサルト・モジュール開発計画ですか?」 

 クリスのその言葉を聞いても、嵯峨は特に気にかけているようなところは無かった。

「新世代アサルト・モジュールの開発計画。そう考えている軍事評論家が多いのは事実ですがね。ただ、それに一枚噛んだ人間からするとその表現は正確とは言えないんですよ」 

 そう言い切ると灰皿にタバコを押し付ける嵯峨。

「汎用、高機動、高火力のアサルト・モジュールの開発計画は胡州陸軍工廠の一号計画や海軍のプロジェクトチーム主体での計画がいくつもあった中で、特戦計画の企画は陸軍特戦開発局と言う独立組織を創設してのプロジェクト。独立組織を作るに値する兵器開発計画。興味ありませんか?」 

 嵯峨はいつものように機体を渓谷に生える針葉樹の森すれすれに機体を制御しながら進んでいった。

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