従軍記者の日記 73
「しかし、何ですかねえ。あちらさんもにらみ合いは疲れたでしょうに」
嵯峨はようやくコックピットから降りようとしている三派連合の隊長機を見つめていた。
「人の心配をしている場合じゃ……!!」
剣を預かっていた若い兵卒が急に剣を落としそうになった。傷がつけば駆逐艦一隻分の金額を請求されると思っていた彼が無理に手を伸ばしたのが悪かった。剣は地面に転げ落ちると誰もが思っていた。
しかし、剣は滑るように地面を飛んで嵯峨の手に握られた。
「危なかったなあ。ちゃんと持っといてくれないと」
嵯峨の言葉を最後まで聞くだけの度胸のある兵士はいなかった。彼らはそのまま蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
「なんだよ。人のものが傷つくかもしれなかったって言うのにな」
「嵯峨中佐!」
クリスのその言葉に嵯峨は振り向いた。仮面の下ではいつもの困ったような顔をあるに違いない。
「見ました?」
嵯峨はそう言うとポケットを漁る。
「釣り糸、忘れたなあ」
「そうじゃないでしょ!今のはなんなんですか!」
確かに今の動きは嵯峨が剣を操っているとしか思えなかった。当然すべてを見ていたクリスにはこの芸当が手品などで無いことは分かっている。
「ちょっとしたお座敷芸。と言うことでどうです?」
嵯峨はそう言うと今度は自分の軍服のポケットからタバコを取り出して火をつける。
「それがちょっとしたお座敷芸?それなら……」
「ああ、なんならアメリカ陸軍に問い合わせてくださいよ。俺が知っている以上にあちらさんは俺のことを良く知っていますから」
嵯峨はそう言うと剣を腰の金具に取り付けた。本部のビルと思われるところで逃げ出した兵士が上官に何かを訴えているのが良く見える。
「まあ、初めて見る人には刺激が強すぎたかねえ」
タバコの煙が目にしみたクリスの表情を察して、嵯峨はタバコを携帯灰皿に放り込むと、四輪駆動車でこちらに向かってくる士官を待っているように直立不動の姿勢をとった。




