従軍記者の日記 71
「ほんじゃあ基地の隊長にご挨拶でも……」
「動くんじゃない!」
防衛隊の隊長と思われる佐官が部下の兵を盾に怒鳴りつける。
「なんすか?そんなに怖い顔しないでくださいよ。気が弱いんだから」
嵯峨がポケットに手をやると、兵士が銃剣を突きつけてくる。
「タバコも吸えないんですか?」
「タバコか、誰か」
佐官は兵を見回す。一人予備役上がりと思われる小柄な兵士がタバコを取り出した。
「遼南のタバコはまずいんだよなあ」
「贅沢を言うな!」
「へいへい」
嵯峨はタバコをくわえる。兵士の差し出したライターで火を点すと再び口元に笑みを浮かべながら話し始めた。
「あそこのお客さんは何しに来たんですか?」
兵士達が振り返る。同じように三機のシャレードは取り囲まれたままじっと周りの守備隊の動向を窺っていた。佐官は一瞬躊躇したが、嵯峨ののんびりとした態度に安心してかようやく盾代わりの部下をどかせて堂々と嵯峨の前に立つと口を開いた。
「難民の兼陽への避難の為の安全を確保しろと言うことを申し出て来ているんだ。なんなら……」
嵯峨はそれを聞くと大きく息を吸ってタバコの煙で輪を作って見せた。
「じゃあ、あんた等にレールガンの雨を降らしに来た訳じゃないんだからさ。とりあえず降ろしてやったらどうです?」
そう言って煙を佐官に吹きかける嵯峨。その態度に明らかに機嫌を損ねたように佐官が嵯峨に顔を寄せる。
「貴様に指図されるいわれは無い!」
そう言うと佐官は拳銃を抜いた。
「怖いねえ。シャム。ちょっと脅してやるから管制塔にでもレールガンを向けろ!」
佐官の顔を見ながらにやにや笑う嵯峨。
『了解!』
シャムのクロームナイトが手にしたレールガンを管制塔に向ける。
「わかった!司令官に上申するからそこで待つように!」
それを見て佐官は待機していた四輪駆動車に乗り込んで本部らしき建物に向かった。
「さてと、偉いさんもいなくなったわけだ。ちょっとは肩の力抜いた方が良いんじゃないですか」
嵯峨の言葉に戸惑う兵士達。彼らの顔を見ながら嵯峨は満足げにタバコをくゆらせた。