従軍記者の日記 68
基地を出て5分と経たなかった。
『……繰り返す!北兼軍閥の機体に告ぐ!この空域は飛行禁止空域に辺り……』
上空から現れた東和空軍の攻撃機が押さえ込むように降下してくる。
「ちょっと、はしゃぎすぎたかね」
先日の戦闘で飛行禁止条約を踏みにじられた東和空軍は神経質になっているようだった。嵯峨は高度を森の木ぎりぎりまで落とす。クリスが振り返れば、シャムも同じ高度で進行を続けている。
「ちゃんと降りましたよ」
そう言うと嵯峨は通信ウィンドウを開いていた東和軍のパイロットににんまりと笑いかけた。不愉快だと言うように通信が途切れる。
「大丈夫ですか?今の通信が共和軍に……」
「それが狙いですよ。難民から注意をそらすのが今回の作戦の目的ですから」
淡々とそう言うと、北兼台地へ続く渓谷を進む嵯峨。時折ロックオンゲージが点灯する。
「歩兵の対空ミサイルか。ずいぶんと時代錯誤なものを使ってるんだねえ」
嵯峨はそう言いながらさらに機体を加速させる。重力制御式コックピットは、そんな急加速にもかかわらず対Gスーツを着ていない嵯峨とクリスにも快適な飛行を保障していた。
「あと、五分で見えてきますよ」
嵯峨はそう言うとタバコに火をつけた。亜音速で飛ぶ四式のコックピット。いくらクリスがタバコが嫌いだからと言って換気をするわけにもいかない。思わず振り向くが、シャムの白銀の機体はぴったりと嵯峨の四式を追尾している。そこで警告が鳴り、レーダーのモニターが何かを捉えたことを知らせる。
「邀撃機、三機か。シャムこちらからは撃つんじゃねえぞ」
「わかってるよ!」
通信画面の中でいつもにない真剣な表情のシャムの姿が映っている。
「M5?おいおい、機種転換訓練もろくにしていないで。もったいねえことするねえ」
嵯峨はそう言うと目の前に現れた共和軍のM5に突進した。
「それじゃあ戦闘になるじゃないですか!」
クリスの叫びの通り、怯えたM5のパイロットはミサイルを乱射した。嵯峨はそのまま機体を上昇させる。誘導ミサイルは二発が樹に当たり爆発するが、残りの四発が嵯峨の四式を追尾してくる。
「めんどくさいねえ」
嵯峨はそう言うとチャフをばら撒き、指向性ECMをかけた。ミサイルは急に目的を失ったようにばらばらに飛び始め、地面に激突して爆発する。
「間合いがありすぎるんだよ」
嵯峨は再び機体を急降下させる。
「隊長!」
「シャム。弱いもの虐めは止めとけよ。どうせ突破できるんだから」
嵯峨はそう言うとレールガンを乱射するM5の脇をすり抜けた。
「火器の調整もしていないのに出撃とは、まったくご愁傷様だな」
そのまま嵯峨は三機の共和軍のM5を突破して共和軍の基地の上空に達した。