従軍記者の日記 67
「そんじゃあ各部チェックでも始めますか」
コックピットに座った嵯峨が計器をいじり始める。油まみれのつなぎの整備員の合図でコックピットカバーと装甲板が下ろされた。
「前部装甲に増加装甲をつけたんですか?」
微妙な前面のイメージの変化を思い出しクリスが尋ねた。
「まあね。今回の出撃は予想できた範囲内の出来事でしてね。ジャコビン!ちゃんと不瑕疵金属装甲つけたんだろうな?」
「ばっちりですよ。これならM5のレールガンの直撃の二、三発くらいならびくともしませんよ!」
開いたウィンドウの中のキーラが叫ぶ。
「二、三発ねえ、まあその程度は食らうのも作戦のうちか」
そう独り言を言うと、嵯峨はエンジンの出力を上げてみた。独特の細かい振動がコックピットを襲う。
「シャム。何度も言うが抑えて行けよ。一応、OS関係はリミッター装備で出力は上がらないことになっちゃあいるが、感応式操縦システムにはOSに依存しないシステムが組まれてるからな。あくまで抑えていけ」
「うん!わかった!」
クローム・ナイトのウィンドウにシャムの姿が映っている。当然と言うようにその後ろには熊太郎の顔も入り込んでいた。
「熊と一緒ねえ。まあ良いか。そんじゃあ出しますよ」
嵯峨はそう言うと四式を立ち上がらせた。各部に設置されていた機器がパージされる。そのまま横に置かれた220ミリレールガンを握って格納庫前で照準機器の接続を行う。クリスが全周囲モニターでシャムのクローム・ナイトを見た。白銀のその機体は初めての使用にもかかわらず同形の220ミリレールガンを使い慣れているように手持ち、嵯峨の四式に続いた。
「シャム。とりあえず低空を飛行して敵駐屯地まで進出する。あくまで今回は人道的処置が目的だ。出来るだけ敵さんには構うな」
嵯峨はそう言うとそのまま格納庫前に立つ誘導員の指示の下、パルス推進機関の出力を静かに上げて行った。
「大丈夫なんですか?彼女は」
クリスが尋ねるが、嵯峨はただ笑みを浮かべるだけだった。クローム・ナイトは隣で同じようにエンジンの出力をパルス推進機関に送っている。
「何度も言うけどエンジン出力には気をつけろよ」
そう言うと嵯峨はそのまま機体を浮上させた。続いて浮上するクローム・ナイト。
「それじゃあ偽善者ごっこ開始!」
そう言うと嵯峨は北兼台地に向けて進路を取った。