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従軍記者の日記 66

「殿下!」 

「殿下は止めてくれ、マジで」 

 シャムの言葉にそう言うと嵯峨はそのまま歩き出す。その後ろをちょこまかと民族衣装のシャムが付いて回る。懲罰兵達が新しい軍服に袖を通している脇を通り抜けようとするが奇妙な光景に懲罰兵達の視線が二人とその後ろに続くクリスに集まる。 

「隊長!何をするんですか?」 

 伊藤から声をかけられた嵯峨は一度天を仰いだ後にこう言った。

「ああ、偽善者ごっこ」 

 煮え切らない顔の伊藤を置いたまま嵯峨は歩き続ける。広場に生えた草を食べていた熊太郎も、シャムが歩き出したことを知って彼女に寄り添うように歩く。

「バスさんに伝えなくて良いんですか?」 

「ああ、別に困ることは無いでしょう」 

 クリスは振り向いた嵯峨にそう返した。ハワードのほうを見れば、懲罰部隊の兵士達と談笑を交わしているのがわかる。まだ格納庫は完成していなかったが、くみ上げられたクレーンの台座の下、嵯峨の黒い四式と白いシャムのアサルト・モジュールが鎮座していた。

「おい!ジャコビン!」 

 嵯峨は四式のコックピットに頭を突っ込んでいるキーラに声をかけた。白いポニーテールが嵯峨を見返してくる。

「隊長!ばっちりですよ。シャムちゃんの機体も隊長の指示通りのセッティングにしておきましたから」 

 キーラの額に汗がにじんでいるのがわかる。回りの隊員たちは、交換した部品の再利用が可能かどうかのチェックをしている。戦場での応急処置を機体に施す整備班員独特の緊張感が漂っていた。

「シャム、一応言っておくがエンジンは10パーセント以下の出力で回せよ。そうしないと各関節部のアクチュエーターが持たないからな」 

「でもパルス推進機関は出力上げても良いんでしょ?」 

 珍しくシャムがパイロットらしい口を利いているのにクリスは少し驚いた。

「まあ、リミッターかけてるからな。それでもあんまり出力をかけるなよ。お前さんのクローム・ナイトはエンジン出力が大きすぎるんだ。二式のお古のパルス推進機関だ。出来るだけ抑え気味で頼むぜ」 

 そう言うと嵯峨はコックピットに伸びるはしごを上り始めた。クリスもまたその後に続く。

「歩兵の支援も無しにどうやって難民の逃走路を確保するんですか?」 

 そう尋ねたクリスににやりと笑う嵯峨の顔が飛び込んできた。

「それはね……企業秘密って奴ですよ」 

 そう言うと嵯峨はコックピットの上に立った。クリスはせかされるようにして多少ましになった四式の後部座席に身を埋めた。

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