従軍記者の日記 65
「じゃあ行きますか」
そう言うと吸いかけのタバコを灰皿でもみ消す嵯峨。そのまま立ち上がると彼は書類に埋まっていた電話を掘り出した。
「ああ、俺だ。ジャコビンはいるか?」
クリスもすぐに立ち上がる。それを制すると嵯峨は受話器を持ち直す。
「ああ、そうだ。じゃあすぐに向かうから起動準備よろしく。それとシャムにも昨日言っといた作戦始めるからって伝えてくれ」
そう言うと嵯峨は受話器を置く。嵯峨はそのまま壁に掛けられた軍刀を手にする。
「どうもコイツがないと落ち着かなくてね」
そう言いながら腰に刀を帯びる。『人斬り新三』と呼ばれて憲兵隊長時代に何人と無く人を殺めてきた嵯峨の狂気を示すダンビラ。
「縁起を担いでいるんですか?」
「まあそんなところですよ」
そう言って嵯峨は隊長室を出た。
胡州浪人は別として、あまり彼は部下には畏怖の念は持たれていない。むしろいつも七厘でシャムからもらった干し肉をあぶっていたり、昼間から酒を飲んでいたりする嵯峨の態度は部下に親しまれる、それ以上に舐められているようなところがあった。そんな作戦部の隊員は笑顔で嵯峨を送り出す。そして嵯峨は軽く敬礼をしながらエレベータにまでたどり着いた。
「作戦部の隊員に伝えたんですか?」
「ああ、これは俺の独断専行だから。そんなわけでこれは俺と家臣のシャムが勝手にやったことにしといた方が後々意味が出てくるんでね」
そう言うと嵯峨は開いたエレベータの扉に入り込んでにんまりといつもの人の悪そうな笑みを浮かべた。
「ですが、アサルト・モジュール二機でやれるんですか?おそらく北兼台地の入り口には共和軍の防衛ラインがあるはずですよ。そこで足止めを食らっている難民に活路を作るなんて……」
「酔狂だと俺も思いますよ。だがね、ホプキンスさん。俺にも意気地と言うものがある。俺の名前を聞いて頼ってくる連中を見殺しにするほど俺の根性は腐っちゃあいないんでね」
もう一度悪党の笑顔を浮かべると一階に到着したエレベータから降りた。そこにはいつもの民族衣装を着たシャムが敬礼をしながら待ち受けていた。