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従軍記者の日記 64

「そう言えば先日、ゴンザレス政権支持派の民兵組織が東モスレムへの越境攻撃をかけましてね。あちらではいつ本格的な民兵の侵攻が開始されるかってことで、パニックが起きているそうですわ」 

 事実ここから東に300kmも行けばイスラム系住民の多く居住する東モスレム州にたどり着くことになる。そこでは先の大戦の時期からイスラム系住民と仏教系住民の衝突が頻発していた。その対立は共和軍の介入で本格的武力衝突へと発展した。

 ゴンザレス共和政府支持派。西モスレム系イスラム武装組織。東和に支援されたイスラム、仏教、在地信仰現住部族の三派連合の三勢力が激しい戦闘を繰り広げている無法地帯だった。逼迫した状況だと言うのに嵯峨はのんびりと構えてクリスの出方を窺っていた。

「そうすると南と西には逃げられない住民が保護を求めて逃亡していると言う事ですか。規模はどれくらいですか?」 

 クリスの言葉に耳を傾けながらも琵琶を触っている嵯峨。静かに彼は口を開いた。

「こう言う状況では次第に雪だるま式に難民は増えるものですよ。うちに協力的なゲリラ勢力には彼らの保護を指示していますからどうにか統制は取れているみたいですがね。それでも少なく見積もって一万人。多ければ五万はいるかも知れませんな」 

 この人は状況を楽しんでいるのではないか?クリスはこの事態でも平然とタバコを吸って表情を崩さない嵯峨に恐怖のようなものを感じた。

「ですが、こちらとにらみ合っている共和軍は黙って通すでしょうか?」 

「それが頭の痛いところでね。あまり優しい対応は期待できそうに無いですから。うちが見殺しにすれば地球各国に格好の兵員増派の口実を与えることになりますねえ。ようやく西部戦線で光明が見え始めたときに水を差すのは……どうもねえ」 

 嵯峨は頭を掻いている。

「護衛の戦力を出すつもりは?」 

 クリスは苛立ちながらそう尋ねた。その言葉ににやりと嵯峨は笑みをこぼした。

「ありますよ。それなりに少数精鋭なアサルト・モジュールを二機派遣するつもりでね」 

 その言葉がどうにもクリスには脳に絡みつくように聞こえた。明らかに自分とシャムで出る。そう言っているように聞こえた。

「それでは私には四式の後部座席を空けて置いてください」 

「ああ、わかりましたか。じゃあ相方もわかってるんでしょ?」 

 嵯峨はそう言うと吸いきったタバコを灰皿に押し付ける。

「シャムちゃんじゃないんですか?そのためなんでしょ?あの機体に二式の部品まで流用して整備を続けてたのは」 

 そんなクリスの言葉に笑みで答える嵯峨。

「察しがいいですね。さすがフリーで飯を食っている人は考えることが違う。ただ、非常に不満そうなのは……まあ、理由はわかりますがね」 

「あの子の心はまだ子供ですよ!それを戦場に……」 

「子供か大人か。そんなことは些細なことですよ。あいつは覚悟を決めた。戦うことを心に決めた。それが重要なんですよ。餓鬼だろうが大人だろうが、選択を迫られることは人生じゃあよくあることですよね。年齢や性別など関係ない。決めるべき時に決めた心を裏切るのは後々後悔を残すことになる。これは俺も経験してますから分かりますよ」 

 そう言うと嵯峨は再び口にくわえたタバコに火をつけた。

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