従軍記者の日記 62
「すいません!ホプキンスさん」
シャムと懲罰兵が戯れる様子を眺めていたクリスに呼びかける女性の声が届いた。振り返ったクリスの前にパイロットスーツを着た女性の姿が飛び込んでくる。
「隊長が呼んでましたよ!」
そう伝えに来たのはセニアだった。淡い青い髪をなびかせてそれだけ言うとそのまま走って格納庫の方に向かう。
「相変わらず愛想が無いな」
ハワードはそう言うと再び被服を受け取る懲罰兵の方にカメラを向けた。そう言われて思わず照れた笑いを浮かべるクリス。
「じゃあ、行ってくるか」
そうハワードに告げて、クリスは本部の建物に向かった。比較的閑散としているのは格納庫がほぼ完成しつつあり、多くがその見物に出かけているからだろうとクリスは思った。
そこで珍しく喫煙所でタバコを吸っている楠木が目に入った。
「ご苦労さんですねえ」
そう言うと楠木はくわえていたタバコを手に持った。
「ゲリラの方はどうなっているんですか?動きがあったという話は聞かないんですが」
「ああ、今は隊長が自重するようにと言ってますから。とりあえずにらみ合いですわ」
そのままタバコを灰皿に押し付ける楠木。
「近いうちに動きがあると?」
「まあそうかもしれませんがね」
そのまま腰を上げ、楠木は管理部門の方に歩き出した。クリスはそのままエレベータの前に立つ。上に上がるボタンを押して静かにエレベータが来るのを待っていた。
「どうですか?慣れました?」
そう後ろから尋ねてきたのは明華だった。この部隊の人々は妙に人に絡んでくる傾向がある。それだけ人を信じているのかもしれない、そう思いながら小柄な明華を見た。幼く見える面立ちの中にも技術班を統べる意思の強さを感じさせる瞳にクリスは少し気おされていた。
「まあ慣れたといえば慣れましたがね」
そう言うと開いたエレベータに乗り込むクリスと明華。
「そう言えば柴崎機は誰が引き継ぐんですか?予備のパイロットはいないようですが、もしかして懲罰兵から引き抜くつもりだとか……」
「私が乗る予定です」
明華はそう断言した。いまひとつピンと来ていないクリスを眺めながら明華はもう一度口を開いた。
「一応、私も二式のテストには参加していますから。あれはかなり扱いに癖のある機体ですから。それに機種転換訓練が出来るほど余裕がある情勢では無いですからね」
明華はそう言うと三階のフロアーに停止したエレベータから降りていった。