表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/183

従軍記者の日記 57

「いやあ、午後にちょっとした人員補給のイベントがありましてね」 

 嵯峨は歩きながらそう漏らした。

「この近くに村でもあるんですか?」 

 クリスのその言葉に、嵯峨はにやりと笑った

「そこのところは食事でもしながら」 

 そう言いながらもう完全に前線基地の格好を取り始めた古びた保養施設の建物に入る。

「ここの食堂の風情はそこらの軍隊には負けないでしょうねえ」 

 そんなことを言いながらエレベータのボタンを押す嵯峨。

「それでは魔女機甲隊から引き抜くんですか?」 

 そう尋ねるクリスに嵯峨は振り向くこともせずに開いたエレベータのドアをくぐる。

「いやあ、伊藤がね。良い仕事をしてくれたんですよ」 

 しばらくの沈黙のあと、言葉を選びながら嵯峨はそう言った。

「伊藤政治中尉。もしかして……」 

 エレベータの扉が開く。クリスはまじめに嵯峨の顔を覗き込んだ。

「ご推察の通り懲罰部隊ですよ。まあ、人民軍本隊は現在北天南部で反攻作戦で人手不足だ。まともな部隊を送る余裕は無いでしょうしね」 

 そう言うと嵯峨はそのまま食堂に入った。保養所のレストランであったこのフロアーには窓の外の北兼台地の眺望が手に取るようだった。

「ホプキンスさんには良いねたになりそうでしょ?」 

 まるで子供が悪戯に成功したあとのように無邪気な笑いを浮かべる嵯峨の姿がそこにあった。

「鯵の干物定食、ホプキンスさんは?」 

「とんかつ定食で」 

 食堂の人影はまばらだった。一応は最前線の基地である。先の大戦の遼南戦線の飢えをくぐった嵯峨が食事を重視していることもあって、十分な補給に支えられてこの基地は機能し始めていた。しかし、だからといって補給部隊は安全とは言えなかった。共和軍の傭兵部隊が山中に侵入したとの情報があったのは昨日。そして、補給部隊のトラックが一台撃破されたとの話もクリスは知っていた。

「しかし、懲罰部隊ですか。どうするんですか?」 

 クリスの言葉を背中に聴きながら、嵯峨は相変わらず不敵な笑みを浮かべていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ