従軍記者の日記 56
シャムは涙を拭う。
「いい子だ。泣いていたら天国のみんなが悲しむだろ?」
そんなクリスの言葉に頷くシャム。キーラと顔を見合わせたクリスにも自然と笑みがこぼれた。
「じゃあ行くよ!」
元気を取り戻したシャムは石を積み上げて造られたがけに沿った道を歩く。
「転ぶなよ!」
クリスがそう叫びたくなるほど軽快にスキップをしていた。クリスはキーラと黙って歩いていた。お互いに何かを話すべきだろうとは思っていたが、どちらも口に出せずにいた。
「ホプキンスさん?」
キーラが口を開いた。だがクリスは言葉が中々出てこなかった。
「ああ、別になんでもないよ」
たったそれだけの言葉だったが、キーラは安心したような表情を浮かべたあと、早足でシャムのほうに向かった。
「ホプキンスさん。シャムちゃんを見失っちゃいますよ!」
振り返ったキーラの言葉にクリスは笑顔を返すと、そのまま石造りの急な坂道を早足で登り始めた。
村の中央の高台。初めてここに来た時は夜でよくわからなかったが、この墓の並ぶ広場は延々と続く北兼台地の入り口を見渡せる景色のよい場所だとわかった。シャムは摘んできた花を一本一本墓に手向ける。その隣では静かに花の入ったかごをくわえて待つ熊太郎の姿があった。
泣いていなかった。シャムは泣いていなかった。
「奴は強いねえ、さすが騎士だ」
クリスは不意に後ろからの声を聞いて振り返った。嵯峨がタバコを吸いながら近づいてくる。
「ホプキンスさん。昼飯、一緒にどうですか?」
「ええ、まあ」
曖昧にクリスは答えた。確かにそんな時間になっていた。嵯峨はにやりと笑うと、そのままクリスを誘うように本部の建物に向けて歩き始めた。