従軍記者の日記 55
「ちょっと二人とも!そんな黙ってたらつまらないでしょ?」
花を摘むのをやめて口を尖らせたシャムがそう叫んだ。
「二人は仲良しさんなんだからね!キーラなんか私と居るといつもクリスさんのこと……」
「シャム!何言ってんの!」
顔を赤く染めたキーラが叫んだ。そしてそのままうつむいてじっとしている。クリスも少しばかり恥ずかしいというように目を伏せた。
「じゃあお墓まで行こうよ!」
熊太郎がくわえてきたかごに花を入れるとシャムは再び集落の方へと向かった。クリスはシャムの腰に挿された短刀と笛に目が行った。笛は山岳民族が北天の露店で売っていたありふれたもののように見えた。そしてその隣に挿してある短刀の黒い鞘が高地のきつい光に反射しているのがわかる。
「シャム。その刀は結構使い込んでいるね」
クリスのそんな何気ない言葉に、シャムは立ち止まった。振り向いた彼女の瞳が潤んでいることはすぐにわかる。彼女はひとたび目にたまった涙を拭くとまた先頭に立って歩き始めた。
「すまない。きっとつらいことがあったんだね」
「グンダリの刀」
前を向いたままシャムは答えた。
「私のね、初めてのお友達。その刀なんだよ」
シャムはきっぱりとそう言った。
「その子も亡くなったんだね」
その言葉にシャムは肩を震わせるが、気丈なことを装ってそのまま村へ続く道を歩き続ける。
「いろいろ教えてくれたんだ。グンダリ。電気が明るいこととか、車が何で走るのかとか、それに一緒に焼畑の跡地に生える花を摘んだり、村の男の子が喧嘩を仕掛けてきた時は一緒に戦ったり」
「つらいなら良いんだよ」
クリスのその言葉に、振り向いたシャムはクリスに抱きついた。彼女の涙は絶えることが無かった。
「みんな死んじゃったの!私の友達はみんな死んじゃうの!」
「そんなこと無いわよ。そんなこと」
クリスの隣に立っていたキーラが泣きじゃくるシャムの頭を撫でた。熊太郎も後ろで心配そうな声を上げている。
「もう一人じゃないんだ。泣きたいなら泣くといいよ」
クリスは胸の中で泣く幼い面立ちの少女を抱きしめた。