従軍記者の日記 52
「酷いよう。そんな私はタコじゃないよ!」
シャムが膨れる。嵯峨は頭を撫でながら言葉を続けた。
「じゃあ外人なんて軽く言わないことだな。それより早くアンパン食べてみ」
言われるままに袋を開けてアンパンを手に取る。しばらくじっと見て、匂いを嗅ぐ。首をひねり、何度か電灯に翳す。そしてようやく少しだけ齧る。
「それじゃあアンまで食えねえだろ。もっとがぶっといけよ」
嵯峨の言葉にシャムはそのまま大きく口を開けてアンパンにかぶりついた。噛みはじめてすぐに、シャムの表情に驚きが浮かんだ。そして自分の分を食べながらキーラから受け取った熊太郎の分を熊太郎の口にくわえさせた。
「慌てるな、ゆっくり食えよ。逃げはしないんだから」
何かを話そうとしているシャムをさえぎった嵯峨。シャムは安心して最後の一口を口に放り込む。
「ずいぶん必死に食ってるなあ。お前さんはどうだ?」
嵯峨が熊太郎に尋ねる。器用に両手でアンパンを持ちながら食べ続けていた熊太郎だが、嵯峨の言葉に満足げに甘い鳴き声をあげた。
「これ!これ甘いよ。すごく甘い」
食べ終えたシャムが叫ぶ。キーラは不思議な生き物を見るように驚いた表情でシャムを見つめていた。
「そうだろ。俺の騎士になるとこんなものが毎日食えるんだぜ。よかったな」
「うん!」
シャムは元気にそう答えた。熊太郎もアンパンを食べ終え満足そうにシャムに寄り添っている。
「はあ、今日は疲れたよ。ホプキンスさん達も寝た方が良いですよ。作戦初期の高揚感は疲労を忘れさせてくれるのは良いんだが、あとで肝心な時に動けなくなったりしたら洒落になりませんからねえ」
そう言うと嵯峨は二階に向かう階段を上り始めた。
「ああ、ホプキンスさん。あなたの部屋は三階になります。そう言えば伊藤中尉が……」
キーラが辺りを見回す。外の隊員に指示を出している伊藤を見つけるとキーラはそのまま走っていった。
「どうだった今日は?」
ハワードの言葉にクリスは何を言うべきか迷った。あまりに多くの出来事が起きすぎる一日。それを充実していたというべきなのか、クリスは少しばかり悩みながら、走ってきた隼に導かれて自分のベッドへと急いだ。