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従軍記者の日記 50

「そんな目で見ないでくださいよ。正直こんなにすんなり行くとは思ってなかったんですから」 

 嵯峨はそう言いながら灰皿に吸殻を押し付ける。


「じゃあなんで……」 

「ちょっとはケレンが欲しいところだったんじゃないですか?サービス精神とでも受け取ってくれればいいですよ」 

 まるで他人事のようにそう言いながらまたポケットからタバコの箱を取り出す。最後の一本。嵯峨はそれを慎重に取り出すとゆったりとソファーの上で伸びをした。 

「それにしても、彼女は何者なんですか?この村が攻撃にさらされたのは二十年近く前になるわけですけど、彼女はどう見ても10歳くらいにしか……」 

 嵯峨はクリスの言葉を聴きながらタバコに火をつける。そしてそのまま一服すると、クリスの顔を覗き込んだ。

「遼州の伝説の騎士。初代皇帝太宗カオラの剣」 

「そんな御伽噺を聞こうと……」 

 そう言うクリスに嵯峨は皮肉めいた笑みを浮かべた。

 かつて地球人に発見されたばかりの遼州は乱れていた。小規模な国家が乱立、それが中世を思わせる剣と盾を振りながらの戦い。そこに宇宙を行き来する地球の軍隊が到着すればたとえ彼等が紳士的な考えの持ち主だったとしてもすぐにそれらの国々が併呑されたのは当然と言えた。その後の棄民政策でだまされるようにして移民してきた人々、それを憂いて決起した軍人。そして資源を求めて移住した技術者達。彼等は手をとり東和・胡州・ゲルパルトなどの国家を築いて地球勢力からの独立を目指した。

 そしてその中心には遼州の巫女カオラの姿があり、後に彼女の夫となる騎士の姿があった。そして巫女カオラを守護する七人の騎士。独立を果たし役目を終えた騎士達は民草にまぎれて消えていった。そして同じく国家の形がなるにいたったところで初代皇帝となった巫女カオラの姿も忽然と消えていたと言う。

 だが、それが当時の混乱した遼州の伝説に過ぎないとクリスは思っていた。事実当時の書類の類は多くが永久非公開書類扱いだった。二つの人類の和を乱す『パンドラの箱』。この決定を下した国連事務総長の言葉が今でも残っている。

「じゃあどう言えば納得してもらえますかね?あいつは今ここにいる、そしてあの墓は確かに二十年前の虐殺の跡。これははっきりしていることですよね?まあ米軍にでも頼んでみじん切りにして研究すればわかるでしょうが……連絡しますか?」 

 そのどこか見るものを恐怖させるような視線を見たクリスは、黙って嵯峨の口から吐き出された煙に目を移した。

「あいつも一人の人間だ。たとえどういう生まれ方をしようが関係ないでしょ。太宗カオラはこう言ったそうですよ。『その身に流れている血が遼州の流れの血であろうと地球の流れの血であろうと遼州に生き、この地を愛する心を持つものであればすべて遼州人である』って」

 嵯峨の顔が一瞬真剣になる。クリスは黙って目の前の男を見つめていた。

「あなたは太宗の理想を実現するつもりなのですか?」 

 そのまじめな瞳にクリスはそう言うしかなかった。

「俺を買いかぶらないでくださいよ。俺はそれほど清廉潔白な生き方はしちゃあいません。ただ、俺にも意気地というものがある。こんなふざけた戦争をとっとと終わらして、あの餓鬼にも普通の生活を遅らせてやりたいと言うくらいの良識はもってるつもりですがね」 

 そう言う嵯峨が視線をクリスから廊下に移した。そこにはさっぱりした表情のシャムとキーラ、そして熊太郎がいた。

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