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従軍記者の日記 48

 クリスとキーラがぼんやりとシャムの消えていった廃屋を眺めていると、闇の中から現れたシャムが行李を一つ、熊太郎の背中に乗せて現れた。

「じゃあ、シャムちゃん後ろに乗って」 

 キーラの言葉にばたばたとシャムは四輪駆動車の後ろに乗り込んだ。クリスも再び笑顔を取り戻したシャムを見て安心しながら助手席に乗り込む。

「回収部隊が出るみたいね」 

 キーラは車を切り返しながら、本部のある建物の前でアサルト・モジュール搭載用の二両のトレーラが出発する有様を見ていた。クリスは黙り込んでいた。

 虐殺の痕跡。その疑いがあるところには何度か足を踏み入れたことはあった。アフリカ、中南米、ゲルパルト、ベルルカン、大麗、そして遼南。その多くがすでに軍により処理が済んでいる所ばかりだった。下手に勘ぐれば命の保障は無い。案内の下士官や報道担当の将校はそんな表情をしながら笑って現場を案内していた。

 しかし、クリスはこの場所に来てしまった。戦場を渡り歩いてきた勘で二十年前、この村を襲った狂気を想像することはたやすかった。四輪駆動車は急な坂道をエンジンブレーキをかけながら下りていく。

「隊長が戻ってきてるみたいね」 

 キーラの言葉通り、闇の中にそびえる黒い四式がライトに照らされていた。その隣では資材を満載したトラックから鉄骨が下ろされ、突貫工事での格納庫の建設が行われていた。

 車はそのまま本部を予定している保養施設の建物の横の車両の列の中に止められた。

「着きましたよ」 

 キーラの声にクリスは我に返り、手にした携帯端末のふたを閉じた。連隊規模の部隊の移動である。本部の前は工兵部隊の指揮官らしい男が部下に指示を与えていた。腰に軍刀を下げているところから見て胡州浪人上がりだろう。キーラが後ろのハッチを開けて中からシャムと同時に熊太郎が出てくるのを見て少し怯えたような表情を浮かべる。

「大丈夫ですよ。この子、結構賢いみたいですから」 

 キーラはそう言いながら熊太郎の頭を撫でた。熊太郎も警戒することなく、甘えたような声でキーラの手を舐め始めた。

「ジャコビン曹長!ホプキンスさんは?」 

 本部の建物から早足で歩いてきた伊藤がキーラに声をかける。キーラは何も言わずにクリスを指差した。

「コイツが熊太郎か。ずいぶんおとなしい熊だな」 

 伊藤はそう言うと熊太郎から距離をとりながらクリスの方に歩いてくる。微妙に引きつったその顔がつぼに入ったのか、キーラが噴出した。

「何だね、曹長!」 

「いいえ。ではジャコビン曹長は地元ゲリラへの尋問を開始します!」 

「尋問?」 

 シャムが不思議な顔をしてキーラを見上げた。

「たいしたことは無いわ。ちょっとシャワーを浴びながらお話を聞かせてもらうだけだから」

 そう言うとキーラはシャムと熊太郎を連れて本部の建物に入ろうとした。

「ジャコビン曹長。その熊も連れて行くのか?」 

 相変わらずおっかなびっくり熊太郎のほうに視線を走らせている隼がこっけいに見えて、クリスも噴出してしまった。

「何か不都合でも?」 

「いや、いい。さっさとシャワーを浴びてきたまえ!」 

「でわ!」 

 キーラは敬礼をするとそのままシャムと熊太郎を連れて本部の建物の中に消えた。

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