従軍記者の日記 47
速度を落とした四輪駆動車は、村の中心の井戸の手前で止まった。
「着きましたよ」
キーラの言葉をどこと無く重く感じながらクリスはドアを開いた。すぐに目に留まったのは目の前にある塔婆のような石の小山だった。それは一つではなかった。遼州の月、麗州の光にさらされるそれは、広場一面に点在していた。
そしてその一つ一つに花が手向けられていた。
「墓……ですか」
クリスはそう言うのが精一杯だった。キーラはクリスの隣に立つと静かに頷いた。
「これは全部あなたが守ってきたのよね」
淡々と言葉を発したキーラに静かにシャムが頷いた。
「みんな死んじゃったの。南から一杯、兵隊が来て、みんな殺していったの」
シャムはそのままうつむいた。そこに涙が光っているだろうということは、クリスにも理解できた。
「北兼崩れ。ホプキンスさんもご存知でしょう?うちの隊長が遼南の軍閥達に担ぎ上げられて、遼北と南都と激突した事件のこと」
聞くまでも無いことだった。遼南で戦場を取材しようと言う人間なら誰でも知っているこの地の動乱の最初の萌芽。無能な父帝を倒すべく立ち上がった幼い王子、ムジャンタ・ラスコーの物語。
「しかし、待ってくださいよ。それは二十年も前の話じゃないですか。彼女は生まれてないはずですよ……!!」
クリスはすぐさま涙を拭いてクリスを見つめているシャムをまじまじと見つめた。
「彼女、ラストバタリオンですか?」
キーラ達人造人間には老化と言う変化が存在しない。機能が麻痺して次第に衰えるだけ。それならばシャムと名乗る少女の姿も納得できた。
「まさか。私達の製造がなされたのは先の大戦の末期。確かに私達は老いの遺伝子を持ち合わせてはいないけど」
キーラはそう言うと悲しげに笑った。遼州の外惑星に浮かぶコロニー群で構成されたゲルパルト帝国。彼らが地球と戦端を開いたのは十年前。もしこの塔婆の群れが作られたのが北兼崩れの時期と言うことならば、『ラストバタリオン』と呼ばれた人造人間の研究の完成の前にシャムはすでに生まれていたことになる。
「そこらへんは専門家にでも調べてもらいましょう。それよりシャムちゃん」
キーラは肩を震わして涙しているシャムに顔を近づけた。
「シャワー浴びましょうよ。そんなに汚い格好してたらこのお墓の下に居る人達も悲しがるわよ」
「うん。じゃあ着替え、持ってくる!」
そう言うとシャムは熊太郎を連れて藁葺きの屋根の並んでいる闇の中に吸い込まれていった。
「ホプキンスさんも疲れたんじゃないですか?伊藤中尉が部屋を用意しているはずですから、シャムちゃんが帰ってきたら本部に戻りましょう」
キーラはようやく笑顔に戻った。