従軍記者の日記 45
「熊なのは見ればわかるんだ。そうじゃなくて名前のこと聞いてるんだがね」
シャムは首をひねる。しばらく考えるが、答えが出てこないと言う様に嵯峨の顔を見つめている。
「もしかして無いのか?」
「無いと困るの?」
再びシャムは不思議そうに嵯峨の顔を覗き込んだ。
「そりゃあそうだろう。他の熊と混じった時とか区別つけなきゃいけないわけだから」
「じゃあ無い」
あっさりとそう言い切るシャム。さすがの嵯峨も呆れたように頭に手を当てた。しばらくの沈黙。嵯峨は擦り寄ってくる熊の頭を撫でながらひらめいたように話し出した。
「じゃあ熊太郎。熊太郎でいいだろ?強そうで」
「うん!それがいいね!熊太郎、こっちにおいで」
熊太郎と名づけられた熊はそのままシャムのところにやってくる。
「隊長。そんないい加減に決めちゃって良いんですか?」
シャムの隣に立って熊太郎の頭を撫でている明華がそう言うのは当然のことだとクリスは思っていた。
「いいじゃん。なんか本人も気に入っているみたいだし。ああ、この場合は本熊か?」
「馬鹿なこと言わないでくださいよ。もしかしたら熊太郎ちゃんは女の子かも知れないのに。シャム、この子は男の子?女の子?」
「女の子だよ!」
全員の視線が嵯峨の方に向く。嵯峨はごまかすようにタバコをくゆらせながら白いアサルト・モジュールのコックピットを眺めている。
「ああ、これはちょっと掃除した方がいいなあ……」
「掃除なら隊長の機体のほうをお願いしたいですね。キーラ!この子達を本部に連れてってシャワーを浴びさせてあげて」
「了解しました。シャムちゃん。車に乗ったことある?」
シャムはキーラが指差す車を不思議そうに眺めている。
「ジャコビン曹長、私も同乗させてもらっていいかな?」
クリスはそう言うとキーラに軽く頭を下げた。キーラは笑顔で頷くとシャムを後ろのハッチから乗り込ませた。
「隊長!俺のことは何とか言わないんですか!」
柴崎が御子神に支えられながら歩いてくる。その足首が反対方向に曲がっていることから見て骨折していることは誰の目にも明らかだった。
「ああ、早速負傷者一か、面倒だねえ。ああ、そうだ。ホプキンスさん。俺、五機は敵機落としましたよねえ!」
嵯峨の叫び声に四輪駆動車の助手席に乗り込むところだったクリスは頷いた。
「スコアーお前にやるわ。これでお前もエースだから入院しても個室に入れるぞ」
「ああ、そうですか。ありがとうございます」
柴崎はいまいち納得できないような顔をして到着したばかりの四輪駆動車から下りてきた衛生兵の抱える担架に乗せられていた。
「それじゃあ行きますよ、ホプキンスさん」
キーラはそう言うと急いでドアを閉めたクリスを乗せて本部への道を走りはじめた。




