従軍記者の日記 42
着陸した御子神機がレールガンを構えながらじりじりと柴崎機に組み付いている白いアサルト・モジュールに近づく。
「馬鹿か!発砲したら柴崎に当たる。とっとと組み付け!セニアもついてやれ!」
嵯峨の言葉にレールガンを捨てた御子神の二式が白いアサルト・モジュールに組み付いた。しかし、白い機体は止まろうとしない。御子神機を振りほどき、さらに柴崎機のコックピットに右腕を叩きつける。
「セニア、手を貸してやれ!いざとなったら俺も組み付く」
振りほどかれた御子神機、それにセニアの機体が絡みつくとさすがに動きが鈍くなる。
「助けてください!嵯峨中佐!」
相変わらず涙目で懇願する柴崎。サーベルの届くところまで来た嵯峨はそのまま白い機体見つめていた。その圧倒的なパワーはクリスの想像を絶していた。これほどの出力を出せるアサルト・モジュールなど聞いたことが無かった。
「ちょっと待ってろ!」
嵯峨はそう言うと白いアサルト・モジュールの右足の付け根にサーベルを突き立てた。白い機体はバランスを崩し倒れる。絡み付いていた御子神、セニアの機体がもんどりうって倒れこんだ。
「おい!柴崎。生きてるか?」
「ええ、まあ……イテエ!」
柴崎の悲鳴が響く。ばたばたとバランスを崩して逃げようとする白いアサルト・モジュール。セニアと御子神は関節を潰しにかかる。だが、抵抗は衰えるようには見えなかった。そこに増援として森の中からホバー二機が現れた。
「海上、少し待て。とりあえず御子神とセニアがそいつを拘束するまで……」
タバコに火をつけた嵯峨の言葉が切れる前に白いアサルト・モジュールのコックピットが開いた。小さな影が中に動いているのが分かる。
「子供?」
クリスは驚きの声を上げた。開いたコックピットから身を乗り出して辺りを見回すのは、ぼさぼさの髪の十歳くらいの子供だった。
「海上!撃つんじゃねえぞ」
ホバーから飛び出していく機動歩兵部隊を制止した嵯峨は四式のコックピットを開いた。彼は朱塗りの鞘の愛刀長船兼光を手に、そのまま地面に降り立つ。クリスもまたその後に続いた。ホバーから歩兵部隊隊長で先の大戦からの嵯峨の部下である海上智明大尉に率いられた部隊が銃を構えて白いアサルト・モジュールを取り巻いた。その後ろにはハワードがカメラを構えてコックピットの子供を撮るタイミングを計っていた。
「とりあえず下りろ!」
兵士の一人が子供に銃を向けた。
「おいおい、待てよ。餓鬼相手にそんな本気にならなくても」
嵯峨はそう言うと歩兵部隊に銃を下げるように命じた。
「おい、ちびっ子。言葉はわかるか?」
「ちびっ子じゃない!アタシはナンバルゲニア・シャムラード!青銅騎士団団長だ!」
ぼろぼろの山岳民族の衣装を着た少女はそう叫んだ。