従軍記者の日記 40
「あいつ等も戦闘経験は積んでるんだがねえ」
嵯峨は一人つぶやくと火線の行きかう戦場へと低空を突っ切りながら進む。
「みんなあなたのように戦えるわけじゃないでしょう」
そんなクリスの言葉に、皮肉のこもった笑みで振り返る嵯峨。
「また、無理させてもらいますよ!」
火の付いていないタバコをくわえながら、嵯峨は敵の背後に着地した。共和軍のマーキングを取ってつけたような塗装の一式は背後に一機、警戒のために残してあった。
「コイツはアメリカ組だな!」
そう言うと嵯峨はタバコを手にとって胸のポケットに戻した。格段に動きの違う三機の一式。嵯峨の『アメリカ組』の意味は米軍との軍事交流でアメリカでの訓練を経験したエースと言うことなのだろうとクリスは推察した。
動きだけではなく、嵯峨の激しい機動を持ってしても死角を取ることが出来ない。嵯峨の四式はフレーム以外の部品がすべて換装されているとはいえ、先の大戦末期に開発された古い機体である。胡州が輸出用に5年前に開発した一式に比べれば性能面の差は歴然としていた。
「おい!御子神!もっと一機に火線を集中しろ!」
「しかし!このままでは柴崎が!」
「浩二!テメエは下手なんだ!逃げて囮になれ!」
嵯峨はそう言いながら後方に陣取った指揮官機らしい一式の射撃に耐えていた。
「セニア!まだそっちは片付かないか!」
「動きは止めました!どうにか……うわ!」
今度は明らかに驚いた表情のセニア。クリスも突然の出来事に目を見開く。
「ブリフィス大尉!」
御子神の叫び声が響く。
「動きを止めても油断するな!下手に情けをかければ死ぬぞ!」
嵯峨はそう言うと、背後に気配を感じたように振り向いた敵一式に強襲を掛けた。虚を突かれた一式はレールガンを向けようと振り返ったが、それは遅すぎた。嵯峨の四式のサーベルがコックピットに突き立てられる。
「上には上がいるんだ。あの世で勉強しな!」
一式はそのまま仰向けに倒れる。嵯峨は地図を見た。明らかに残り二機の敵の動きが単調になった。
「御子神。そいつ等お前にやろうか?」
「大丈夫です!柴崎!俺に続け!」
御子神と柴崎の二式が遅れていた共和軍の一式を捉えた。
「じゃあ、残りは俺が食うかねえ」
そう言うと嵯峨は敗走する一式の到達予測地点へと愛機を進めた。