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従軍記者の日記 38

「ずいぶんと森が深くなりましたね」 

 クリスは退屈していた。食事を済ませ、こうして森の中を進み続けてもう六時間経っている。時折、嵯峨は小休止をとり、そのたびに端末を広げて敵の位置を確認していた。敵は北兼台地の鉱山都市の基地に入り、動きをやめたことがデータからわかった。

「なるほど、あちらも持久戦を覚悟しましたか」 

 そう言って笑った嵯峨だが、正直あまり納得しているような顔ではなかった。

「あと三十分で合流できそうですね」 

 嵯峨はそう言うと吸い終わったタバコを灰皿でもみ消した。

「この森には、人の手がまるで入っていないみたいですけど。なにかいわれでもあるのですか?」 

 クリスは変わらない景色を眺めながら、自分用の端末で今日の出来事を記事にまとめ終わると嵯峨にそう尋ねた。

「遼南王家にはこんな言い伝えがありましてね。初代女帝ムジャンタ・カオラが地球人移民達と独立のために立ち上がった時、この森に眠っていた騎士の助けを借りて戦ったと。その騎士はまるで幼い少女のような姿でありながら、一千万の地球軍に立ち向かい勝利した。独立がなりカオラが即位すると、騎士は再びこの森に帰り長い眠りについた。まあ良くある与太話ですよ」 

 そう言って皮肉めいた笑いを浮かべる嵯峨。

「なるほど、そんな話があっても不思議ではない森のたたずまいですね」 

 感慨深げにモニターの外を見るクリス。

「なあに、実際今じゃあ『悪魔の森』と呼ばれて遊牧民も近づかない秘境ですよ。共和軍の兵隊も本音はここに入り込みたくな……!」 

 嵯峨は不意に機体に制動をかけた。

「なんですか?」 

「敵さん動きましたね。相手も頭を使ったってことですか?」 

 そう言うとすばやく四式のサーベルを抜いてモニターに地図を表示させる。

「この動き、新手だな。しかも配置は悪くない。それなりの手だれが隠れてたってわけですか」 

 嵯峨はしばらく敵の動きを待っていた。地図上のレーダーで捕らえた敵アサルト・モジュールの他に北兼軍の機体を示す笹に竜胆のマークが三つ動いている。

「セニア、御子神、柴崎か。対して相手は七機。行くしかないか!」 

 そう言うと嵯峨は一番手前の敵を示すランプの方へと機体を向けた。

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