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従軍記者の日記 32

「なっちゃいねえ。まったくなっちゃいねえな!」 

 突然の黒い機体の襲撃に耐えられないというように寄り合う敵97式改に、嵯峨は容赦なく弾丸を浴びせる。次々と火を噴く敵。眼下には恐怖し逃げ惑う敵兵が見える。

「なんだよ……逃げるの?もうちょっと踊ってくれないとつまらねえな」 

 嵯峨はわざと敵のミサイル基地の上空に滞空する。当然のように発射されるミサイル。それを紙一重でかわすと、ミサイル基地に四式の固定武装であるヒートサーベルをお見舞いする。ミサイルを乗せた車両が一刀両断される。担当の敵兵は泣き叫びながら爆発から逃れようと走り始める。

「これじゃあまるで弱いもの虐めだ。感心しないねえ」 

 そう言うとミサイル基地の司令部があると思われるテントに榴弾を打ち込む。火に包まれる敵陣地。そこで急に嵯峨は機体を上空に跳ね上げる。徹甲弾の低い弾道が、かつて嵯峨の機体があった地点を低進してバリケードを打ち抜く。

「どこまでも同じ場所にいる?そんなアマチュアじゃないんだよ!」 

 嵯峨はすぐさま森の中にレールガンを撃ち込んだ。三箇所でアサルト・モジュールのエンジンの爆発と思われる炎が上がる。

「まあ、こんなものかね」 

 クリスはこの戦闘の間、ただ黙ってその有様を見つめていた。共和軍の錬度は高いものでは無いことは知られている。特にこうして最前線の穴埋めに回されてきているのは親共和軍の軍閥の予備部隊か、金で雇われた傭兵達である。一方、嵯峨は先の大戦で相対した遼北機動部隊から『黒死病』と異名をとったエースの中のエースである。はじめから勝負は見えていた。

「確かにこれは弱いものいじめ、もっと悪意を込めて言えば虐殺ですね」 

 皮肉をこめてクリスがそう言う。嵯峨は振り返った。その狂気と獣性をはらんでいるような鈍く光る瞳を見て、クリスは背中に寒いものが走るのがわかった。

「そう言えば腹、減ったんじゃないですか?」 

 不意に嵯峨がそんなことを口にする。敵前衛部隊は嵯峨一機の働きで壊滅していた。反撃する気力すらこの前線部隊の指揮官達には残っていないことだろう。

「まあ、すこしは……」 

「敵支援部隊が到着するまで時間がありそうですから、そこの小山の下でレーションでも食べますか」 

 そう言うと嵯峨はそのまま先ほど徹底的に叩きのめしたミサイル基地の隣の台地に機体を着陸させた。

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